「Don’t worry, I’m wearing pants(安心してください、はいてますよ)」で二度目のブレイクを果たし、2023年末には新語・流行語大賞で選考委員特別賞を受賞。授賞会場に寄せたビデオメッセージで「ネタの内容はひとつも進化していません」と明るく言い切ったその言葉には、「ありのまま」な彼ならではの仕事への向き合い方が投影されている。
持ちネタは変わらずとも、再ブレイクを果たしたその強さの源とは
「僕は何事も“他人まかせ”なところがあって、そもそもお笑いの道に進もうと思ったのも、幼馴染に一緒にやろうと誘われたから。自分でこうしたいという意思はあまりなくて、流れに身を任せてここまで来た感があります。相当周りに助けられているんでしょうね。みんながなんとかしてくれているので、それは本当に良かったです」
海外の有名なオーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』で日本人初のファイナリストにまで登り詰め、凱旋帰国後は日本国内でも再ブレイク。その勢いで2023年は、MC TONYとして楽曲「PANTS」をリリースし、驚異の270万回再生を記録。アイコンとなったパンツ姿は人気シリーズの可動式フィギュアともなり、メディアへの露出も格段に増えた。人気の再加熱とともに仕事の幅も広がる充実ぶりで多忙な毎日を送る安村だが、そんな外野の盛り上がりを当の本人はいたって冷静に振り返る。
「僕自身、一年前にはまったく想像もしていなかったことなので、未だに実感がないんです。『ブリテンズ・ゴット・タレント』はもともと他の芸人が行くはずでしたし、披露したネタも、現地に少し寄せて英語で演(や)るぐらいで、別段変えていません。ステージに出た瞬間も、最初はなんの反応もなくて、そこからネタを続けていくうちに盛り上がってきて。人生であんなにウケたことがなかったので、すごく気持ちよかったです(笑)。そこから決勝まで行き、おかげさまで日本でも大きな話題になりましたけど、仕事がすごく増えたかというと、それまでも普通に仕事はしていたので、爆発的にという振り幅ではなかったです。そういう状況もあって、あまりピンと来る感じがないんだと思います。まあ、ドカンという振れ方は前に一回経験していることなので、二回目だから落ち着いていられるというのもあるかもしれませんね」
頑張ったのは、コンビを解散したあとの一回だけ
もともとはコンビとしてデビューし、2014年の解散後に、ピン芸人として始動。翌年の「第13回R-1グランプリ」で決勝進出を果たし、「安心してください、はいてますよ」で人気に火がついた。以来、裸芸オンリーで仕事を順調にこなし、「一発芸は飽きられる」という長年のジンクスをも見事に跳ねのけてみせた安村。さぞや、日々不断の努力を重ね続けてきているのかと思いきや、本人は「いやいや、本当に何も考えてないんですよ」と、仕事も私生活もその姿勢はいたってナチュラルだ。
「仕事のターニングポイントと呼べるものがあるとすれば、コンビを解散する時ですね。解散直後は『まずは売れなきゃヤバい』と、ちょっとだけ頑張りました。でも頑張ったのは、その一回きりです(笑)。世代的にもギリギリで芸人枠に滑り込んだ年齢でしたし、裸芸だからという卑屈な感じもまったくなくて。売れてから“服を着たい””裸じゃない部分も見てほしい”と思った時期も少しはありましたけれど、自分が思っているほど周りは期待してないし、長い人生で考えたらどうでもいいことのように思えて。そのうちにどっちでもいいやと思うようになりました」
ピン芸人として再始動してからは、来るオファーをすべてといっていいほど受けたため「忙しすぎて、ちょっと精神崩壊しそうだった」ぐらいまで追い詰められたこともあったという安村。そんな当時の過酷な経験を踏まえ、その後は仕事の依頼も意識して取捨選択をし、安定したメンタルをキープ。その人柄の良さや堅実な仕事ぶりも相まったことで、テレビ番組などのレギュラーも獲得。予想外といえる二度目のブレイクを果たした現在も、自分らしいペースを保てていると語る。
「僕の場合は、一回バーッと売れることを経験したというのが良かったんでしょうね。みなさんそうだと思いますけれど、忙しすぎると嫌なことも多すぎるので、余裕がなくなってくるんですよ。年齢を重ねた今は、自由にやれる場所があればいいかなという感じに落ち着きました。自分は、健康のために特別に何かをするということもないし、決まったルーティンや体型維持のためにトレーニングとかもまったくやってない。今の時期は冷えたスタジオで待つのだけはキツいですけれど、足元に毛布をかけてもらうのも情けなく見えそうで断っています。本当にひどい生活ですよ。このままいけば、パンツじゃなく『尿もれパッド、つけてますよ』とか『おむつ、はいてますよ』というパターンになっていきそうです(笑)」
決して無理をせず、ありのままで流れに身を任せる。不安定な世情や将来への漠然とした不安など、次から次へと心配事が湧き出してくるこのご時世では、ある意味こういった達観した姿勢も必要になってくるのかもしれない。なにはともあれ、とにかく明るい安村のはちきれんばかりの笑顔とありのままの姿が、我々に変わらない「安心」を今後も与えてくれるのは間違いない。