抗がん剤投与と造血幹細胞移植を行ってから10日。初めの1週間は吐き気やめまいなどに悩まされ、「使い物にならなかった」そうだが、その後は医師も驚くほど急スピードで回復しているという岸博幸氏。現在の“病院内での生活”について語ってもらった。
1日30分リハビリルームでトレーニングを
「僕が入っているのは無菌室フロアの個室ですが、そこにね、トレーニングできる場所があるんですよ。長期入院していると筋力が衰えてしまうから、リハビリのために設けているそうです。僕はそこを多用しています」
リハビリルームにあるのは、ウォーキングマシンやエアロバイクといったマシン数台と、ウェイトトレーニング用のギア。岸氏はそこで、毎日30分ほど体を動かしているという。
「最初の15分は自転車を漕いで、その後15分は筋トレやストレッチという流れですね。トレーナーがつくわけではないけれど、僕は日頃からトレーニングしていて慣れているので、まったく支障はありません。今の自分にできること、必要なことを考えながら、楽しく運動しています。トレーニングルームを、ここまで活用している患者は珍しいそうですけどね」
食事に関しても、抗がん剤投与を始めて5日間は、吐き気がひどく、何も口にできなかったが、6日目あたりから徐々に食欲が戻り始め、少しずつ病院食を口にできるようになった。当初は点滴で栄養補給をしていたが、その必要もなくなったそうだ。
「きちんと食べていることも、回復の早さにつながっているんでしょうね。やっぱり栄養を摂ることは大切だと実感しています。今は、朝飯と夕飯は病院の食事を食べ、お昼は看護師さんにお願いして、院内のコンビニでパンとかおにぎりを買ってきてもらっているんですよ。昼食も病院にお願いできるんだけど、病院の飯はイマイチだから(笑)。せめて1食くらい、美味しいものを食べたいんですよね」
病院食では“挑戦する気持ち”は生まれない
順調に回復はしているものの、現在は白血球が極端に少なく、免疫力は著しく低下している。そのため、病室がある無菌室フロア以外の場所を歩き回ることはできず、面会も禁止されている。
「入院して1週間は病院内を自由に歩き回れたけど、今は完全な幽閉生活。これがもう1週間以上続いているから、しんどいよね。今は、メールをチェックしたり、勉強や知識を増やすなどインプットに時間を使ったりが多いかな。ただ、これも副作用のせいなのか、いつもに比べると集中力が持続しないんですよ。だから、僕にしては珍しくだらだら過ごしています」
これまで休日も十分取れないほど、忙しく活動してきた身だ。入院によって得た“自由な時間”を利用して、これまでやりたくてもできなかったことや挑戦したいことに取り組んでいるだろうと思いきや、「抗がん剤治療をすると1、2週間は何もできなくなると聞いていたから、そんなこと考えもしなかった」と、岸氏。
「でも、僕の場合、何もできない期間は5日程度でしたからね。今さらながら、何か計画しておけばよかったなと思います。……でも、時間があって、気力や体力が回復しつつあったとしても、新しいことに取り組むつもりにはなれないんじゃないかな。だって、病院食っておいしくないもの。マズイものを食べていては、何かにチャレンジしようとか、新しいものを生み出そうという気持ちは生まれませんからね。これは、坂本龍一さんから学んだことなんだけど」
食べものと新たなものへの挑戦と坂本龍一氏。次回は、その相関関係について話を聞く。