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2023.11.01

野村克也が古田、矢野を変えた言葉「原点に!」の意図とは

戦後初の三冠王で、プロ野球4球団で指揮を執り、選手・監督として65年以上もプロ野球の世界で勝負してきた名将・野村克也監督。没後3年を経ても、野村語録に関する書籍は人気を誇る。それは彼の言葉に普遍性があるからだ。改めて野村監督の言葉を振り返り、一考のきっかけとしていただきたい。連載「ノムラの言霊」20回目。

野村克也連載第20回/困ったときは「原点」に戻れ

村上宗隆の「流し打ち本塁打」に復調の兆し 

2023年ペナントレース、村上宗隆(ヤクルト)の成績は惨憺(さんたん)たるものだった。

過去8人の三冠王が出ているが、「三冠王翌年の成績」としては史上最低だった。過去の三冠王の翌年の成績は「シーズン最多」に近い、なにがしかの成績をマークしている。

落合博満(ロッテ→中日)とバース(阪神)が三冠王翌年の1987年に無冠に終わっているが、これは1986年三冠王がセ・リーグに2人顔をそろえた熾烈なバットマンレースだったことも一因だ。

それでも落合の打率.331は、その年の首位打者・篠塚利夫(巨人)・正田耕三(広島)に2厘差の2位。バースの37本塁打も1位・ランス(広島)に2本差の2位だった。

2023年村上の31本塁打は2位とはいえ、1位・岡本和真(巨人)に10本差と離され、逆に168三振はダントツのリーグ最多だった。

過去の三冠王翌年の成績
・中島治康
1938年秋(29歳)→1939年全試合出場

・野村克也
1965年(30歳)→1966年本塁打王、打点王

・王 貞治
1973年(33歳)→1974年三冠王→1975打点王

・落合博満
1982年(29歳)→1983年首位打者
1985年(32歳)→1986年三冠王→1987年125試合143安打、打率.331、28本塁打、85打点、51三振

・ブーマー
1984年(30歳)→1985年最多安打

・バース
1985年(31歳)→1986年三冠王→1987年123試合145安打、打率.320、37本塁打、79打点、70三振

・松中信彦
2004年(31歳)→2005年本塁打王、打点王

・村上宗隆
2022年(22歳)→2023年140試合127安打、打率.256、31本塁打、84打点、168三振

シーズン前のWBC練習でダルビッシュ(パドレス)から本塁打を打ったが、大谷翔平(エンゼルス)の打撃練習を見て自信喪失したことが村上のスランプの要因だと言われている。

そんな村上でも、ペナントレース中に復調の兆しを見せ、さすがと思わせたのは、「左方向への流し打ちの本塁打」だった。

その原点は熊本東リトルシニア時代にある。ライト方向には民家の小屋があり、屋根を破壊してしまうので、意識して左方向に打っていた。

野村克也は言う。

「スランプ脱出法は反対方向に打つことだよ」

反対方向に打つということは、0コンマ何秒か、「球をよく見て投球を引きつける」ということだ。理にかなっているのだ。

青木宣親の野球人生を変えた「三遊間に転がして走れ」 

同じヤクルトで言えば稀代のヒットマン、青木宣親(ヤクルト)はどうだろうか。

青木が在籍時、早稲田大学は2002年春季リーグから初の4連覇をマークした。

1番・田中浩康(ヤクルト2004年ドラフト自由枠)、2番・青木(ヤクルト2003年4巡)、3番・鳥谷敬(阪神2003年自由枠)、4番・比嘉寿光(広島2003年3巡)、5番・武内晋一(ヤクルト2005年大学社会人希望枠)、6番・由田慎太郎(オリックス2003年8巡)の強力打線。

同期で、鳴り物入りで早稲田大学入りした鳥谷は、在籍中の全試合にスタメン起用され、結果的にリーグ通算96試合、打率.333(345打数115安打)、11本塁打、71打点を記録している。2度の首位打者のタイトルも獲得した。

一方の青木は身長175センチ、高校時代に肩を痛め、投手から外野手に転向。ストロングポイントはミート力と俊足であった。

通算58試合、打率.332(190打数63安打)、0本塁打、20打点。高校3年秋に首位打者のタイトルに輝いているが、鳥谷との成績は比べるまでもない。大学時代、鳥谷を視察に来たヤクルトスカウト陣が青木に着目し、ドラフト指名につながった。

プロ2年目の2005年にシーズン200安打を放って首位打者、3年目は盗塁王、4年目には初の20本塁打に2度目の首位打者と、青木はスターダムを駆け上った。

そんななかでも、不調時には打撃フォームをことあるごとにマイナーチェンジしていた。早稲田時代、当時の野村徹監督に青木はアドバイスされたという。

「『お前の一番の長所は足だ。三遊間に転がして、走れ!』。不調時は僕の打撃の原点に立ち戻ります。あの言葉が、僕の野球人生にとってのターニングポイントでした」

三浦大輔ら投手の原点は「外角低めストレート」 

野村は現役27年、通算3017試合の捕手生活のなかで、捕手として「外角低めのストレート」が打たれづらいこと。また打者としても「外角低めのストレート」が打ちづらいことを身を持って知っていた。

だから、古田敦也(ヤクルト)、矢野燿大(阪神)、嶋基宏(楽天)ら育成してきた捕手陣に、こんなアドバイスを送ってきた。

「どうしてもリードに困ったら、万人に通用する弱点である『外角低めストレート』、すなわち『原点』に投げさせるんだよ」

だからプロ野球の、とくに2軍の試合などで、メッタ打ちにされたり、ストライクが入らないバッテリーに対して、ダグアウトから「原点、原点」と掛け声が飛ぶことも多い。

一方、投手が「外角低めストレート」を投げるとき、人差し指と中指の押さえを利かせて、腰を入れて投げなければならない。投手にとっても容易なことではない。

三浦大輔(現・DeNA監督)が現役時代に言っていた。

「キャンプでもシーズン中でも、練習ではまず外角低めストレートでストライクを取る。それから別のコース、別の球種を投げ込んでいく。外角低めストレートでストライクが取れるかどうかが、自分の投げ方のバランスを確かめる1つバロメーター。つまり、外角低めストレートに始まり、外角低めストレートに終わるのです」

三浦のストレートのスピードは目を見張るものではなかったが、現役25年で通算2481奪三振、歴代9位にランクインしたのは、「原点」を大事にするからだろう。

まとめ
自分の長所やストロングポイントを理解しておく。困ったときにはその「原点」に立ち戻る。それが、本来の自分を取り戻し、さらなる成長を目指していくことになる。

著者:中街秀正/Hidemasa Nakamachi
大学院にてスポーツクラブ・マネジメント(スポーツ組織の管理運営、選手のセカンドキャリアなど)を学ぶ。またプロ野球記者として現場取材歴30年。野村克也氏の書籍10冊以上の企画・取材に携わる。

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【野村克也】ノムラの言霊

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TEXT=中街秀正

PHOTOGRAPH=毎日新聞社/アフロ

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