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2023.07.29

「移住よりも移動生活が現代的」3拠点生活者・佐々木俊尚×岸博幸

慶應義塾大学教授・岸博幸先生が、各分野で活躍するいま気になる人と対談する不定期連載企画「オトナの嗜み、オトコの慎み」。今回の対談相手は、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏。【過去の連載記事】

岸博幸氏と作家・佐々木俊尚氏
Hiroyuki Kishi
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。現在、エイベックスGH顧問のほか、総合格闘技団体RIZINにも携わる。

3拠点生活で見えた、格差社会の“本当の幸せ”とは

 今回の対談相手は作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さん。最近はどんな分野をメインに執筆を行っているのでしょうか。

佐々木 AIやメタバースなどテクノロジー関連のほか、ライフスタイルに関する仕事が増えました。僕は10年前から東京と軽井沢、福井県敦賀を行き来する3拠点生活を実践。それに関した仕事が多いですね。

 なぜ3拠点生活を?

佐々木 10年ほど前、移住がブームになったでしょう。今はネットの普及により地方でも都市と遜色ない生活が可能になりましたが、移住には田舎のコミュニティに入らなければならない面倒くささがある。となると、移住よりも移動生活のほうが時代に向いているのではないかと。それが正しいかどうか、実験して確かめようと思ったのです。

 60歳を超えて、実験を続けていられるのがすごい。

佐々木 体力さえあれば、なんとかなりますよ。だからトレーニングに励むようになった。それもあって、メンタル面は以前よりも、ずっと安定しています。

 3拠点生活は移動コストがかかりますよね?

佐々木 交通費を捻出するためにミニマリストになりました。ワインセラーをはじめ、物を極限まで捨てた。モノを捨てると、心まで軽くなりましたね。

 軽井沢は別荘地として人気なのでわかりますが、福井県を選んだ理由は?

佐々木 福井は日本で唯一、イオンのない県(笑)。空港もなく、新幹線の駅もやっと2024年にできるくらい。でも、日本一幸福度が高い県として知られている。その理由が気になって。

 福井の若者は幸せを感じて暮らしている?

佐々木 東京に比べて求人は少なく、給料は安い。でも、東京に出て勝負しようとする若者は減っているように感じます。東京に行っても、いい仕事は優秀なヤツで占められている。それよりも田舎に住み続け、昔からの仲間とつるんで暮らしてるほうが幸せだろうって感覚なんですよね。

 実際、それも幸せな生き方だろうな。

佐々木 福井に限らず、日本はイギリスで言う「us and them」的な格差社会になってきている。「アイツらは金あるけど、仕事に追われて大変。オレらは金ないけど、パブで酒飲んで幸せ」という発想。日本でも、「我々は彼らとは本質的に違う」という考え方が浸透しつつあるように思う。そんな意識から“親ガチャ”という言葉も生まれたのかなと。

 ひと昔前は恵まれた環境に生まれなくても、東大に行くことができた。でも、今は大部分が金持ちの子供で占められている。東大生の親の平均年収は1000万円以上。生まれながらにして差があるし、その差がさらに拡大している。佐々木さん、ここまで格差が広がった原因は何でしょうか。

佐々木 議論の不足が大きいと思う。例えば右派と左派が議論を重ねると、お互いの意見に歩み寄り、真ん中くらいの中道に落ち着いたりする。でも、今の時代はそれがない。異様に意識の高いオピニオンリーダーが偏った意見を述べるばかりで、中道の気持ちを代弁する人がいない。最近の若いオピニオンリーダーは、例えばSDGsの話ばかり。脱炭素は確かに素晴らしい。でも、餓死者が増える危険性もある。そこを議論しないと。

 全体を掘り下げて見ることをしていないから、SDGsとかわかりやすい方向へ行ってしまうんですよ。議論が薄くなったのは、ネット上で物事の本質ではなく、表面的なことだけを捉えるクセがついてしまっているからだと思う。

佐々木 僕はブログの文化からツイッターの文化に変わったのが大きいと感じますね。3000文字で議論するのと、140文字で言葉を投げ合うのは大分違う。

作家・佐々木俊尚氏と岸博幸氏
Toshinao Sasaki
1961年兵庫県生まれ。早稲田大学中退後、新聞記者などを経て、2003年フリージャーナリストに。大川出版賞を受賞した『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。

ChatGPTを使ってはいけない?

 今話題のChatGPTは、人間からさらに考える力を奪うんでしょうか。

佐々木 いや、使い方しだいでしょう。検索エンジンが登場した時に、2種類の人が現れた。卒論を書く時にコピペして終わりという人と、検索エンジンを下調べの道具に使い、集まった資料でより深いところを考える人。ChatGPTも同じで、両極に分かれるでしょうね。それが、より格差を広げる結果になる。

 なるほど。ITを使う人とITに使われる人の分断に拍車がかかりそう。

佐々木 でも、ITに使われる人が悪いっていうわけではない。無駄に努力しても仕方がないという諦め感を持った人には、それが幸せかもしれない。

 難しい時代ですね。ところで、佐々木さんは幸せを感じていますか?

佐々木 最近、幸せっていうのは妬みや負の感情を捨てることだと思うようになりました。人間は上を見たらキリがない。飛行機のビジネスクラスに乗れるようになっても、その先にファーストクラス、さらにはプライベートジェットが存在する。欲望に限りはないんですよ。幸せとはお金持ちになるとかそういうことではなく、負の感情を減らすことだと思います。

 僕もできる限り余計なことはやめようと思っている。最近、白髪染めをやめたら、「そのほうがナチュラルでいい」と言われます。

佐々木 無理や我慢をしないことが幸せ。僕は若い頃は愛煙家でしたが、脳腫瘍を患ったのを機にたばこをやめました。でも、嫌煙家になったわけではない。吸いたい人は自由に楽しめばいいし、嗜好品を楽しむのは人間らしい健全な行為だと思います。今ではマイノリティになった喫煙者を排除しようとしたり、我慢を強要したりしてはいけません。そこに幸せな社会はありませんから。

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岸博幸のオトナの嗜み オトコの慎み

TEXT=川岸徹

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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