アーティスティックスイミング(AS)で男子として史上初の五輪出場を目指している選手がいる。佐藤陽太郎(18歳・ジョイフルアスレティッククラブ)は、2022年夏の世界選手権ブダペスト大会で非五輪種目の混合デュエットで姉の友花(21歳・ジョイフルアスレティッククラブ)とペアを組み銀メダルを獲得。五輪で採用されているチーム種目に今季から男子が参加可能になったことを受け、2024年パリ五輪を視野に練習に励む。連載「アスリート・サバイブル」とは……
男子もチーム種目に出場可能に
アーティスティックスイミング(AS)日本代表チームでただ一人の男子選手。技術面に課題を残す佐藤陽太郎だが、男子ならではのパワーはリフトの土台に入った時などに違いを発揮する。目標に掲げるパリ五輪に向け「女子選手と比べると技術的にはまだまだ足りない。正直、不安はあるが、男子が入った良さ、ダイナミズムな魅力を出したい」と力を込める。
ASは1984年ロサンゼルス五輪で旧名称「シンクロナイズドスイミング」として初採用。女子だけが出場してきたが、ジェンダー平等を訴える国際オリンピック委員会の方針もあり、国際水泳連盟は2022年12月にパリ五輪で男子出場が可能になると発表。8人によるチーム種目に最大2人を起用できることが決まった。
五輪で男子に門戸が開かれたことを受け、2023年から世界選手権やW杯などの国際大会のチーム種目でも男子の出場が認められた。2023年3月のW杯カナダ大会ではスペインが男子2人を起用。世界選手権では2015年大会から非五輪種目の男女1人ずつによる混合デュエットを実施しており、佐藤は2022年ブダペスト大会で姉・友花とペアを組み、銀メダルを手にしている。
男子ならではのダイナミックな演技に期待
男子のAS選手は世界的にも国内でも、まだ少ない。国内の登録選手は20人前後。2023年5月の日本選手権(東京アクアティクスセンター)では男子ソロが初採用されたが、テクニカルルーティン(TR)、フリールーティン(FR)ともに出場選手は1人だけで公開競技となった。
それでも近年は競技の環境が飛躍的に改善。数年前までは大会会場に男子の更衣室が用意されず、多目的トイレなどでの着替えを強いられることも珍しくなかったが、日本選手権ではサブプールの更衣室が割り当てられ、出場した男子選手から「更衣室が広すぎて逆に申し訳ない」との声も聞かれた。
佐藤は五輪への道が開かれた直後の2022年12月から日本代表チームの練習に参加した。当初は2023年3月のW杯でデビューする予定だったが、練習中の接触で脳しんとうを起こして欠場。2023年5月のW杯フランス大会も復帰から日が浅いことから混合デュエットに専念した。
AS日本代表の中島貴子監督(36歳)は「男子選手はパワーが全然違う。世界選手権では陽太郎選手を泳がせたい。日本にも男子選手がいることをアピールしたい」と2023年7月の世界選手権福岡大会で佐藤を起用することを明言。オープン参加を予定している2023年6月の国内大会を経て、世界選手権が公式戦デビューの舞台となる。
世界選手権はTR、FR、アクロバティックルーティン(AR)に種目が分かれ、それぞれに順位がつくが、五輪は3種目の合計点で争う形式。リフトやジャンプが多いARでパワーを発揮できる佐藤にとっては3種目ともに高いパフォーマンスを求められる五輪出場は世界選手権に比べてハードルが上がる。
女子選手に混ざり奮闘するなか、何より心強いのが、2020年から混合デュエットでペアを組み、現在はチームでも一緒に練習する姉の存在だ。毎日のように「不安」と漏らし「大丈夫。活躍できる」と励まされる日々。競技面以外でも仲は良く、佐藤は「思っていることは何でも話せる」と絶大の信頼を寄せる。
姉の勧めで5歳からアーティスティックスイミングを始め、競技歴は13年目。小さい頃は周囲の目が気になり競技を続けるか悩んだ時期もあったが、今は「五輪はアスリートにとって夢の舞台。ワクワクする」と明確な目標がある。男子史上初のAS五輪選手へ、2023年7月の世界選手権が試金石となる。
佐藤陽太郎/Yotaro Sato
2004年8月10日茨城県生まれ。常総学院高から2023年4月に筑波大学に進学。5歳の時に姉の勧めで競技を始め、中学1年時の2017年に日本選手権に出場。2019年の世界ユース選手権混合デュエットで銅メダルを獲得。2022年世界選手権では姉・友花との混合デュエットで、テクニカルとフリーの2種目で銀メダルを獲得。身長1m78cm。ジョイフルアスレティッククラブ所属。
■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。