放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
4月から新社会人になる皆さん、受け入れ側のリーダーポジションの皆さん、心の準備はできていますか?
今週は、これまでにNSC(吉本総合芸能学院)から巣立った約1万人の教え子に伝えてきた「社会で生きるコツ」を皆さんにもシェアしてみたいと思います。
目上からのアドバイスは、ぜんぶ「話半分」で聴こう
社会という「海」に出ると、たくさんの大人がたくさんアドバイスをしてきます。
あなたという「船」に、上司や先輩という名の、いろんな「船頭」が乗ってきて、いろんな港へ連れていこうとします。
A上司は「君らしくやればいい」と言い、B先輩は「長い物には巻かれろ」と言うなど方向はバラバラです。
特にクリエイティブな職場では、船頭のクセは強くなります。お笑い界を例にあげると、Aプロデューサーは「漫才はおもしろいけど、ボケとツッコミが逆じゃない?」と言ったり、B作家は「漫才よりコントが向いてる」と言ったりするんです。
彼らはみんな“アドバイスすることが仕事”なので悪気はありません。しかし、目上の人のアドバイスをすべて真に受けていたら、どこの港にもいけないし、あなたは沈没してしまいます。
僕の経験だと、まじめにメモをとり、すべてを実行しようとする新人ほど、ある日、心がポキリと折れて辞めていくことが多いです。
なので僕は、「目上からのアドバイスは、ぜんぶ話半分で聴け」と伝えています。相手がどんなに偉くても「すべて×0・5で受けとれ」とも言います。
ただし、そのときに大切なのは“その場で顔に出さないこと”。
アドバイスをされたら「なるほど! ありがとうございます」とピュアな顔で受けとり、帰り道に「自分には合ってないな」と感じたら捨てればいいんです。
「会社」が「社会」だと勘違いしないこと
次に、あなたが入った「会社」が、そっくりそのまま「社会」だと思わないでください。
新社会人は、初めて入った組織で、ビジネスの基本や礼節など“あらゆる初手”を学ぶので、「会社=社会」だと思い込み、“会社の常識が社会の常識なんだ”と錯覚しがちです。なかには、ブラックな上下関係さえも「これが常識だ」と我慢する新人も出てきます。
もちろん、会社にはそれぞれの育成・指導方針があり、それ自体が間違っていると言っているのではありません。
しかし、自社の知見に基づいて、新人に最善のメニューを差し出しても、パクチーが口に合う人と合わない人がいるように、すべての人にマッチングするとは限らない。
そう、“あなたが選んだ「職業」は合っていても、「組織」が合わない”こともあり得るんです。
なので僕は、吉本興業の社員さんがいる前でも、「吉本が合わないと思ったら他事務所に行く。それを前提にプロになろう」と伝えています。
生徒の多くはポカンとしていますが、この14年で、事務所を移って活躍している教え子は20人以上います。
ポジに企画して、ネガに練習して、ナメて実行する
最後は実践。僕が新社会人を送り出すときに伝える「仕事をうまくやる3つのステップ」です。
①ネタ作り(企画・立案)はポジティブに立てよう
②稽古(資料作成・データ収集)はネガティブにやろう
③いざ本番(プレゼン・商談)になったらナメてやろう
これはどんな仕事でも有効で、まずは“望遠鏡で遠くを見るような感覚”でポジティブに企画を立て、次は“顕微鏡で調べるような繊細な感覚”で情報をかため、本番では「自分は有能なんだ」と“うぬぼれる感覚”で挑む。これが効率的かつパフォーマンスを上げるコツです。
とくに、②は苦労するステップですが、どうか周りを頼ってください。同期や先輩に感想や意見を求めると“自前の顕微鏡では見つからないポイント”にも気づきやすくなります。
ちなみに、人気の女性漫才師・ヨネダ2000も、M‐1決勝でやった「餅つき」のネタは、「練習の段階で、同期の令和ロマンたちから助言をもらった」と教えてくれました。
そう、「一流」になっていく人ほど、“「競争」より「協力」したほうが物事はうまく進む”ことを知っているんですね。