テニス女子で元世界ランキング1位の大坂なおみ(26歳・フリー)が2024年シーズンから競技に復帰した。2023年7月に第一子となる女児を出産。産休が明け、2024年1月1日に行われたブリスベン国際の1回戦で約1年3ヵ月ぶりにツアー大会でプレーした。1月14日に開幕した全豪オープン(メルボルン)で4大大会にも復帰。ママとして世界一を目指す挑戦が幕を開けた。連載「アスリート・サバイブル」
「オープンな人間になったと思う」
表情は穏やかになり、笑顔も増えた。産休が明けて競技に戻ってきた大坂なおみは出産前とは別人のように見える。
以前はプレーしている時以外はヘッドホンを付けて自分の殻に閉じこもることが多かったが、復帰後は他の選手、関係者らにもオープンに接している。
「私は前よりも強くなった。少なくとも、以前見せていた弱気とは違う。復帰してからヘッドホンもしなくなった。もっとオープンな人間になったと思う」
2022年9月の東レ・パンパシフィック・オープンを最後にツアーから離れ、2023年7月に第1子となる女児を出産。ヘブライ語で「贈り物」を意味するシャイと名付けた。
妊娠中はつわりに苦しんだ時期もあったが、ウォーキングや軽い負荷の筋力トレーニングを継続。コートでの練習は2023年10月に再開した。
「今はシャイのためにプレーしたいと思っている。テニスの最初の章で、私はありのままの自分で、本能のままにプレーすることに成功した。これからはもっとテニスを理解できる人間になりたい」
ツアー復帰戦で手応え
大坂は2023年12月31日開幕のブリスベン国際で約1年3ヵ月ぶりにツアー大会に出場。2024年1月1日の1回戦で世界84位のタマラ・コルパチュ(28歳・ドイツ)に6-3、7-6でストレート勝ちし、復帰戦を白星で飾った。
2回戦で元世界1位で第16シードのカロリナ・プリスコバ(31歳・チェコ)に6-3、6-7、4-6で敗れたが、確かな手応えを得た復帰大会となった。
「いいプレーができたと思う。いい試合だったし、楽しかった。この大会の2試合で自分が大丈夫だと分かった。このままトレーニングを積んでいけば、なりたい自分になれると思う」
2024年1月14日に開幕した今季4大大会第1戦の全豪オープン(メルボルン)にも出場。2019、2021年に頂点に立った思い入れの強い大会で、開幕前の会見では「(メインコートの)ロッド・レーバー・アリーナでボールを打っただけで、空を見上げただけで、ここで2回勝ったことを思い出す。また優勝したい」と語っている。
セリーナ・ウィリアムズも成し遂げていない偉業へ
現在は4大大会をはじめ、大きなツアー大会では会場に託児所が設けられ、選手はもちろん、コーチや家族も子供を預けることが可能。
ママさん選手をサポートする体制は整っているが、大坂は娘の健康や生活環境を最優先し、2023年12月下旬のオーストラリア入り後は娘と離れ離れの生活を送る。
2024年はゲーム体力、試合勘を戻すためにも積極的に大会に出場する方針。世界を転戦するため娘と会えない時間も増える。
「本当にツラい。離れている間に、娘はたくさんのことを学んでいる。私が帰るまで(初の)ハイハイはしないでほしい」と複雑な心境も吐露した。
1968年のオープン化以降で出産後に4大大会を制したのはマーガレット・コート(オーストラリア=1973年全豪、1973年全仏、1973年全米)、イボンヌ・グーラゴング(オーストラリア=1977年全豪、1980年ウィンブルドン)、キム・クライシュテルス(ベルギー=2009年全米、2010年全米、2011年全豪)の3人しかない。
大坂が尊敬するセリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)も成し遂げていない偉業だが「もっと4大大会を勝ちたいし、パリ五輪にも出たい」と意欲を見せる。目標はママでもV。4大大会通算4勝を誇る元女王の新たな挑戦が幕を開けた。
大坂なおみ/Naomi Osaka
1997年10月16日大阪生まれ。ハイチ出身の父レオナルド・フランソワ氏の指導で3歳の時にテニスを始め、米国へ移住。2013年に15歳でプロに転向した。2018年3月のBNPパリバ・オープンでツアー初優勝。4大大会は2018年9月の全米オープンで初優勝を飾り、通算4勝。身長1m80cm、右利き。
■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。