PERSON

2023.05.04

「ぷよぷよ」「はぁって言うゲーム」天才ゲームクリエイターの“アイデア出し3種の神器”

人気アナログゲーム「はぁって言うゲーム(前回記事を参照)の作者で、ゲームクリエーターの米光一成さんの、数々のヒット作を生み出す根幹となる思考法をさらに深掘りしていく。

即実践したい、天才ゲームクリエーターの仕事術

米光作品といえば、「ぷよぷよ」や「トレジャーハンターG」といった過去のテレビゲームから、ここに紹介する「はぁって言うゲーム」をはじめ、「変顔ゲーム」「あいうえバトル」といった各種人気のアナログゲームまで、名だたる人気作が揃う。さすが、本作のプロデューサー白坂翔さんをして「天才」と言わしめるだけのことはあるわけだ。

当然、気になるのは、泉のごとく湧き出してくるそのアイデア。そして、アイデアを形にするその手法だ。ずばり、米光さんの思考法を伺った。

「僕のなかでは、“アイデア出しの3種の神器”と勝手に呼んでいる、3つの柱があるんです」

おっ! ビジネス界でもよく耳にする、“3つの●●”シリーズ。非常に汎用性が高そうである。アイデアを形にすることが得意なゲームクリエーターの「商売道具」を伝授してくれた。

神器その1:ボツ(実はボツじゃない)を寝かせておく土壌(ハタケ)

今回のインタビューを通じて感じたことを結論から言ってしまうと、米光さんにアイデアを生み出す秘訣を聞くのは、愚問の類だと思う。というのも、米光さんからアイデアは絶えず湧き出しているようなのだ。まさにナチュラルボーンクリエーターと呼ぶに相応しい。

「何か、目につくものがあれば、どうやったらゲームになるだろうか。そんなことばかり考えています。例えば、シャワーを浴びているときに、シャワーヘッドの穴の数と水圧の関係を応用して、何かゲームがつくれないかな? とか、ふと考えてしまうんです」

このようなことを1日に10や20考えついて、メモ帳に記している。そのメモは自分で見返しても、わからないことのほうが多いのだとか。ということは、思いついたとして、形になるものと、形にならないものがあるのだろうか。結局は、ボツも多いのか?

「ボツ? ボツは宝の山なんですよ。正確に言えば、ボツとも呼べるけど、実はボツじゃない。僕のなかでは具現化していないアイデアは全然ボツではないんです。何度も何度も思いついては、形にならなくて、ということの繰り返しによるアイデアが、頭の中に溜まっている。脳の中にハタケがあるようなイメージです。

生まれたアイデアは、この“ハタケ”に寝かせておくことが大事なんです。貯めておけば、いつか芽が出て花が咲くときがやってくる。例えば、Aというアイデアが、それ単体では具現化できなかったとしても、Bというアイデアとくっついたり、Cというアイデアを生むきっかけになったり、というふうに間接的に具現化に関与することだってありますから」

ボツはない。非常に強い言葉である。恐れずにボツを生み出し続けるべし。というようなメッセージ性すら感じ取れる。アイデアと具体化についての関係性は非常に興味深い。

つまり、こうも考えられそうだ。どんな駄作的なアイデアでも生み出して貯めておけば、いつか花咲くこともある、と。とかくアイデアを生み出そうとすると、一発で完璧なものを生み出したくなるが、それよりも、まずは量。そして、その時ダメでも貯めておけ。思いつくことを恐れるな、とも。

神器その2:「あ、さみしっ」的なきっかけ

ボツが溜まっている“ハタケ”から、いかにして具体化・商品化していくのか。ここでも米光さんの頭の中を少しだけのぞかせてもらうこととしよう。

「『はぁって言うゲーム』が生まれたのは、仲間の輪に入れなかった『あ、さみしっ』という感情でした(前回の記事参照)。まさにそれこそが、アイデアを形にする起点。

しかし、起点となるのは必ずしも寂しさだけじゃありません。ときには、『腹立つわー』という怒りでもいいし、何なら『こんなゲームを作ってくれませんか?』というオーダーでもいい。とにかく、きっかけが大事。脳のハタケから、人様にお見せできるようなものを、一旦出してみるか、という感じなんですよ。

昔、自分の講座でアイデアを1000個考えてみよう、とか教えてみたこともありました。そうしていくと、実はアイデアというものは、1つ1つの仕切られた単独の存在でなく、それまで考えてきたことが有機的に絡まっているんです」

まさに1000個、いや幾星霜ほどのアイデアを思いつき続けてきた人の感覚かもしれないが、米光先生(いつしか先生と呼びたくなっている!)におよばずとも、一度でも、死ぬほどアイデアを考えようとしてみたら、この境地に達するのかもしれない。

「ハタケから取り出してみようというきっかけになるのが、ひとつの大きな感情というわけですね」

米光さんのクリエイティブの素。中央が「むちゃぶりノート」

神器その3:第3者からの「無茶振り」=フレームを疑うこと

そして、第3の柱。これが、他者による「無茶振り」なのだという。

「仕事として、ゲームを考えようとすると、たくさん作ってきているので、どうしても同じフレーム(枠組み)で考えてしまうことになってしまいます」

どんな達人でも、作れば作るほど、マンネリ化と隣合わせ。斬新な発想を求めて袋小路にハマってしまう経験をした人も少なくないだろう。

「いろいろ物事が解決するときって、物事の枠組みを疑って、見直したときだったりするんです。僕、これ結構ビジネス寄りな話だと思うんですよ」

まさに! 前提や前例、既成概念、固定観念に縛られているとき、物事は停滞しがちというのは、まさにビジネスパーソンあるある。当然、解決方法も思い浮かばない。

「これを、僕は“フレームを疑う”と言っています。でも、そこに気づくことって当事者にとっては、結構ハードルが高いんです。

そういうとき、利害関係のない同僚や友人から、『こうしたらいいんじゃない』っていう無責任な言葉ってあるじゃないですか。そのときは、『バカ言え、何にもわかっていない。できっこないから』と言いながら、その指摘が正しいということが往々にしてあります。実は、やろうとしてなかっただけ。前提を変えればできるんですよね。同僚による、いわば『無茶振り』が事態を好転させてくれることがあるわけです」

と言って、米光さんがバッグから取り出してくれたのが、自作商品である「むちゃぶりノート」!(笑)。まさかの宣伝かと思いきや、これがなかなかよくできていて。

テーマを決めて書き出したキーワードに、シールに書かれた「を無視し」「を消し」「のキャラで」といった言葉を組み合わせて、自分の考えに縛られない無茶な提案をランダムに自動生成できる、すぐれものだったりする。

「フリーランスになって、忌憚ない意見を言ってくれる同僚や後輩たちとしゃべるような機会もなくなったので、このノートをつくったんです(笑)」

「むちゃぶりノート」の存在もまた、米光的思考法の賜物だということがわかる。「その1」で貯められていた日々のアイデアのなかから、「その2」=無茶振りがほしいけど、言ってくれる人がいない。「その3」=だったら作ってしまおう。ノートでいいじゃん=“アドバイスをするのは人である”というフレームを疑った結果。という流れになるだろう。

かなり応用の幅が広い思考スキームのように思える。エンタテインメントだけに限らず、何かを生み出す必要のあるタスクを負っている人ならば、一度トライしてみてはどうか。

それにはまず、駄作でもいいから多くボツを溜め込める、脳内のハタケをつくることから始めなければならないが。

米光一成/Kazunari Yonemitsu
1964年広島県生まれ。大学卒業後、コンパイルに入社。現在でも人気の“落ちゲー”「ぷよぷよ」などのタイトルをリリース。その後、フリーランスとして、ゲーム制作ほか、デジタルハリウッド大学教授や、池袋コミュニティカレッジ講師なども。「はぁって言うゲーム」(幻冬舎)のほか、「あいうえバトル」「負けるな一茶」「いっしゅんジェスチャーはぁ?」「言いまちがい人狼」などをリリース。

失敗を失敗と思わない力が大切

米光流思考術の素敵なところは、「ボツというものはないんです」という言葉に代表されるような、“失敗を認めない力”とも言えるだろう。

「ボツというと、どうしても『失敗作』『もう使わないもの』というイメージになってしまいますよね。僕の場合は、たとえ、思いついてすぐに採用されなかったとしても、『蓄えになったぞ』というふうにプラスに考えちゃう」

アイデアを数多く生み出すエンジンの馬力は、常人に及ばないかもしれないが、「ボツ(仮)を財産にする」というような感覚は、すぐにでも真似できるものだろう。

「自分は、根本は“ダメっ子”だと思っているので、失敗を認めなかったり、最初からうまくやろうと思わなかったりすることで、自己肯定しているのかもしれません(笑)。

最初からビシッと一発回答が出せればいいのですが、僕には残念ながらそれができないんです。スケジュールどおりにばっちり決める、とかもできない(笑)。何度も何度もテストプレーを重ねて、商品にたどりつくというスタイル。寄り道を認めていただかないと、僕が非常に生きづらくなってしまう」

一発回答を出さずとも、失敗を失敗にしないブラッシュアップ力で、いくらでもアイデアを輝かせることができる。こうした米光さんの考え方に学ぶことで、新しい発想を身につけることができそうだ。※3回目に続く

米光一成インタビューはコチラ

TEXT=高村将司

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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