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2024.03.19

“世界一の朝食”bills創始者・ビル・グレンジャー【まとめ】

イギリス『The Times』紙で“世界一の卵料理”と絶賛され、空前のパンケーキブームを巻き起こした「bills」。その創業者であり、2023年12月25日に54歳でこの世を去ったビル・グレンジャー氏のインタビューを振り返る。 ※2017年6月、2021年6月掲載記事を再編。

ビル・グレンジャーまとめ

1.「世界一の朝食」がロンドンの食を変えた! :ビル・グレンジャー

ビル・グレンジャー氏

フレンドリーな雰囲気は、昔のままだ。貫録を感じるのは、少し伸びたヒゲのせいだろうか。ビル・グレンジャーは、10年前にオーストラリアのシドニーで初めて会った時と変わらない、爽やかな笑顔で出迎えてくれた。

当時、彼は3店舗のカフェを経営していた。「bills」という名のそのカフェは、シドニーらしい開放的で居心地のいい空間だった。スクランブルエッグやパンケーキなどの朝食を目当てに、地元客はもちろん、オーストラリアにやってきたハリウッドスターなども足を運ぶことで、話題になっていた。

いわく「世界一の朝食」。確かにプルプルのスクランブルエッグやリコッタチーズをたっぷり使ったパンケーキは、それまで食べたことのない美味しさだったし、そういった朝食メニューと朝昼晩でメニューを変えるオールデイカジュアルダイニングというコンセプトも新鮮だった。

「日本を旅していた時、素敵なカフェやレストランがたくさんあった。それにインスパイアされて、シドニーに気持ちのいいカフェを開きたいと思ったんだ」

そんなふうに語っていた1年後の2008年、神奈川県の七里ヶ浜の海沿いに「bills」の日本1号店がオープン。名物のリコッタパンケーキが大人気となり、日本中にパンケーキブームを巻き起こした。

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2.初上陸から13年。bills創始者が日本で確固たる地位を築く理由

ビル・グレンジャー氏
©Anson Smart

オーストラリア・シドニー発のオールデイダイニング「bills」が、海外一号店を日本にオープンしたのは、2008年のこと。以来、横浜、お台場、表参道など日本で8店舗を展開するほか、ロンドンやハワイ、ソウルにも店を構え、現在5ヵ国で20店舗をオープン。流行廃りの激しい飲食業界にあって、確固たる地位を確立している。

日本に上陸当初、とくに話題になったのが、フワッとした口溶けの「リコッタパンケーキ」だ。この味を求め「bills」に行列ができるのみならず、後を追うようにハワイやニューヨークなどの有名店が続々と進出。日本にパンケーキブームを起こした火付け役としても知られる。その人気レストランを創ったのが、レストランターのビル・グレンジャー氏である。

海外初出店の場所に日本を選んだのは「日本が大好きだから」と話すグレンジャー氏。

「大学時代に日本を訪れ、文化や風土、そして“人”に魅せられたんだ。妥協せず、完璧を目指す伝統工芸の在り方や、細やかな気遣いが宿る文化など、私自身の価値観や生き方と共通しているところが多々あるし、たくさんの刺激を受けてもいるよ。現在私はロンドンに住んでいるけど、パンデミックが終わったら、すぐにでも日本に行きたい! それくらい日本が好きなんだ」

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3.経営経験ゼロからbills創始者が「King of Breakfast」と呼ばれるまで

©Mikkel Vang

大学でアートや建築を学んでいたビル・グレンジャー氏が、シドニーの住宅地、ダーリング・ハーストに最初のレストランをオープンしたのは1993年、23歳の時だった。実家が牧場を所有し、祖父が精肉店を営んでいたこともあり、かねてから起業に関心を持っていたという。

「学生時代、アルバイトでカフェのキッチンで働いていたのだけど、それがとても楽しかった。食が好きで、インテリアにも興味があり、人と接するのも楽しい。そのすべてに関係するレストランの経営は、私にとって自然な流れだったんだ」

もっとも正式に料理を学んだこともなければ、経営の経験も皆無。いきなり自分の店を立ち上げるのは、少々無謀な気もするが。

「失敗するリスクはもちろん考えたけど、それよりチャレンジしたいという気持ちの方が強かったね。祖父に資金を借り、掘り出し物の物件を見つけ、とにかくやってみようと。それに、万が一失敗しても、若かったので、いくらでもやり直しはきくと思っていたよ。当時はまだ、守るべき家族もいなかったからね。The glass is either half empty or half full. コップの水理論で言えば、僕は『まだグラスに半分も水がある』と考える方。昔も今も、家族からはスーパーポジティブだと言われるよ(笑)」

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4.パンデミックの先を見据えたbills創業者が描く未来

©Mikkel Vang

リピーターが絶えない人気店とはいえ、コロナ禍の今、「bills」もかつてない苦境に断たされている。日本での営業時間短縮はもちろんのこと、シドニーやロンドンでは、ロックダウンで休業を余儀なくされた。その中で、充実を図ったのがテイクアウェイとデリバリーだ。

「ロンドンでも、ロックダウンが始まってからロンドンの“Granger&Co”というレストラン名を文字った“Granger&Go”というネーミングで独自のデリバリーサービスを始めたんだよ。専用のサイトをつくり、レストランスタッフが直接デリバリーし、2マイル圏内限定で温かいお料理などを提供している。これが、予想以上に好評で、お客さまから嬉しい声をたくさんいただいているんだ」

日本国内の全8店舗では、テイクアウェイサービスを開始。従来のドリンクメニューに加え、2020年5月からフードメニューも提供。公式サイトでオーダーから決済まで行えるようにするなど、極力非接触でオーダーが可能だ。

「パンデミックの中で私が再認識したのは、billsというレストランは、お客さまが来てくださってこそ成り立つものだということ。billsは、料理だけでなく、店のロケーション、雰囲気、サービスなどを通じて、いつもと違う体験をしていただくためのレストラン。お客さまの存在は、店にとって欠かせない、大切なピースのひとつなんだ」

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TEXT=ゲーテ編集部

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