ドバイに渡り活躍する、日本のビジネスパーソン。職種や渡航の経緯はさまざまだが、みんなが口を揃えて「思い切ってドバイに来てよかった」と言う。今回は、鮨職人の杉山将大氏がドバイを選び、そこで働く理由に迫った。【特集 熱狂都市・ドバイ】
日本流のおもてなしで“正統派の江戸前鮨”を伝えたい
2017年某日、「パレスホテル東京」の名店「鮨 かねさか」で働く杉山将大シェフの元に、オファーが届いた。年末にニューオープンする「ブルガリ リゾート ドバイ」で、鮨店をやってみないか――。
「ドバイに招待されて、開業前のホテルを見学。人気があるという鮨店にも行ってみたんですが、決して正統派の鮨とは言えませんでした。当時は日本の職人がやっている鮨店はほぼなく、僕がやればドバイの人たちに日本の本当の鮨を知ってもらうことができるかもしれない。そう思い、店のコンセプトや使う食材、スタッフの人選など、すべて任せてもらうという条件でオファーを引き受けたんです」
ブルガリの宝石のイメージから「Hōseki」と名づけられた店は、2018年にオープン。カウンター9席と、12名まで利用できるプライベートダイニングルームを用意した。使う魚や米はすべて日本から取り寄せるため、豊洲市場の仲買人と毎日のように連絡を取り合っている。
「日本とドバイの時差は5時間なので、お店が深夜0時に閉店すると日本は朝の5時。市場に連絡するのにちょうどいいタイミングなんです。使う魚は日本で働いていた時とまったく変わっていません」
コースはおまかせのみ。ドバイでも人気の筆頭はマグロで、ノドグロや太刀魚といった高級魚もよく出る。
「日本人は新鮮なネタが好きですが、海外では生魚へのイメージが日本とは違うこともあり、こちらではネタをあえて熟成させることもあります。それとドバイはイスラム教圏の国なので、お酒やみりんが使えない。そこを上手に工夫して、日本と変わらぬ味を提供するのが腕の見せどころです」
「ブルガリ リゾート ドバイ」は、ドバイ屈指のラグジュアリーホテルだ。「Hōseki」を目当てに宿泊しに来る人も多く、「あるお客様からは、驚くほどの金額のチップを渡されたこともあります(笑)」と、ドバイならではのスケール感を味わうこともあるという。しかし、それは金額相応の体験に対する感謝であり、リスペクトの表れでもあるのだ。
また、杉山シェフは“日本”に強いこだわりを持っており、働くスタッフ10名はすべて日本人。接客のマニュアルはなく、ゲストに合わせたサービスをその場で判断し、和の心でもてなす。ただ鮨が美味しいだけではなく、スタッフの細やかな気配りに感動するからこそ、お店のファンが増えていくのだろう。
今ではドバイNo.1鮨店の呼び声も高い「Hōseki」。杉山シェフの握る鮨は、今日も輝きを放ち続けている。
My Dubai Episode
10ヵ国語の「ありがとう」でコミュニケーション
開店当初は、言葉の面で苦労していたという杉山シェフ。「お客様のなかには英語を話せない方もいるので、コミュニケーションを取るために10ヵ国語くらいの『ありがとう』や主な魚の名前を覚えました」
Favorite Item
ホーセキ/Hōseki
住所:Jumeira Bay Island, Jumeira 2
営業時間:13:00~(木曜~日曜)、18:00~/20:30~(水曜~日曜)
TEL:4-777-5433
座席数:カウンター9席、個室1室12名
定休日:月曜・火曜 ※完全予約制
dine@bulgarihotels.com
この記事はGOETHE2023年12月号「総力特集: ヒト・モノ・カネが集まるドバイ」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら