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2023.06.22

国枝慎吾が後継者に認めた世界ランク1位の17歳「車いすテニス界は彼が中心に」

車いすテニスの小田凱人(17歳・東海理化)が2023年6月12日に発表された世界ランキングで1位の座に就いた。国際テニス連盟(ITF)によると、17歳35日で頂点に立つのは、アルフィー・ヒューエット(25歳・イギリス)の20歳54日を大幅更新する史上最年少記録。2023年1月に現役引退した国枝慎吾(39歳)の後継者と期待される逸材は車いすテニス界を引っ張る気概に満ちている。連載「アスリート・サバイブル」とは……

車いすテニス全仏OP優勝・小田凱人

史上最年少でグランドスラム制した小田凱人

2023年1月に世界ランキング1位のまま現役引退した国枝慎吾がラケットを置いてからわずか半年。再び日本人が世界1位の座に就いた。

2023年6月11日に閉幕した全仏オープンの車いすの部の男子シングルス決勝。第2シードの小田凱人(おだときと)が第1シードのアルフィー・ヒューエットに6―1、6―4でストレート勝ちして初優勝を果たした。

17歳33日での優勝は4大大会最年少記録で、2017年全仏オープンを19歳186日で制したヒューエットの記録を更新。大会後に発表された世界ランキングでもヒューエットを抜いて1位となった。

全仏オープンの優勝インタビューで、小田は「これから僕が(車いすテニスを)もっともっと盛り上げて、さらに大きいスポーツにしていく」と宣言。弱冠17歳にして、第一人者の覚悟を示した。

大会中の会見では海外メディアからの質問に流暢な英語で対応。TikTokを駆使して独学で英語をマスターするなどコート外での努力も光る。

2つの最年少記録が懸かった全仏オープンに照準を合わせた小田は前哨戦の出場を回避して、国内での準備を優先。滑りやすく独特な技術が必要なクレーコートに対応するため、溝の深いタイヤに変えてチェアワークを強化した。

渡欧前には前回王者の国枝に頼み、一緒に練習した。小田にとって4大大会通算50勝(シングルス28勝、ダブルス22勝)を誇るレジェンドは競技を始めるきっかけにもなった憧れの存在だ。

現役引退前はライバルでもあったため、練習を共にする機会はなかったが「引退されて少しお願いしやすくなったので、勇気を出してお願いしました」。

直接会った際に申し入れると「いーよ」と快諾してくれたという。

現役時代は4戦全敗。練習中のゲーム形式の結果は明かさなかったが「めちゃめちゃ強かった」と改めてその偉大さを実感した。

過去1勝6敗、3連敗中だったヒューエット対策に悩むなかで「そんなに考えすぎなくていいんじゃない?」と助言を受け、強打が武器の自身のスタイルを貫くことを決断できたことも大きかった。

17歳・小田凱人の覚悟

小田は9歳で骨肉腫を発症。左足が不自由になり、大好きなサッカーを諦めた。

入院中に主治医からさまざまなパラスポーツを紹介され、動画サイトで調査。2012年ロンドン・パラリンピックで国枝が金メダルに輝く映像に魅了され、テニスを選択した。

病気を乗り越えて世界一になったが「病気は人生の分岐点だったが、乗り越えるべき壁という感覚ではなかった。自分のなかではプラス。車いすテニスは障害がなければできないスポーツ」と強調。

「何か一つ頑張ることができれば病気が武器に変わる。自分のように骨肉腫にかかった少年少女には“そんなに悪いことではない”とプレーや発言で伝えたい」と視線を上げた。

全仏オープンの会場ローランギャロスは自身の名前の由来となった凱旋門があるパリに位置する。

2024年に同じ会場で実施されるパリ・パラリンピックにも弾みをつけ「国枝選手が車いすテニスに注目してもらいやすい環境をつくってくれた。自分も、もっともっと盛り上げたい。見てもらえれば、驚いてもらえるようなプレーはするつもりでいる」と決意を込めた。

2022年10月、当時現役だった国枝は「これから車いすテニス界は彼(小田)を中心に回っていく」と予告。引退を決めた直後には小田に直接電話して「これからの車いすテニスは凱人が引っ張ってくれ。後は頼む」と伝えている。

レジェンドの期待にたがわぬ成長曲線を描き、小田は一気に頂点に上り詰めた。今後、どのような物語を紡いでいくのか。17歳のレフティーの前には無限の可能性が広がっている。

小田凱人/Tokito Oda
2006年5月8日、愛知県一宮市生まれ。9歳の時に左股関節に骨肉腫が見つかり、サッカーから車いすテニスに転向。2020年に18歳以下の世界一決定戦「世界Jr.マスターズ」に14歳で出場してシングルスとダブルスで優勝。2022年4月28日に車いすテニス国内最年少の15歳11ヵ月20日でプロ転向。4大大会デビューとなった2022年6月の全仏オープンで4強入り。2022年10月30~11月6日にオランダ・オスで開催されたNECマスターズで史上最年少優勝を果たす。身長1m75cm。

 
■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

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TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=Panoramic/アフロ

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