慶応義塾大学大学院教授の岸博幸氏は、2023年7月20日から入院し、多発性骨髄腫の治療を受けている。インタビューを実施したのは、抗がん剤治療を始める前ではあったものの、岸氏はいつもと変わらず冷静に、淡々と、時に笑いを交えながら話をしてくれた。その強さの理由を紐解く。連載4回目。
病になって改めて実感した人とのつながりの大切さ
病名を告げられた際も、本格的治療を始めた今も、いつもと変わらぬ心持で日々を過ごしているという岸氏。その理由は、前回語ってくれた「早期発見」の他に2つあるという。その1つが、「利害関係なく、自分を心配してくれる友達の存在」だ。
「僕には今、ものすごく信頼している人が二人いるんですよ。仕事とはまったく関係なく出会った人たちなんですが、彼らが、『絶対に大丈夫』と励ましてくれ、僕が元気になるよう毎日祈ってくれている。それが、ものすごい励みになっています。『彼らがそう言うんだから、きっと大丈夫だ』って、そんな気持ちにさせられるんです。僕は、彼らに利益をもたらすどころか、何の役にも立っていないのに。本当にありがたいし、つくづく自分は恵まれているなと思います」
社会に出れば、仕事を通じて築く人間関係が圧倒的に多い。こんな風に、利害関係が一切なく、心と心のつながりだけの友情があることは、自分が思っている以上に尊いことなのだろう。
「趣味の仲間でも、飲み屋で知り合った人でも、なんでもいい。自分が心から信頼でき、そして、損得なしで自分を心配してくれる人がいることはすごく大事なんだと、病気になって、改めて感じました」
バラエティ番組が教えてくれた“笑いに変える”強さ
「病気になっても前向きでいられるのは、バラエティ番組のおかげ」とも、岸氏。なかでも、岸氏のマインドに大きな影響を与えているのが、番組開始時からレギュラーを務める『全力! 脱力タイムズ』(CX系)。岸氏はこの番組に全力解説員として出演し、大真面目な表情で、時に芸人に突っ込み、時にボケをかますなど、“悪ふざけ”をしている。
「あの番組って、触れちゃいけないようなテーマを、どうおもしろく見せるかにものすごくこだわっているんですよ。それに長年関わらせていただき、(MCを務める)有田哲平さんを間近で見させていただいたことで、僕自身、考え方がけっこう変わりましたね。もともとポジティブな方ではあったけど、いろんなことを笑いに結びつけるクセがついたというか」
抗がん剤使用後の“ビジュアル計画”は、その最たるものだろう。強い抗がん剤によって頭髪が抜けることを想定して、2023年4月には髪を染めることをやめて白髪を披露し、7月の入院直後には人生初となる3㎜の短髪に挑戦。眉毛が抜けることも考え、メガネのフレームも少し太いものに変えたという。
「9月に仕事復帰した際は、いろんなタイプの帽子を被ろうかと考えているんですよ。テンガロンハットとか野球帽とか、この長い顔で帽子を被ったらどうなるのか、乞うご期待です。まぁ、僕の見た目なんて誰も気にしていないかもしれないけどね(笑)」
これまで大病したことがなく、持病もなかった岸氏。10万人中わずか数名しかかからないという難病に罹患したと知った際、「なぜ自分が」という想いがゼロだったわけではないとも明かす。
「でも、自分ではどうにもできないことにいつまでも囚われて、悩み続けるのは、僕の性に合わない。病気になりたくてなったわけじゃないけれど、起きてしまったことはナシにはできません。だったら、この状況を明るく、前向きに、楽しんでしまった方がいいんじゃないかと思います。看護士さんから聞いたんですが、明るい人の方が快復は早いそうですよ」