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2023.09.01

「借金してでも月に1回は最上級の飯を食え」坂本龍一が僕に教えてくれたこと【岸博幸】

多発性骨髄腫の治療のため7月下旬から入院生活を送っていた岸博幸氏。治療の甲斐あって順調に回復したものの、”幽閉生活”を持て余してもいたようだ。とはいえ、入院中の自由な時間を活用して新しい何かに挑戦する気にはなれなかったという。その理由として、岸氏が語ってくれた世界的アーティストの言葉とは。

初めて会ったのは1995年、ニューヨークで

2023年3月28日、かねてより闘病中だった音楽家、坂本龍一氏が亡くなった。死去が発表された4月3日、岸博幸氏はTwitter(現X)で、次のように綴っている。

「坂本龍一さんが亡くなった... 1995年にNYに赴任した時に知り合い、以来公私にわたって様々なアドバイスをして下さり、通産省を辞めた時にavexに入るきっかけも作って下さった、最大の恩人の一人が... 坂本さんがやり残したことを少しでも政策で実現して恩返しをしないと... 合掌」

岸氏と坂本氏との出会いは1995年にまで遡る。通産省(現経産省)からニューヨークにある国際機関に出向となった岸氏に、現地で知り合った友人が「絶対に気が合うから」と紹介してくれたのが坂本氏だった。

「その友人は、僕が日本で著作権関連の業務をしていて、坂本さんも著作権に関心を持っていらっしゃったので、一緒に何かできるのではと思ってくれたみたいです。そうしたら本当にすぐ意気投合しまして。行きつけのイタリアンに連れて行ってもらったり、坂本さんの自宅兼スタジオにもよく遊びに行かせてもらいました。坂本さんがいろんな活動を精力的にしていた頃だったから、ものすごい刺激を受けたし、本当に楽しかったですね。以来30年近くに渡り、公私にわたって親しくさせていただきました」

坂本龍一が教えてくれた最上の飯とクリエイティブの関係

岸氏は1998年に日本に帰国し、通産省に復職。多忙な部署に配属され、夜中の2時、3時まで仕事ということも珍しくない、ザ・官僚的な生活を送ることに。

「当然のことながら、食事は近場で済ますわけです。多いのは省内の食堂。昼も夜も、そこで300円のラーメンや500円の定食で腹を満たすか、せいぜい近場の店から出前をとるくらいで、まったく食に気を使わない生活を送っていました。

それが、坂本さんに見抜かれたんでしょうね。彼が日本に帰国中に会った時に、『月に1回でもいいから、最上級においしいものを食べろ。借金してでも食え』と言われたんですよ。『そうしないとクリエイティブな仕事はできないぞ』って。その時は、どうして食がクリエイティブとつながるのか、まるでわからなかった。

でも、信頼する坂本さんが言うことだから、とりあえず実践してみようと思ってやってみたんですよ。そうしたら1年くらいたったあたりからかな、だんだんと実感できるようになったんですよね」

食材をどう組み合わせ、どんな調理法をし、どう味付けるか。その掛け合わせで何通りものパターンが生まれる“料理”という作業は、それ自体がクリエイティブだ。最上級の料理となれば、なおのことだろう。ただし、最上級の料理は、得てして値段が高い。なかには、坂本氏が言うように、借金でもしなければ口にできないほど高価なものもある。

「そうしたクリエイティビティに刺激を受けなさいという意味なのか、それだけ値段が高いものを食べられるように頑張るというモチベーションのためになのかは、わかりません。でも、美味しいものを食べることが新しいことや創造的なものを生み出す力になることは、今なら納得できます。これは、経験を通した実感ですから、間違いありません。

役人って、クリエイティブから最も離れたところにいる職種なんですよ。そういう世界にいながら、坂本さんのようなアーティストと知り合えて、クリエイティブな考え方に触れられたのは、本当に良かったと思っています」

もうひとつ、岸氏が坂本氏から薫陶を受けたことがある。それは、坂本氏の懐の深さ、フラットな姿勢、そして、人間に対するやさしさだ。

「坂本さんとは原発に関することなど、いろいろ議論しました。お互いの主張が違って、対立することもあるんですが、その議論はすごく楽しかったですね。それは、坂本さんが自分と異なる考えや意見を頭ごなしに否定するのではなく、ちゃんと受け止めた上で、それならどうしたらいいかという方向に話しを進めてくれるから。坂本さんは、真にリベラルで、真っ当な、やさしい人。本当に、教えられることが多かった」

岸氏には、坂本氏同様に大きな教えを受けた人物が他にもいるという。次回(9月2日10時公開予定)は、内閣の仕事に携わっていた時代に影響を受けた大物政治家について。

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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