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2022.03.10

青木宣親がスターだらけの早稲田大時代に見せていた、派手ではないしぶとさ──連載「スターたちの夜明け前」Vol.25

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。連載【スターたちの夜明け前】

写真:日刊スポーツ/アフロ

2002年5月・法政大戦ではバットを短く持って当てるようなスタイル

昨シーズン、20年ぶりとなる日本一に輝いたヤクルト。村上宗隆や奥川恭伸など若手の活躍も目立ったが、そんな中でチームの精神的な柱とも言える存在になっているのが青木宣親だ。首位打者3回、最多安打2回など数々のタイトルを獲得し、2012年からはメジャーリーグでも活躍。'18年に古巣ヤクルトに復帰した後も、不動のレギュラーとしてチームを牽引し続けている。

そんな青木だが、高校時代は投手でチームのエースを務めてはいたものの、決して有名な選手だったわけではない。早稲田大への進学もスポーツ推薦ではなく、指定校推薦によるものである。下級生の頃はスタメン出場の機会は少なく、2年秋のシーズンが終了した時点でのリーグ戦通算成績は13試合に出場して25打数5安打で打率.200、ホームランも打点も記録していない。

実際に青木のプレーを現場で初めて見たのは3年生になった'02年4月13日の対立教大戦だ。この試合は早稲田大の和田毅(現ソフトバンク)と立教大の多田野数人(元日本ハム)の息詰まる投手戦となり(試合を1対0で早稲田大が勝利)、両チームとも野手に関しては強い印象が残っていない。青木も2番レフトで出場し、1安打1盗塁をマークしているが、当時のノートにもそのプレーについて詳細な記載は残っていない。

それから3週間後の法政大戦でも相手エースの土肥龍太郎(元横浜)から2安打を放っているが、バットをとにかく短く持って当てるようなスタイルで、現在のバッティングとは程遠いものだったと記憶している。このシーズン、青木はリーグ4位となる打率.348をマークし外野手のベストナインにも輝いているが、正直将来プロで活躍するような選手になるとは全く思っていなかった。

青木が目立たなかった理由は本人以外のところにもある。当時の早稲田大はエースの和田だけでなく、野手にも綺羅星のごとくスター選手が揃っていたのだ。最大のスターは同学年で2年春には東京六大学史上最速タイで三冠王に輝いた鳥谷敬(元阪神・ロッテ)で、他にも沖縄尚学の4番として選抜優勝を果たした比嘉寿光(元広島)、桐蔭学園で4番として選抜高校野球にも出場した由田慎太郎(元オリックス)が同学年で早くからレギュラーをつかんでいる。

6人は全員がプロ入りを果たした類稀なる世代

また1学年下の田中浩康(元ヤクルト・DeNA)も尽誠学園時代から評判のセカンドで、2学年下の武内晋一(元ヤクルト)も智弁和歌山で2年夏に甲子園優勝を果たしたスラッガーだった。青木たちが4年生になった時の打順は田中、青木、鳥谷、比嘉、武内、由田という並びだったが、この6人は全員がプロ入りを果たしており、長い大学野球の歴史でもこれだけ選手が揃っているチームはなかなかないだろう。そんな中で青木は3年秋には打率.436をマークして首位打者にも輝いているが、17安打中15安打がシングルヒットと長打力がなかったこともあって、数字ほど存在感があったわけではなかった。

4年生になってもその印象は大きく変わることはなかったが、何度もプレーを見ていくうちに気づかされたのがバットにボールを当てる上手さと走塁における意識の高さだ。大学時代、最後にプレーを見たのは'03年10月18日に行われた対明治大戦。1点をリードした5回に左サイドスローで鳥谷キラーとも呼ばれた佐藤賢(元ヤクルト)から貴重な追加点となるファーストへの内野安打を放ち、チームの勝利に貢献している(試合は2対0で早稲田大が勝利)。

当時のノートには「とにかくバットに当てるのが上手く、空振りが少ない。投手にとっては嫌らしいバッター。足の速さは言うまでもないが、常に足を緩めないため守備に与えるプレッシャーも大きい」とある。派手さはなくても、このようなしぶとさがプロでも長く一線でプレーし続けられる要員の一つと言えそうだ。

この時のチームの野手で現役を続けているのは青木だけとなったが(1学年上で投手の和田は現役)、まだまだそのプレーぶりからは目立った衰えは感じられない。今年も大学時代から慣れ親しんだ神宮球場で、多くのファンを沸かせるプレーを見せてくれることを期待したい。

Norifumi Nishio
1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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スターたちの夜明け前

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

TEXT=西尾典文

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