慶應義塾大学教授・岸博幸先生が、各分野で活躍するいま気になる人と対談する不定期連載企画「オトナの嗜み、オトコの慎み」。【過去の連載記事】
あの“ゆるギャグ”はこうして生まれた
岸 長く停滞する今の日本を変えるには、大胆で斬新な想像力が欠かせません。ビジネス的な型どおりの考え方ではなく、お笑い芸人のネタのような発想。今回の対談相手は、ピカイチの想像力を誇る飯尾和樹さん。早速ですが、「ぱっくりピスタチオ」「転んだついでに由美かおる」といったネタは、どのように生まれたのでしょうか。
飯尾 「ぱっくりピスタチオ」は、小学5年生の時からネタにしているんですよ。初めてピスタチオという食べ物を知った時、その語感がおかしくて2時間笑い続けた。翌日学校に行って、友達の耳元で「ぱっくりピスタチオ」とささやいたら、僕と同じように大笑い。小学生の時に作ったネタを今もやっているんです(笑)。
岸 「由美かおる」は?
飯尾 とんねるずさんの番組のロケで、田んぼの中に倒れこんだんですけど、場が静まり返ってしまった。とんねるずさんから「この後どうすんの?」と突っこまれて、「転んだついでに由美かおる」と。知恵を絞って考えたものではなく、いわゆる追いこまれて。
岸 その瞬時にネタを生みだす想像力がすごい。アインシュタインも「想像力は知識よりも大事だ」と言っています。
飯尾 アインシュタインを持ちだされても(笑)。僕こそ、「岸先生の莫大な知識はすごい」と、いつも感心しています。
岸 現代ではネットを使えば、知識なんてすぐに仕入れられます。それなのに日本人は知識の量を重視してしまうから、世界をアッと言わせるものが生みだせないんです。サイクロン掃除機を発明したジェームズ・ダイソンは旅好きで、旅先で見た木材工場のサーキュレーターに興奮して、あの吸引力の高い新構造を思いついた。でも、日本のメーカーはすでにある物をマネして、「より機能を高めました」という二番煎じしか作れない。ところで、飯尾さん。電車で移動する時は、どう過ごされています?
飯尾 だいたい、ぼーっと外を眺めていますね。
岸 やっぱり。僕には「電車に乗って外を見ている人は成功する」という持論があるんです。電車内でずっとスマホを見ている人はダメ。長期的に物事を見ることができずに近視眼的になってしまいます。広い視野を持ち、さまざまなデータを蓄積していくことが大切。
飯尾 今の若い人は大変そうですよね。情報量が多いから、無駄や失敗が許されないですし。だから、物の見方が狭くなってしまうのかなと。かわいそうですね。
岸 確かに。無駄が許されるおおらかな時代を知らないのに、スマホとコロナによる窮屈な時代が来てしまった。飯尾さんは若い頃、どんな生活を?
飯尾 いい歳になっても、無駄な生き方を貫いてました(笑)。ずっと仕事がなくて、床ずれができるくらい寝てばかり。40歳の時には家賃が払えず、「あと4万円足りない」という事態に陥った。40歳にもなって、4万円が捻出できないんですよ。困りに困って、後輩が立ち上げた会社でアルバイト。彼は朝クルマで迎えに来てくれて、昼は鰻を、夜は酒をごちそうしてくれた。
岸 人に慕われ、誰からも愛される。そこが飯尾さんの強みですよね。
飯尾 いや、ただ甘えているだけです。お笑いでも、やるだけやって、「あとは、お願いします」みたいな。キャイ〜ンとか、くりぃむしちゅーとか、同期の現場に招待してもらってるだけなんです。
岸 人たらしで運もいい?
飯尾 運はいいですね。40歳で家賃の支払いに困ったあと、半額のアパートに引っ越したんですが、そこの大家さんがすごくいい人。いつも、筍ご飯とか、料理をいただいて。それで、筍ご飯と一緒に必ずガリの瓶詰めをくれるんですけど、そんなに消費できないじゃないですか。でも、僕は気が小さいから、「まだあります」のひと言が言えない。部屋がガリの瓶だらけになりました。
岸 人の思いを汲んであげられる性格なんですね。
飯尾 いやいや、そんなことないです。苦手なタイプは、ゴルフの時にキャディさんに横柄な態度をとる人。逆にキャディさんに対しても気を遣える人は尊敬します。もし、女性が結婚を考えていたら、一緒にゴルフに行くべき。彼のキャディさんへの接し方が、結婚後にあなたにとる態度です。
岸 なるほど、素晴らしい見極め方。飯尾さんは、仕事で思わぬ無茶振りを受けることも多いでしょう。他人に対してキレることは?
飯尾 ないですよ。無茶振りはごちそうですから。「うまく反応できなかった」と自己嫌悪で落ちこむことの方が多い。仕事の帰り道、よく公園のベンチでふさぎこんでいます。
岸 そういう生き方はストレスが溜まるでしょう。解消法はあります?
飯尾 酒を飲んで、ゴロゴロ〜ですかね。お笑いの世界には、才能溢れるパイオニアがたくさんいる。だから、何でもフォローしてもらえます。あれこれ思い悩みながらも、平和的に、すごい人に付いていく生き方が合っています。
岸 そんな生き方ができるのも、想像力と人間力が優れているから。飯尾さんといると、面白いし、心地いいから、皆一緒に仕事をしたがるんだと思います。
Kazuki Iio
1968年東京都生まれ。2000年に相方のやすと「ずん」を結成。数多くのバラエティ番組に出演、『ノンストップ! 』(フジテレビ)では木曜に料理コーナーを担当。日めくりカレンダー『まいにち。飯尾さん』も発売中。
衣装協力=WWS
Hiroyuki Kishi
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。現在、エイベックスGH顧問のほか、総合格闘技団体RIZINの運営にも携わる。