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2022.12.05

年間スキー滑走65日! 星野リゾート代表・星野佳路が語る「日本の雪山が世界で称賛される理由」

世界中を飛び回り、スペシャルな雪山を滑るスキーヤーの星野リゾート代表 星野佳路氏に、国内外のスキーリゾートについて話を聞いた。これを読めばスキーをしたくなること間違いなし。【特集 絶頂スキーリゾート】

熱狂スキーヤー 星野佳路

名峰マッターホルンを望みながらスイス・ツェルマットを滑る星野氏。

世界の果てでスキーをするまで絶対に死ねない

長野県軽井沢で生まれ、幼い頃よりスキーに親しんできた星野リゾートの星野佳路代表。12年前、50歳になった際に「このまま生きていたら、人生最期の日の後悔は仕事のことではなく、スキーライフのことだ」と気づき、身体が動くうちに好きなスキーを滑り尽くそうと決心した。以来「年間スキー滑走60日」を目標に掲げ、夏は南半球、冬は北半球と雪を求めて地球上を移動。打ち合わせは雪山からのリモートというのが星野氏の日常となった。ヨーロッパのラグジュアリーなリゾートから南米の秘境まで、世界中のスキー場を巡るなかで、驚きと発見は尽きることがない。

「オーストリアのオーバーレッヒはリゾートとして本当にすごかった。美しい建物と雪山、このかつての美しいオーストリアの風景を復活させるため、クルマと道路を完全に排除した街なんです。クルマは数キロ先の巨大な駐車場に停め、そこからは地下道を電気自動車で街に向かいます。地表に道路もクルマもないので雪も汚れず、古きよき時代のアルプスの風景が広がります。環境保護の観点からも今の時代に合っている。とても参考になりました」

現在日本屈指のスキーリゾートとして世界中のスキーヤーが訪れるようになった、星野リゾートが誇る北海道のトマム。この着想も世界を滑って生まれた。

「コロラド州にあるベイルへの視察が大きなきっかけになりました。この世界最高峰のスキー場の経営者に話を聞くと、訪れる人の50%は滑らないと言うのです。ナイターまで滑り続けている人が多い日本のスキー場からすると信じられません。ベイルのコンセプトは『ファミリーギャザリング(家族が集まること)』。家族のなかには滑る人も滑らない人もいます。滑らなくても楽しめる、スキー場があらゆる人の憩いの場所となりうるということから着想を得て、私たちのスキーリゾートにもそのアイデアを施設の改善やサービスに反映させています」

さらに2026年秋の「星のやロッジ ニセコ(仮称)」の開業を発表。今、改めて星野氏は日本の雪山のポテンシャルを活かしたいと考えている。

「日本でのスキーの素晴らしさは、雪の量と質。世界中のどこにも負けないでしょう。オーストラリアでは、新雪を滑ろうと思うと1週間に1回ほどしかチャンスがありません。しかし降雪の頻度と量が多い日本は、毎朝新雪を滑ることができます。八甲田(青森県)で滑っていた外国の方は『一度滑ってもう一度ロープウェイで上がるとまた新雪になっている!』と感動していました。雪に慣れている日本人は忘れがちですが、これは海外の人にとって驚異的な体験なのです。

世界のスキーリゾートの多くは、標高が高い場所にあります。コロラドのキーストンのホテルは富士山山頂よりも高い所にあり、ひと晩寝ると半分の人が頭痛になります。一方、日本では標高1000mほどの地点から素晴らしい雪がある。空気が薄くなることなく快適ですし、スキー場から街にも出やすい。例えば谷川岳ロープウェイから水上温泉までは20分、大都市東京へも2時間半。そんな場所に上質なパウダースノーが大量にある場所は世界でもなかなかありません」

熱狂スキーヤー 星野佳路

年間のスキー滑走日数は65日、所有するスキー板は12台、今までに滑ったスキー場は80ヵ所以上。

日本の雪が評価されたことで、新しいものづくりが生まれた

これら日本の雪山、スキーの魅力は日本にさらなる産業を生みだしている、と星野氏は感じている。自身が使うスキー板を、日本各地で作られた国産品と決めているのもそのためだ。

「スキー板の製造は地方の新しい産業になってきています。日本の雪、パウダーに合った板が作られていて、旭岳の雪を滑るための専用の板というものもあるくらい。これらを海外の方が喜んで買っている。きっと海外の方が来なければ日本人はずっとヨーロッパの板を使っていたでしょう。しかし日本の雪が評価され、その特質に気づいて独自の板を作るようになった。スキーリゾートは日本の地方のものづくりにもつながっている。それを応援しない手はありません。毎年さまざまな板が各地で登場するので、板は何台も必要ないのについ購入してしまい、増え続けています(笑)」

一方で、日本のスキーリゾートの発展にはまだまだ問題点も多い。世界一安いといわれるリフト券、そして各地にある市町村が管理するスキー場を変えていくことが大事だという。

「日本はバブル経済の時にスキー場を作りすぎたため、供給過多になってしまった。アメリカが同じように供給過剰になった時は、どんどんスキー場が潰れ、最終的に半分になりました。そうして需要と供給のバランスが整って、残ったスキー場は利益が出るように。利益が出ると設備投資ができるので、また人を惹きつけるスキー場になる。魅力的なスキー場になればスキーヤーも増えるという好循環が生まれました。

しかし日本の場合は、本来潰れるべきスキー場がさまざまな方法で温存され、供給過剰が続いています。だからリフト券の価格は安いまま。低価格は一見お客さんにとってプラスであるように思えますが、スキー場が儲からず設備投資もできないという状況は、日本のスキー産業を弱体化させます。投資が進まないため、日本では未だシングルリフトやセイフティバーがないペアリフトが現役で走っていて、世界からは『クラッシックカー』なんて呼ばれています。欧州のスキーリゾートでは、シートヒーター付きの高速リフトが標準。つまり安いリフト券は長期的には消費者にとってマイナスになるのです」

熱狂スキーヤー 星野佳路

星野氏が持っているのは長野で製造されたヴェクターグライドのスキー板。後ろは青森のブルーモリス。

年間85日滑走も視野に入ってきた

そのなかで、今後爆発的に増えるであろう海外からのスキー客を満足させるため、スキー場同士の連結や、交通ルールの明確化など、取り組むべきことは多いと言う。スノービジネスは今後日本にとって大きな価値になるからこそ、真剣に変えていくべき、と星野氏は断言する。

「日本の雪の知名度はここ20年上がり続けています。海外で出会うスキーヤーの多くが『日本で滑ってみたい』と口にしている。今回のパンデミックでさらにそのマグマが溜まり、今まさに爆発寸前です。そしてこのインバウンドの方々は、 1週間以上の長期滞在を好みます。日本人は週末の1泊2日で滑ることが多いですが、雪のシーズンは短いので平日も滑ってくれる人を増やすことが大事。そういう方が増えていけば、周辺の街にもよい影響が出てきます」

実は、星野氏は夏の南半球も含めて60日としていた年間スキー滑走日数を、パンデミック期間は日本の冬だけで60日とした。

「この機会に日本を滑り尽くそうと決めました。私は花粉症なので、長野から東北、北海道と花粉前線から逃れるように北上、花粉がなくなる4月頃本州に帰ってきます。こうして昨シーズンは65日の滑走を達成しました。今後夏に南半球で20日間が復活すれば年間85日も見えてくる。そこまでくれば100日滑走も夢ではないと妄想しています」

ますますスキー欲が高まっている星野氏、今一番スキーを滑りたい場所は南極にあると言う。

「パタゴニアに行った際、氷河を歩いてフィッツロイという山を目指しました。その日は天候が悪く残念ながらたどりつくことができなかったのですが、その時私は『今、ついに世界の果てで滑っているのだ』としみじみしてしまいました。ところがガイドに『ここはまだ果てではない。南極にも滑る場所がある』と言われたのです。アルゼンチンから飛行機で南極に飛び、氷の上に着陸、そこに用意されているテントで寝泊まりして、昼間はスキーに行く冒険ツアーがあるそう。もうショックを受けましたよ。果てだと思ったら、さらに果てが現れてしまって、人生がどんどん忙しくなっていきます(笑)」

もはやスキーへの熱狂度合いは世界随一、星野氏はこれからも地球上を滑って、日本のリゾートを変えていくはずだ。

Yoshiharu Hoshino
1960年長野県生まれ。’91年星野リゾートの社長就任。トマムやアルツ磐梯などのスキーリゾートの再建を果たす。開業108年となる今年、「界 出雲」「OMO5小樽」など11施設を開業。2023年には「OMO5熊本」 など4施設がオープンする。

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TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=筒井義昭

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