放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位の桝本壮志のコラム。
「そやそや。おもろいオバはんがおってん」
突然、我が家のリビングでメモ帳をめくり、私生活を語りはじめた面白おじさん。
今週は、笑福亭鶴瓶さんに学んだ、日々がちょっと好転する思考術を紹介します。
人間は「高さ」ではなく「長さ」
駆け出し作家だったころ。番組ゲストにくる鶴瓶さんの台本作成にあたり資料を読み込んでいたら、1枚の写真に目が留まりました。
「昔も今も電車移動。人間観察してまんねん」という見出しと、電車内でメモ帳をひろげている写真。
超売れっ子でも電車を使い、若手みたいにネタ探しをしているんだな。と舌を巻きました。
それから20年後。鶴瓶さんが僕の自宅(スピードワゴン小沢、チュートリアル徳井と暮らしていたシェアハウス)にいらしたとき、「そやそや。おもろいオバはんがおってん」と、おもむろにメモ帳をとりだし、電車内でのエピソードを語りはじめたので驚きました。
そう、鶴瓶さんはデビューから40年以上、電車に乗り、市井の人々の営みを「笑い」にしてきたのです。
思えば、「笑っていいとも!」を担当していたとき、アルタの下で出待ちのファンと友達のように話し込んでいる鶴瓶さんの姿を見かけたことがありました。デビュー当時からファンレターには直筆で返信し、時間がないときには電話を入れることもあるという、変わらないその姿勢に、“継続の凄味”を感じています。
私たちは、組織やコミュニティの中で、地位や権力といったポジションの“高さ”を求めがちです。しかし、実際に結果を出している鶴瓶さんら大物芸能人や一流経営者は、大切なのは“高さでなく長さ”だと気づいている。決して派手ではないけれど、ずっと続けているモノにこそ学びがあることを知っているのです。
「二足のわらじ」、 いやいや「多足のわらじ」でいい
やはり若手作家だったころ。のちの生き方、働き方に影響した言葉を鶴瓶さんから受けとりました。
「二足のわらじを履くな? そうやない、いろんなわらじを履いたほうがええで」
コミックバンド、落語家に弟子入りするも、タレントとして全国区に。さらに俳優で日本アカデミー賞、弟子入りから約30年後、ふたたび51歳で真剣に落語に向き合い始めた鶴瓶さん。
そんな鶴瓶さんだからこそリアリティがありますし、副業や転職がすっかり定着した「令和の世」を先見していた言葉でもあります。
この言葉を受け取ったとき、僕は20代後半でした。当時は放送作家のみを生業としていましたが、「いろいろ履いてみよう」と心に決め、芸人学校の講師、小説やコラムの執筆、番組司会者、コメンテーターなどもやってみました。
いろんなわらじを履いてみると“新しい仕事が新たな仕事を生む”ことが分かってきました。
芸人学校の講師をはじめたから、こうやって皆さんにコラムを読んでもらう機会を得ていますし、別のコラムでは、書いていた内容が番組化され、放送が好評になり映画化もされ、映画祭でグランプリになったこともあるんです。
仕事の対価はお金ですが“仕事の対価は仕事でもある”。それに気づくことができたのも鶴瓶さんの一言があったからです。
そして今、僕は学校の生徒たちに「いろんなわらじ」をこんな風にすすめています。
いろんなことに挑戦して“家”を増やしていくとええよ。
僕は「放送作家」だけど、「小説家」、「演出家」、「批評家」、「起業家」といろんな“家”を増やしていく生活は楽しい。
そして“家”はクリエイティブな仕事だけの話やない。犬が好きになれば「愛犬家」、食べるのが好きなら「美食家」、妻を愛せば「愛妻家」って、どんどん“家”は増やしていける。
二足のわらじじゃなく、“多足のわらじ”くらいの感覚でいい時代やで。大地主になろう。と。
それでは、鶴瓶さんに感謝をしつつ、今週はこのあたりで。
また来週お会いしましょう。