明朗快活な美声で放つ「Don’t worry!」と裸芸で、世界中を明るくした男の現在とは。【特集 最上級主義2024】
パンツ1枚で世界まで行った男
パンツ1枚で世界へ――2023年春に放送された英国のオーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』で持ち前の「安心してください、はいてますよ」の英語ネタで大旋風を巻き起こし、日本人初となる決勝進出を果たしたTONIKAKUこと、とにかく明るい安村。
その後、フランス、イタリアほかでも人気を博し、凱旋帰国(!?)した夏以降は日本国内でもブームが再燃。MC TONYとしてリリースした楽曲のMVが250万再生を突破し、さらに来年には可動フィギュアにも。年末には新語・流行語大賞に二度目のノミネートを果たし入賞するなど、“世界のTONIKAKU”としてエンタメ界に明るい話題を振りまいた。
だが、当の本人は、「いまだにピンときていなくて」と、いたって冷静にその状況を振り返る。
「まったく想像もしなかった一年になりましたよね。『ブリテンズ・ゴット・タレント』も、最初は別の芸人が出場するはずだったとあとから聞きましたし。自分が出ると決まった時は、完全に旅行感覚でした。ステージで披露するネタも特別に変えず、英語でやることとイギリスの有名人にネタを寄せるぐらい。ただ、いざ演(や)ったら客席の熱量に圧倒されました。日本ではお客さんが立ち上がることはまずないし、これまでの人生であれほどウケたこともなかったので(笑)」。
海外で日本以上に喝采を浴び、しかも辛辣な評価を下すことで有名な審査員全員の爆笑をかっさらっての高評価に対しても、
「さまざまな思いを胸に出場する挑戦者の濃密さに審査員もまあまあ疲弊していたんでしょうね。そこに、なんの背景もないおじさんの裸芸がハマったんです」と、ある意味達観した感さえあるが、最初のブレイクから現在までの道のりをたどれば、それも納得だ。
「自由にやれる場所があれば満足」
2000年に組んだコンビを2014年に解散。ピン芸人として再出発した翌年に「安心してください、はいてますよ」の決め台詞で一躍人気者に。一発芸はすぐに飽きられるというジンクスを横目に、仕事がコンスタントに継続していったのも、その人柄と持ち前の明るいキャラクターゆえのこと。「最上級の笑いとは?」という本誌からの問いにも、現状にまったく驕(おご)ることなくこう答える。
「お笑いの世界では、漫才、コント、ピン芸人ときて、裸芸人はその下。やはり勢いとパワーのある漫才が、現在の日本のお笑いの最上級だと思います。謙虚でもなんでもなくて、実際にそうなんです。もちろん、若い頃はギラギラした部分もありました。裸芸でブレイクした後も、このまま売れてゴールデン番組のMCにと思ったことも。でも今は、天下を取ってやろうという力みはなくなって、自由にさまざまなことをやれる場所があれば満足だと思うようになりました」
とはいえ、欲がまったくないというわけではない。海外での成功を足がかりにオーディション以外の仕事の可能性を探りつつ、来年にかけてドイツ、台湾、イギリスと世界を精力的に飛び回りライヴを行う予定だという。
日本には、身体以外に資本を持たない“裸一貫”という言葉があり、さらに身ひとつに多大な値打ちがある“裸百貫”という名言もある。彼にはそれにプラス、パンツという武器がある。
「Don’t worry, I’m wearing pants」――世界のTONIKAKUは2024年も最上級の安心と明るさを届けることを追い求め続ける。
この記事はGOETHE 2024年2月号「総力特集:最上級主義 2024」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら ▶︎▶︎特集のみ購入(¥499)はこちら