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2023.07.30

格差が広がる現代社会。幸せに生きる一番の秘訣は、妬みを捨てること!?【佐々木俊尚】

なんて生きにくい世の中なんだ――。広がる格差に、そう感じる人も多いのでは。作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さんに、幸せを感じて生きる秘訣を聞いた。

佐々木俊尚/Toshinao Sasaki
1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退後、毎日新聞記者などを経て、2003年フリージャーナリストに。大川出版賞を受賞した『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァートゥエンティワン)など著書多数。

団塊ジュニアとそれ以下の世代で違う格差の本質

「格差社会」と言われて久しいですが、その格差はますます広がっていると感じています。団塊ジュニア世代も辛いし、若い世代も辛い。それぞれの世代の中で、富裕層と貧困層の格差が拡大するばかりで、社会の統合の難しい時代になったなと実感しています。

まずは「団塊ジュニア世代」について考えてみます。団塊ジュニアは1971年から1974年に生まれた層を中心にした世代で、大学卒業時には就職氷河期を迎えました。100社受けても1社も内定が取れないなど、辛い状況に直面した人も多いでしょう。しかも親は仕事には困らなかった団塊世代。お互いの理解がうまくいかず、親への反発が強い傾向もあります。左翼イデオロギーが嫌いで、かといって保守系というわけでもない。その結果かわかりませんが、自己責任的な思想の人が多いのもこの世代の特徴です。

団塊ジュニア世代のオピニオンリーダーは、堀江貴文さん、西村博之さん、田端信太郎さんら。「ひどい時代を生き抜いてきた」という自負が強い。彼らは「オレは頑張って、ここまで来た。オマエらにできないわけがないだろう」と言う。生き残った者が勝者。これは生存バイアスの一種なのですが、彼らの思想や自己啓発論に刺激を受けて、上を目指した人も多いでしょう。でも、誰もが成功を収められるはずはありません。

1980年代以降に生まれたミレニアルやZ世代は、団塊ジュニア世代とまったくマインドが違います。「社会に価値を与えたい」といった社会包摂の意識をもった人が多く、他者にやさしく、穏やかで人当たりがいい。

僕は10年前から東京と軽井沢、敦賀を行き来する3拠点生活を実践しています。敦賀のある福井県は、日本で唯一イオンのない県。空港もなく、新幹線の駅もやっと来年できる交通の便の良くない土地です。結果として大企業の工場などの誘致なども難しいため、東京や大阪に出て行く若者が多いと思われるかもしれませんが、そうではありません。意外と地元に残っている人が多いのです。面倒な都会に出て行くよりも、地元に住み続け、昔からの仲間とつるんで暮らしたほうが幸せだろ」って感覚です。

今、タワマン文学が流行っているでしょう。田舎町から東京に出て、慶應大学に入って、人気IT企業に就職。高い給料をもらって、タワマンを購入したが、低層階にしか住めなかった。高層階は慶應に幼稚舎から入った金持ちで占められている。そんな現状を目の当たりにして悲しみに暮れるというようなストーリーがよく語られています。

格差社会化が進む日本は、イギリスで言う「us and them」的な格差社会になってきています。「アイツらは金あるけど仕事に追われてたいへん。オレらは金ないけど、パブで酒飲んで幸せ」という発想。変えることができない格差に対する怒りや悲しみから生まれた、一種の「あきらめ」です。

バブル世代も難しい局面に直面している

こういう話をすると、団塊ジュニア世代や若い世代から「結局は景気がよかったバブル世代の一人勝ちか」と言われてしまいそうですが、バブル世代も危機に直面しています。景気のいい時代を過ごしたせいで、バブルが終わってもマインドを切り替えられない人が多過ぎる。いまだに社会をヒエラルキーでとらえる昭和マインドを持ち続けているんです。相手の名刺を見て、会社名と役職を確認し、相手が自分よりも上か下かを見定めるようなことをやっている人。そんなおっさんが、いまだに多いでしょう。

それと、なんの根拠もなくマウンティングを取る人。今の時代は、「年長者だから知識が豊富」というのはなくなってきています。ネット社会において、若い人のほうが物を熟知しているというケースはよくあること。でも、バブル世代はそれが我慢できないんですよ。

賛否両論あるChatGPTに、僕は期待している面も大きい。所詮、ChatGPTはネット上で主流を占める中央値的な意見を出すわけですから、ゼロから文化やイノベーションを生み出すのは難しいのではないかと考えています。ただ、要点をまとめる力に優れ、対話ができるので、個別学習に向いている。親の財力や育ちといった外からの影響を受けにくく、教育が民主化されます。これからは義務教育で学ぶような基本的な学習は、ChatGPTで済んでしまいます。

そんな状況で差が出るのが、ChatGPTの使い方。1990年代に検索エンジンが登場した時に、2種類の人が現れました。卒論を書く時にコピペして終わりという人と、検索エンジンを下調べの道具に使って集まった資料でより深いところを考える人。ChatGPTも同じで、そのまま鵜呑みにする人と、先に進める人の両極に分かれるでしょうね。それが、新たな「格差」を生み出します。

ChatGPTによって、世代による格差は減るように思います。バブル世代だから出世できる、就職氷河期世代だから何をやってもうまくいかない。そんな格差は薄まり、別の格差が際立つ時代になるかもしれません。

格差社会の中でも幸せを実感して生きる

終わることのない格差社会。その中で、幸せを実感しながら生きていくにはどうしたらいいでしょうか。僕は「妬みの感情を捨てること」だと思います。人間は上を見たらキリがありません。飛行機のビジネスクラスに乗れるようになっても、その先にはファーストクラスやプライベートジェットという物が存在する。タワーワンションの最上階に住んでも、隣にもっと高いマンションが建つかもしれません。欲望に限りはないんですよ。幸せとはお金持ちになるとかそういうことではなく、負の感情を減らすことではないでしょうか。

他人を蹴落とすことでもなく、人生をあきらめてしまうことでもない。格差を感じながらも、社会との関わりを大切にし、自らの思索を深めていく。今の時代にこそ、ストア哲学的な生き方が重要だといえます。

TEXT=川岸徹

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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