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2024.05.01

小泉純一郎、大谷翔平、指原莉乃…大物政治家を指導するスピーチライターが分析する“勝つ”話し方

大手企業のエグゼクティブのスピーチ指導もしているカエカ千葉佳織氏に、多くのビジネスパーソンが抱えている話し方の悩みと、その解決法について迫った第1回。続く第2回では、最年少市長である髙島崚輔氏の選挙の舞台裏や、千葉氏が考えるスピーチが上手い日本人について聞いてみた。【他の記事を読む ※順次公開】

カエカの千葉佳織氏

“歴代最年少市長”が当選した舞台裏

灘高等学校から東京大学に進学。その後、アメリカの名門大学であるハーバード大学に留学し、2023年に兵庫県・芦屋市の市長に就任した髙島崚輔氏。弱冠26歳で全国歴代最年少市長になった実力者だが、スピーチライターである千葉佳織氏のもとを訪れた時には、話し方に関してある“悩み”があったそうだ。

「髙島さんが初めてkaekaにいらっしゃった際、相談されたことは“声の高さ”でした。声が高いとより一層、若いイメージになる。もちろん、若いことがポジティブに働くこともあるのですが、ご本人は、政治家という視点で考えた場合“頼りない“印象になってしまうのではないか、と気にかけていました。

kaekaを訪れていただくお客様は、ご自身の話し方の問題点がわからずにいらっしゃる方が多いのですが、髙島さんはそこまで自己分析をされてから相談に来られました」

カエカの千葉佳織氏
千葉佳織/Kaori Chiba
1994年、北海道生まれ。15歳から弁論をはじめ、全国弁論大会3度優勝、内閣総理大臣賞獲得。大学卒業後はDeNAに入社し、同社初のスピーチライター事業を立ち上げ、登壇社員の育成や社長のスピーチ執筆などの課題解決に取り組む。2019年にはカエカを起業し、話し方トレーニングサービス「kaeka」の運営を開始。2023年、東洋経済新報社「すごいベンチャー100」、Forbes JAPAN「次代を担う新星たち 2024年注目の日本発スタートアップ100選」に選出。著書に『話し方の戦略』(プレジデント社)。

しかし、20代という若さで市長を志す髙島氏へのトレーニングは、選挙ならではの難しさがあった。

「2023年の芦屋市長選では、元タカラジェンヌの中島香織さんや、朝日放送テレビの元アナウンサーである大塚展生さんなど、他の業界で経歴を積んできた方々も出馬されていて、選挙の結果が読めない状態でした。

でも、髙島さんが他の候補者に比べて若いという事実は変わらないので、堂々と威厳のある話し方になるよう意識しました。あとは、腹式呼吸で全体に響く声量にしながら、より低い声が出るように指導したり。会場の後ろにいる人にも伝わるジェスチャーとか、即興でも上手い演説ができるよう練習したりして」

レッスンの結果、トレーニングを受けた次の日から、髙島氏のもとには「すごく伝わるようになった」という有権者の声が。また、SNSでも「こんな候補者の想いが伝わる演説は聞いたことがない」と大きな反響があったという。

そんな千葉氏の指導の甲斐もあり、髙島氏は芦屋市の市長選で見事当選。史上最年少の市長としてメディアにも大きく取り上げられるようになった。

選挙で当選する政治家の共通点

芦屋市の市長選だけでなく、富山県知事選や品川区長選など、有権者の数が多い大規模な選挙でも多くの候補者のサポートをしてきた千葉氏。そんな選挙戦のプロフェッショナルに、選挙で当選する候補者の共通点を聞いてみた。

「自分のことをしっかり理解して、政治家としてのビジョンを伝えられる人。あとは、やはり有権者とのコミュニケーションがうまく取れる人が選挙に強いと思います。例えば、支持者ひとりひとりに握手をして、応援してくれることへ感謝を言葉にするとか。

想いが伝わってくる政治家は、自然と応援したくなりますよね。政党や派閥の力が大きいと言われる日本であっても、候補者が話し方を意識することで形勢逆転することもできる。そのくらい話し方には大きな力があるんです」

カエカの千葉佳織氏
さまざまなメディアで取り上げられてきた千葉氏。某テレビ番組では、タレントのフワちゃんにスピーチ指導をしたことも。

また、“誠実さ”も選挙演説をするうえで重要な要素のひとつ。

「コミュニケーションにも“誠実さ”はあると思います。例えば、3分間のスピーチを求められた時に、10分以上かけて自分の話をしてしまう人は、聞く側のことが見えていない、どこか独りよがりな印象を与えてしまいます。

『とりあえずこんな話をしておけばいいか』と、その場しのぎの話をする人も、いつかは有権者に見透かされてしまいます。なので、常に相手ありきで話すことを考え、自分が本当に言いたいことを整理しながら、適切に言語化にできる人は、話し方にも誠実さが表れてくるのではないでしょうか」

ただ自分の政策や信念を語るだけでなく、話す場や聞く人の状況を見極めながら話を作り上げていく。それは政治家だけでなくビジネスパーソンにも通ずる、信頼される人の話し方の秘訣なのだろう。

小泉純一郎の演説はなぜ聴衆にウケる?

日頃からメディアに出ている著名人の話し方を分析しているという千葉氏。政治家や経営者、お笑い芸人、タレント、時にはスポーツ選手に至るまで、さまざまな業界で活躍する人の話し方の特徴を見つけ出し、自身のメソッドに取り入れているのだとか。

そんな千葉氏が考えるスピーチが上手い人物とはどんな人なのだろうか。

「経営者だとやはりトヨタ自動車の豊田章男会長ですね。輝かしい実績があるのに、株主総会で自らのことを“泣き虫社長”と言える自己開示力。また、身振り手振りを付けて自身のビジョンを語るエンタメ性。そういった点でも、豊田さんはスピーチに長けていらっしゃると思います。

政治家の方では、小泉純一郎さんが印象的です。小泉さんの演説は、よく聞くと『ですます調』と『だ・である調』が入り混じっていて。『ですます調』だと聞いている人へ配慮が伝わり、一方で、『だ・である調』だと心の底から思っている言葉を語っている印象を与えます。

例えば、『これは解決しないといけない問題だ! だからこそ、こういったことが重要なんです』と、異なる口調を組み合わせることで説得力が増す。そうやって口調を巧みに使い分けていることが、小泉さんのスピーチの力なのだと思います」

江頭2:50と指原莉乃に学ぶスピーチのコツ

さらに、千葉氏が思わず唸る話し方がうまいスポーツ選手やタレントも挙げてもらった。

「大谷翔平さんがWBCで『憧れるのをやめましょう』と語った言葉。自分たちが憧れてきた選手が目の前にいるけど、私たちはこれから対等に戦うんだということを伝えて、自分たちのやるべきことを明解にしている。チームの目標を指し示し、メンバーを鼓舞する話し方って簡単にはできません。

あとは、お笑い芸人の江頭2:50さんが、代々木アニメーション学院の入学式で行ったスピーチ。普通なら『今日は伝えたいことがあります、入学おめでとうございます』と話すところを、『お前らに一言もの申す!………入学おめでとう』と、わざと数秒間の間を開けている。

次にどんな言葉が来るんだろうと思わせるのも、エンターテイナーとしての話の上手さのひとつですよね」

有名人だからではなく、話す内容や伝え方に人の心を惹きつける力があるから、多くのメディアに取り上げられる。そう語る千葉氏には、もう一人、話しが上手いと感じる人物がいるという。

「タレントの指原莉乃さんは、自らの“強み”と“弱み”の開示が素晴らしいです。AKB選抜総選挙で4回も1位を獲得されているのに、スピーチで自身を“ブス”と表現したり、『どうか私を1位として認めてください』と呼びかけたり。あえて自分を下げることで、周りへの感謝を表しながら当選の喜びを語っていました。

これは、政治家の方も使っているやり方で、大阪府知事の吉村洋文さんや橋下徹さんも、草の根から活動してきたことを話すことで、効果的に自分たちの弱みを開示しています。立憲民主党の枝野幸男さんや野田佳彦さんにも見られる、実はスピーチの技術のひとつだったりもします」

※続く

TEXT=坂本遼佑

PHOTOGRAPH=古谷利幸

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