放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
「好きを仕事にする」は正しいのでしょうか?
そんな質問をいただきました。
この問いは、YouTubeが「好きなことで、生きていく」というCMを流した約9年前から、ネットで議論されはじめ、いまだに生徒からもよくされる質問の1つです。
今週は、この長年にわたって相談者を生んでいるテーマについて、僕なりの考えを披露してみたいと思います。
「正しいか? 正しくないか?」の議論が「正しくない」
ネット上には、「好きを仕事にするべき!」という「正しい派」と、「好きを仕事にするな!」という「正しくない派」の意見や記事があふれています。
しかも最近は、極論をぶつと耳目が集まるので、どちらかに偏った弁が増えています。
しかし、僕に言わせれば“そもそも、正しいか? 正しくないか? の二元論が正しくない”のです。
なぜなら、「好きを仕事にする」の良し悪しは“人による”から。
「好き」を仕事にして、ストレスなく働いている人もいれば、「あまり好きじゃなかった」を仕事にして、「好き」を見出した人もたくさんいるからです。
「正しいか? 正しくないか?」で語るのは、「好きな人と結婚することが正しくて、お見合い結婚は正しくない」と言っているくらい乱暴な議論です。
大切なのは、
①ネットの極論に振り回されず“人による”“どちらでもない”という第三の答えを採用する。
②他人の意見は、あくまで自分なりの解へたどりつく“補助線”とする。
まずはこれを頭に入れて、一緒に問いを深めていきましょう。
「好きを仕事にする」に待ち受けるリアル
「好き」を仕事にする利点は、やはり“やりがい”です。
ビジネスで重要なことは“やっている「仕事の大小」ではなく「意欲の大小」”なので、好きを仕事にすると、やりがいも持続しやすくなります。
また、職場には同じ趣向をもつ人々が集まるので、おのずと人間関係も良好になるケースも多いです。
しかし、ディズニーランドに出かけたら行列を覚悟するように、あなたの「好き」は多くの人の「好き」でもあるので、競争率も上がります。
例えば、芸能界に憧れる人は多いですが、僕が見守ってきた芸人学校の生徒1万人のうち、現在「好き」を仕事にできている教え子は1%ほど。
残りの9900人は、業界を去ったり、あまり好きじゃなかった仕事を生業にしていたりします。
また、ある元教え子は、当時、「社会の歯車になりたくないから芸人を目指した」と言っていました。
彼は今でも「好き」を貫いて芸人をやっていますが、生きていくために日雇いバイトの日々。
そう、気づけば「社会の歯車」になっていたりする。こういった現実も知らないといけないと思っています。
「あまり好きじゃないを仕事にする」のリアル
いっぽう、「好きではない仕事に就く」場合の難点は、なかなか「おもしろさ」を見出せないことです。
人生における仕事時間の割合は3割ほどですが、おもしろくない時間は、それなりのストレスが伴います。
しかし、子供のころは嫌いだったトマトやレバーが、いつの間にか好きになるように、「好きじゃない」という“マイナス”の感情から入ったものは“プラス”になる幅が大きいので、「好き」を見出しやすくなります。
僕も、第一志望の「芸人」にはなれず、あまり気乗りしないまま「芸人を育てる側」の仕事に就きましたが、やっていくうちに、「おもしろさ」や「やりがい」を見つけ、いつの間にか周囲から「天職ですね」なんて言われています。
天から授かった職に就く「天職」の人もいれば、「転職」をすることで天職に出会う人もいるし、あまり好きじゃなかった職に就いて、その仕事の楽しさがゆっくり身体に伝わっていく「伝職」によって天職になる人もいる。
なぜ、「正しいか? 正しくないか?」で語るのは愚問なのか。少しはお分かりいただけたのではないでしょうか?
それでは、また来週お逢いしましょう。