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2022.06.10

【中村俊輔】「今もまだモチベーションは衰えていないし、欲もある」

J2横浜FC所属、43歳、中村俊輔。天才レフティ。2018年以降、負傷だけではなく、万全のコンディションでも公式戦出場時間は激減している。だが、選手として、ある意味燻りながらも、今なお挑戦し続ける彼は、何を想い、どんな心情なのか。その不屈の精神の源に迫るべく、約2年半ぶりに独占インタビューを行った。短期連載第1回。 #2 #3

組織的な戦いのなかで、いかに個を出すか、挑戦し続けられているから楽しい

中村俊輔。43歳。彼は今もなお現役のプロサッカー選手として闘い続けている。
2022年3月、開幕間もないJ2リーグで、人々の記憶に色濃く刻まれたシーンがあった。
3月13日のJ2第4節横浜FC対水戸ホーリーホック戦。アウェイの水戸が前半のうちに2点をリード。しかし、後半開始15分で横浜FCが追いついた。そして、後半38分にコーナーキックのチャンスを得た横浜FCは、ベンチに座っていた中村をピッチへと送り込んだ。

スコットランドのセルティック時代、マンチェスターユナイテッド相手にUEFAチャンピオンズリーグで見事なフリーキックでゴールを決めた中村のキックの精度はヨーロッパでも高い評価を得ている。
そんな名手をチャンスに起用する采配は、代打などのある野球と違い、交代選手数や回数に制限のあるサッカーでは実は珍しい。けれど、中村は見事にその期待に応える。交代選手としてピッチに立ち、ファーストプレーとなるコーナーキックで逆転弾をアシストしたのだ。

「コーナーキックでのアシストって、狙ってできるものじゃないから。もちろん、ゴール前にいいボール、質の高いボールを上げるのは当然だけど、決めるのは中にいる選手だから。僕ができるのは、いかに触ってもらえるボールを出すかということ」

少し照れ臭そうにそう振り返る中村。自身の起用の理由は理解すればするほど、力の入る場面だ。しかし、だからこそ、ベテランは気持ちを集中させ、力を抜いて足を振ったようだ。

「ピッチに出て、初めてのプレーだったから、集中はしました。本来なら、試合のなかでロングボールを蹴ったりして、だんだんと馴染んでいくものだけど、それもできなかった。でも、途中出場に備えて、ハーフタイムにいかにボールに触れておくかも大事になります。あと、あの日は風が強かったので、強めに蹴ろうかなとか、そういう感じでした。まあ、染みついてしまっているところもあると思います」

瞬時に状況を把握し、情報を入手しながら、どうするかを決断する。まさに準備と積み重ねてきた経験の賜物なのだろう。

「でも、それが逆に働くことも結構あるんですよ。チームのことを考えすぎて、自分のプレーができないとか。自分のプレーがチームの助けにならないこともあるし、そのバランスが難しい。」

中村の言葉からは、25年近いプロ生活のなかで培った彼のキャリアが、そのまま通用するわけではないことが理解できる。サッカーというスポーツ、彼が立つ現場は、日々変化しているからだ。

サッカーにはさまざまな戦い方があり、チーム構築の方法も時代とともに変化している。かつては選手同士がピッチ上で、お互いの個性を活かしあいながら、連動性を生みだし、試合状況(敵や味方の状態)に応じて、臨機応変に選手が判断していくスタイルが主流だった。しかし、近年ではチームの戦略、戦術を指揮官が事細かく設定し、選手はその約束事に応じたプレーを求められる。たとえば、ピッチを縦に5分割し、立ち位置やプレーエリアをある種限定する5レーン理論などは代表的なものだろう。

あらかじめルールを決めておくことで、選手間の連動性を効率的に高めることが可能となる。そんな組織としての戦い方が優先されると、選手の個性を伸ばし、活かすという面での弊害が生じるのは、サッカーに限らず、ビジネスも同じかもしれない。

「『この戦い方は自分のサッカーじゃない』ということは一切考えることはないですね。チームの、組織的な戦いのなかで、いかに自分の個を出すのかを考えます。それができないと、試合には出られないから。僕が一番好きなのは、監督が考えている以上のプレーをするということ。昔から、周りの人、観客を驚かせたい、魅せたいと思ってプレーしてきた。今も同じで、細いレーンや決められた組織の動きのなかでも、いかに自分にしかできないプレーをするか、を見つけようとしています。そうやって挑戦しているから楽しい。言われたことだけをやっているのは、ある意味簡単だから」

ピッチ上での規律から外れたプレーでも、結果に繋がれば、それもまた中村の個性になるのではないだろうか?

「周りの選手と強い関係を生み、いい攻撃やゴールに繋がるようなプレーができれば、『これはどうですか?』と提示できる。ただ、そういうことをよく思わない指揮官もいるでしょうね。それでもいいから、挑戦したいという気持ちは常にあります」

2018年以降、負傷だけではなく、万全のコンディションでも中村の公式戦出場時間は激減している。途中出場が増え、各シーズンの試合数も20試合にも満たない。「だから、アピールが大事なんだ」と話す中村の言葉は、20年前、イタリアへ渡り、出場機会を得ようともがいていたときと変わらない。

「同じですね。練習試合も含めて、やらないとダメだから。たとえば、次の試合へ向けた対策練習のなかで、僕ら控え組の選手は、相手役をやることもあるんです。そういう時間では自分をアピールすることは難しい。それでも、なんとか頑張って、先発組に選ばれるようにアピールするしかない。相手役だとしても、その役を徹底的にやって、嫌な相手になるという方法だってあるかもしれません。そうやって、現状に応じて、どうすべきかを考えていくことは、今までもずっとやってきたこと。今もまだそういうモチベーションや欲があるから、毎日を楽しく、トライできています」

一流の選手だからこそ、自身の変化にも敏感に違いない。当然、年齢を重ねたことのデメリットもあるだろう。それも含めて、現状を察知し、何をすべきかを考える。それが中村俊輔の最大のストロングポイントだ。

#2 #3

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Shunsuke Nakamura
1978年神奈川県生まれ。横浜F・マリノス、レッジーナ、セルティックFC、RCDエスパニョール、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田を経て、現在横浜FC所属。日本代表98試合出場/24得点。

TEXT=寺野典子

PHOTOGRAPH=YOKOHAMA FC

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