まだまだ先行きが見えない日々のなかでアスリートはどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「コロナ禍のアスリート」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。【過去の連載記事】。
独立と新チーム結成
北京冬季五輪のスピードスケートで金を含むメダル4個を獲得した高木美帆(28歳・日体大職員)が大きな決断を下した。2022年6月16日に東京都内で記者会見し、新シーズンから日本スケート連盟のナショナルチームを離れて活動することを表明。ナショナルチーム前ヘッドコーチのヨハン・デビット氏(42歳・オランダ)とのタッグを継続して新チームを結成する。
「今年はナショナルチームではなく、個別でヨハンと活動していくことを決めました。4月にスケートを続けると決めてからいろいろ考えたけれど、最後に出てくるのがヨハンと一緒に滑り続けたいという気持ちだった。ヨハンはスケート以外でもたくさんの気付きを与えてくれる。北京五輪を終えてやり切った感があるなか、競技を続ける意義を考えた時に一歩、外に出てもいいのかなと考えた」
今後は北海道を拠点とし、オランダと行き来しながら強化を図る方針。約8年間活動したナショナルチーム時代と同様に国内での高地合宿なども計画している。当面は選手1人だが「1人では厳しい面、限界を感じるところはある。チームを作ることを求める可能性もある」と今後の状況次第では国籍を問わず、世界から有力選手を集めてチームを拡大していく可能性にも言及した。
オランダ人のデビット氏は2015年からナショナルチームで指導。高木美帆をトップ選手に育て上げるなど’18年平昌五輪、‘22年北京五輪で日本をメダル量産に導き、’21~22年シーズン終了後に退任した。’22年6月16日の会見にオランダからオンラインで参加し「美帆は自分にとって特別な存在で、ともにチャレンジができる選手。一緒に仕事ができることに幸せを感じる。どのぐらい長く現役を続けるか分からないが、最後のストロークを終えるまでずっと彼女のコーチでいたい」と宣言した。
新たな挑戦への幕開け
スピードスケートがメダルなしに終わった’14年ソチ五輪からの巻き返しを期し、日本スケート連盟が’14年夏に設立したナショナルチーム。所属チームの垣根を越えて日本のトップ選手を集め、年間を通じて活動している。選手の練習メニューや体調を一元的に管理し、血液検査や体力数値をもとに効率的なトレーニングで強化。’18年平昌五輪女子500m金メダルの小平奈緒(36歳・相沢病院)ら独自路線で練習する一部の選手を除き、五輪代表の大半をナショナルチームの選手が占める。
高木美帆は北京五輪で5種目に出場。1000mで金、500m、1500m、団体追い抜きで銀を獲得した。3000mは6位だったが、一大会4個のメダル獲得は冬季五輪の日本勢最多記録を更新。’21年度のJOC(日本オリンピック委員会)スポーツ賞の最優秀賞に選出された。4月に現役続行を決断し、今後の競技人生について熟考。ナショナルチームのヘッドコーチを退任したデビット氏に練習環境などについて相談するうちに「ヨハン(デビット氏)とやりたいと強く感じている自分がいた」ことに気付いたという。
‘18年平昌五輪で金、’22年北京五輪で銀を獲得した女子団体追い抜きは連係面が重要なことからナショナルチームの選手でメンバーを構成してきたが、高木美帆は「(日本スケート連盟の)強化部がどう考えるかによるが、ナショナルチームじゃなくてもパシュート(団体追い抜き)が強くなるために皆で高め合っていきたい気持ちはある」と意欲。一方で’26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を目指すか否かについては「ミラノ五輪より私がスケートを続けたい気持ちを大事にしたい。1年1年を積み上げていくことが大事で、その先にミラノがあるかどうか」と明言を避けた。
「今は手探りの状態。困難、壁にぶつかることもあると思うが、ヨハンと乗り越えたい。新しいチャレンジになるが、1つの道をつくれるように頑張りたい。スケーターとして速く滑りたいという気持ちだけはブレずに取り組んでいきたい」
五輪通算7個(金2、銀4、銅1)のメダルを誇る世界屈指のスケーターの新たな挑戦が幕を開けた。
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