「アート」とひと口に言ってもその幅は広く、過去、現在、未来と続く、非常に奥深い世界だ。各界で活躍する仕事人たちはアートとともに生きることでいったい何を感じ、何を得ているのか。今回は、建築家・永山祐子氏の想いに迫る。【特集 アート2023】
「アートを湯水のように浴び、新たな表現を紡ぎ直す」建築家・永山祐子
「選ぶ時は、とにかく直感で好きかどうか。ひと目惚れも多いですね」
ドバイ国際展覧会日本館や、まもなくオープンする東急歌舞伎町タワーなどを手がけ、国内外で活躍する建築家の永山祐子氏。彼女がアートを選ぶ基準は至極明快だ。
約10年前に初めて購入したのが、ミルク色の光の中に鳥居が浮かぶ幻想的な川久保ジョイの写真作品。以来、角度を変えるごとに異なる表情をみせるレンチキュラー印刷を用いたラファエル・ローゼンダールや、2次元の写真表現の可能性を広げるNerhol(ネルホル)、樹脂の流れる一瞬を切り取る三塚新司、松宮硝子(しょうこ)の繊細なガラス作品など、ジャンルにこだわらず自分の直感を信じて作品を選んでいる。
自らリノベーションした自邸では、階段室は作品を飾るスペースにするためガラス張りにデザイン。現在は、福島の地中に埋めて残留放射能を受けたフィルムを現像し、現れる色をそのまま形にしたという川久保ジョイの作品が、モダンな室内に彩りを与えている。アートはインスピレーションの源だという。
「アイデアを練る段階では、建築関係よりアートの作品集などを見ます。アートを湯水のように浴び、触れたことによる新たな表現を私自身のなかで紡ぎ直すことで、建築にも新たな表情を与えられると思っています」
さまざまな作品を購入し、気づいたのは「アートを手に入れることは、表現する作家の考えを共有すること」という。
「だからこそ、アートを購入する意味がある。異なる視点を持つアートが、自分のリズムで暮らす日常にパラレルワールドを感じさせてくれる。アートという別世界と日常の共存が、生活に奥行きや豊かさを与えてくれるんです」
そしてコレクターも、何を選ぶかがひとつの自己表現となっていると永山氏は言う。
「アーティストである夫の言葉を借りれば、“コレクターもアーティスト”。私の建築は光と反射をテーマにすることが多いんですが、コレクションを改めて見直せば、レンチキュラーやガラス作品、独特の手法でフィルムを感光する写真作品など、その多くが“光”につながっているんです。やはり自分らしい選び方だと思いました」
純粋な直感が作家の想いと結びつき、仕事に新たな表情を与えていく。アートは光を操る建築家に、これからも大きな刺激を与えるに違いない。
最近購入した美術品
ラファエル・ローゼンダールのレンチキュラー作品
現在注目しているアーティスト
佐々木類さん
アート購入の決め手
直感で好きだと感じること
一番最初に買ったアート
川久保ジョイさんの写真作品
アート作品の購入先
アートフェアや知り合いのギャラリー
建築家
永山祐子/Yuko Nagayama
1975年東京都生まれ。昭和女子大学生活科学部生活環境学科卒業後、青木淳建築計画事務所勤務。2002年に永山祐子建築設計を設立。2023年4月にオープンする東急歌舞伎町タワーや東京駅前に進行中のTorch Tower(低層部)も手がける。