アスリート、文化人、経営者ら各界のトップランナーによる新感覚オンラインライブイベント「Climbers(クライマーズ)」。その第6弾が、2023年4月26日から3日間にわたって開催され、ビジネスパーソンを大いに熱狂させた。今回、第69代横綱の白鵬(宮城野翔)さんによる特別講義を一部抜粋して掲載。すべての講義を聴くことができるアーカイブ配信はこちら。※2023年5月2日〜5月15日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内右上もしくは下の「視聴登録はこちら」より
第69代横綱・白鵬「待っているだけでは決して運は向いてこない」
平成12年、モンゴルから日本の相撲部屋に入門を目指して来日しました。でも、私は体重が62kgしかない痩せ身の少年。当時は身長173㎝以上、体重75kg以上が力士になるためのルールでしたから、受け入れてくれる相撲部屋が見つかりませんでした。
モンゴルへ帰国する前日、同じモンゴル出身の力士・旭鷲山が口を利いてくれて、宮城野部屋が私の面倒を見てくれることになりました。入門当初は稽古することを許されず、食べて寝るだけの生活。平成13年の3月場所で初土俵を踏みましたが、序ノ口で負け越しのスタートとなりました。
それから、稽古に明け暮れる毎日です。合わせて、日本の文化と言葉の勉強に励みました。先輩に日本語のCDをもらい、聞きながら真似してしゃべり続ける。日本語が理解できるようになるとともに、少しずつ番付も上がっていきました。
平成14年7月場所、三段目で入門後2回目の負け越しを経験しましたが、それ以降、一度も負け越しはありません。体も大きくなり、土俵際で粘り勝つことができるようになりました。そして平成19年、第69代横綱への昇進が決定したのです。
神様を守るから、負けが許されない
横綱になって、最も変化したのは心境です。関脇までは、毎日相撲を取るのが楽しかった。でも、大関になると「勝って当たり前」と思われる。横綱はそのはるか上で、「負けが許されない」のです。富士山にたとえると、大関は麓、横綱は山頂くらいの差があるなと感じました。
横綱は土俵入りで腰にしめ縄を結びます。しめ縄は寺や神社では馴染みあるものですが、人間でしめ縄を身につけるのは横綱だけ。つまり、横綱は神事を司り、神様を守る役割を担っているのです。
私の土俵入りで、こんなエピソードがあります。平成23年に東日本大震災が発生し、私たち力士は慰問を目的に東北地方を巡りました。岩手県山田町を訪ね、土俵入りを披露。広場に砂を敷きつめ四股を踏んだのですが、その後、続いていた余震がぴたりと止んだそうです。横綱の土俵入りには、結界を張る意味がある。ただの偶然だと言う人もいますが、私はそう感じましたね。
勝負には運が重要だと言われます。私もそう思います。でも、待っているだけでは決して運は向いてきません。「運」という字は、「軍」に「しんにょう」を付けたもの。「軍が動く」という意味です。軍は日々努力し、体を動かし鍛えているから、神様が「運」を与えてくれる。私は運をそのように捉えています。
令和3年に横綱を引退し、今年(令和5年)1月に引退相撲と断髪式が行われました。断髪式には約300人が参加し、マゲにハサミを入れてくださいました。私の身長は189㎝ですが、公式では192㎝と表記されています。それは相撲の世界ではマゲも体の一部とされていて、マゲの高さも身長に加えられるためです。
マゲは力士にとって体の一部。ハサミが入った瞬間、思いもかけず涙が流れました。
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2023年5月2日〜5月15日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内右上もしくは下の「視聴登録はこちら」より。※アーカイブ視聴申し込みは5月14日18時まで
白鵬(宮城野翔)/Hakuho(Sho Miyagino)
本名・白鵬翔(モンゴルでの出生名はムンフバト・ダヴァジャルガル)。家族は紗代子夫人と一男三女。父はモンゴル相撲の横綱で国民的英雄、ジグジドゥ・ムンフバト。2007年5月場所後に横綱に昇進。優勝回数、通算勝利数、幕内勝利数など数々の史上最多記録を更新。東日本大震災の際には率先して被災地を訪れ、横綱として鎮魂の土俵入りを幾度も行った。また相撲の底辺拡大を目指して少年相撲大会「白鵬杯」を開催するなど、土俵の内外で相撲界を牽引。主な歴代1位記録は、優勝45回、全勝優勝16回、幕内7連覇、通算勝利1187勝、幕内勝利1093勝、横綱勝利899勝、年間勝利86勝、横綱在位84場所など。2021年9月30日現役引退。2022年7月28日に宮城野部屋を継承。現在20人以上の弟子たちを師匠として指導育成している。