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2022.11.10

今季初戦で3冠達成! スピードスケート・高木美帆が感銘を受けた加山雄三の言葉とは

今季からナショナルチームを離れ、新チームを結成するという前例なき挑戦へと踏み出した高木美帆。今季初戦は3冠達成。滑り出しは順調だが、スピードスケート界に一石を投じる存在になりえるのだろうか。連載「アスリート・サバイブル」とは……

小平奈緒と高木美帆。

2022年スピードスケート全日本距離別選手権女子500m表彰式での小平奈緒と高木美帆。

高木美帆の新たな挑戦と葛藤

スピードスケートの今季W杯はスタヴァンゲル大会(2022年11月11~13日、ノルウェー)で開幕する。第2戦ヘーレンフェイン大会(’22年11月18~20日、オランダ)、第3戦カルガリー大会(’22年12月9~11日、カナダ)、第4戦カルガリー大会(’22年12月16~18日、カナダ)と年内に前半戦を実施。’23年2月の北京五輪で金1、銀3のメダルを獲得した日本女子のエース高木美帆(28歳・日体大職員)は試行錯誤のなかで、欧州遠征に臨む。

「1人でやるからこその発見がある。それをスケートの結果につなげられるかは私次第。決断が良かったかどうかはシーズンを終えてみないと分からない」

今季から所属の枠を超えて活動する日本スケート連盟のナショナルチーム(NT)を離れ、昨季までNTコーチを務めたオランダ人のヨハン・デビットコーチ(43)と新チームを結成。現在、選手は高木しかおらず、1人で氷上練習する機会も多い。練習環境の整っていたNTとは違い、体のケアなども自身で行う必要がある。

昨季まではNTで女子団体追い抜きメンバーの姉・菜那(30歳)、押切美沙紀(30歳)、佐藤綾乃(25歳・ANA所属)の4人で切磋琢磨(せっさたくま)してきた。姉の菜那は昨季限りで現役を引退。押切も引退こそ表明していないが、今季は大会に出場しておらず事実上第一線を退いている。

環境が大きく変わり、高木は「去年までは4人で競い合ってきたので、ぽっかり穴が空いてしまった感じ」と一時はモチベーション維持に苦しんだ。練習で心が折れそうな時に効果的なサポートをしたのがヨハンコーチだった。自転車でのロードトレーニングでは高木の後ろにピタリとつけて鼓舞。独自の人脈を生かしてNTの選手のタイムトライアルでの記録を入手し、高木に伝えるなどしてやる気をかき立てた。

不安もあるなかで迎えた今季初戦の全日本距離別選手権(’22年10月21~23日、長野市エムウェーブ)では1000m、1500m、3000mで3冠を達成。1500mは自身が1年前にマークした大会記録を1秒25更新する1分53秒34で滑った。五輪の翌シーズンとしては驚異的なタイムに「いい記録を出すことができて率直にうれしい」と喜びつつも「1500m以外は世界で戦えるところまで持ってこられていない。全体的に体が氷をはう感覚をつくり出せなかった」と自己評価は厳しかった。

NTを離れたことで、氷上以外での負担は増えた。今後は選手やスタッフを増やしてチームを拡大する計画もあり、打ち合わせやミーティングに費やす時間が格段に増加。海外遠征の移動ひとつをとっても、団体行動で荷物をシェアできたNT時代とは違い、大量の荷物を運ぶ必要があるなど苦労は多い。「NTの偉大さを感じる」と昨季までの環境が恵まれていたことを再確認する一方で「思考する機会が多いのは純粋に面白い」と前向きにとらえている。

’22年10月の全日本距離別選手権を最後に、ともに長年日本を引っ張ってきた小平奈緒(36歳・相沢病院)が現役を引退。世界の頂点を争ってきたイレイン・ブスト(36歳・オランダ)も昨季限りでスケート靴を脱いだ。ライバルが次々と第一線を退くなか、高木は新たな挑戦を選択。結成したチームに世界各国から有力選手が加わるような展開になれば、今後のスピードスケート界に一石を投じる存在になる可能性もある。

高木は欧州遠征出発前の表彰イベントで、歌手の加山雄三(85)と初対面。受賞スピーチに感銘を受け「“いいことは周りのおかげ、よくないことは自分の問題”というお話が心に響いた。自分も慢心せずに結果に対して常に謙虚でいたい」と実感を込めた。選んだ道が簡単ではないことは百も承知。’26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を目指すことを明言していないが「純粋に速くなりたいという思いはブレていない」と真摯に競技を向き合っている。

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Miho Takagi
1994年5月22日、北海道幕別町生まれ。5歳でスケートを始める。五輪は15歳で2010年バンクーバー五輪に初出場。’14年ソチ五輪は代表選考会で落選した。’18年平昌五輪は1000m銅、1500m銀、団体追い抜きで金。’22年北京五輪は1000mで金、500m、1500m、団体追い抜きで銀。女子1500mの世界記録保持者。サッカーで15歳以下の女子日本代表候補に選出された実績を持つ。読書好きで、本屋巡りが趣味。家族は両親と兄、姉。身長1m64cm。血液型O。

■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

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連載「アスリート・サバイブル」

時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=松尾/アフロスポーツ

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