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2022.06.11

【中村俊輔】アルディレスに言われた、刺激的な言葉

J2横浜FC所属、43歳、中村俊輔。天才レフティ。選手として、なお挑戦し続ける彼は、何を想っているのか、独占インタビューを行った。短期連載第2回

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若い選手への助言の際、気をつけていること

中村俊輔43歳。なかなか試合出場の機会がなく、ベンチ入りの回数も減った。負傷離脱中ではない場合もある。にもかかわらず、リモート取材でのパソコンの向こうにいる彼は、自身の境遇を憂うこともなく、エネルギーに満ちあふれている。

「今のチームのサッカーでは、組織的に統制がとれた戦い方が求められていて、立ち位置のゾーンも決められている。そういうなかで動くことが僕はうまくないのかもしれません。僕はずっと、ゲーム展開や相手との力関係、相手の立ち位置、味方の状態などを見て、『じゃあ、今は少し左によって、こんなプレーをすれば効果的だろう』というふうに、考えながらプレーしてきたからだと思うんです。どちらがいいということは一概には言えない。でも、そういう組織のなかで、自分がどうすべきかを日々考えている」

チャレンジ、トライしようとする中村を見ていると、2010年ワールドカップ南アフリカ大会を思いだす。開幕直前に堅守速攻へとチームの戦い方が変わり、先発を外れた大会でも、「僕は近くに味方がいるほうが力を出せる選手。でも、今の戦い方でもやれることはある」とまっすぐに前を見据えていた。

そういうポジティブな思考を彼が身につけたのは、18歳でプロ入り後、彼を指導してきた監督の影響が大きいのかもしれない。

「僕はスペイン人のハビエル・アスカルゴルタやアルゼンチン人のオズワルド・アルディレス、そしてブラジル人のセバスティアン・ラザロニとJリーグでもずっと外国人監督のもとでプレーしてきました。多くの監督から、プレーについて何かを指摘されたことはなかった。外国人監督って、言葉で何も言わなくても、拍手をしてくれたり、イビチャ・オシムもそうだったけど、小さな声で『ブラボー』と言ってくれたりするんですよ。

そういう監督の振る舞いは選手にとってはとても嬉しいことなんです。そんな指揮官が示す基準はとても高いものだったけれど、それは選手のチャレンジを促す環境を作りだしてくれたと思っています。そうすると選手はどんどん挑戦しようとするし、そういった環境でプレーするのは楽しいし、成長できるんです」

「こうしなさい」「こうすればいい」という正解不正解を与えるのではなく、選手自らが察し、考えるために成長曲線も太く、個性的になるのかもしれない。中村もまた、後輩たちに対して、かつての恩師と同じような振る舞いをしている。

「今、若い選手に、厚かましいかもしれないけど、『こうやってやったら、こうなるかもしれないから、いいんじゃない』というような話もします。基本的にはあまり言い過ぎない。経験は自分の経験でしかないから。でも、試合でうまくいかなかったとしょげている選手を気にかけてはいます」

試合に出てもいない自分が、アドバイスをするのはいかがなものかという躊躇もない。自分の経験を授けることで、若いチームメイトを「ポジティブにさせたい」と中村はいう。

「すごく頑張っているのに、なかなか評価されない選手のなかには、すぐに不貞腐れてしまう人もいます。日本の社会って、そういうことにすごく厳しいですよね。『あいつはいいものを持っているのに、メンタルが弱いからダメだ』とか。でも、僕はそういう選手が大好きなんですよ。そういう選手に刺激を与えるというか、くすぐりたいと考えるんです。『がんばれ、不貞腐れるな』みたいなことは言わない」

中村は続けて、こう話した。

「たとえば、ドリブルで相手陣地へスピードに乗って、侵入したとき、相手ディフェンダーと交錯してしまい、チャンスが台無しになった。その際、『そこまでスピードを上げる必要はない』という指摘をする指導者もなかにはいると思います。たしかにパスを選択すれば、チームとしてのチャンスは残るという側面も当然あります。でも、それでその選手が縦への推進力に溢れたドリブルを躊躇するようになるのはもっともったいない。

だから僕は言うんです。『今の指導者の言葉は大事だけれど、世界には何万人もの監督がいて、お前のプレーを好きな監督だって100人以上いるかもしれない。だからやめるな』と。同時に『スピードに乗ったあとに、どう止まるかというブレーキの技術を身につけたほうがいいし、ドリブルしながら顔を上げて、味方に一旦パスを出して預けたあと、もう一度ボールをもらえたら、ゴールまで見えてくるんじゃないか』と。

若い選手はそうやってチャンレジをしながら、自分で見つけていくことが成長に繋がる。それは僕自身がそうだったから。『あれはよくない』と言われたら、やめてしまう可能性があるんです。だって試合に出たいから。それは成長を止めることになるんじゃないかというふうに感じることがあります」

若い選手への助言については、「タイミングと言い方に気を配る」とも話す。

「その選手の人間性やプレースタイル、性格などを考えて、どういうタイミングで、どういう言い方をすればいいのかを考えます。練習前のアップのときに何気なく話すこともあれば、練習後にすぐに話すとか、風呂場や食事のときにサッカーとは関係ない何気ない話をしながらとか、いろいろなシチュエーションがあるので」

そんな中村にとって心に残るひと言があった。2000年前期優勝を飾った横浜F・マリノスの指揮を執った、オズワルド・アルディレスだ。

「ある試合で相手のボランチの選手が、ずっと僕にマンマークでついていたんです。だから、僕はあえてボールを触らないようにしていた。パスももらわず、スペースを空けるようにプレーしました。厳しくマークされているので、そこでボールを失いたくなかったから。

すると、ハーフタイムに監督に言われたんです。『ナカさん、なんで逃げているの。あなたはチームの中心なんだから、どんどんボールをもらいなさい。みんなもナカさんにパスを集めるように』と。チームメイトの前ではっきりと言われたんです。

マラドーナといっしょにプレーしていた監督がいうんだから、その通りにやってみようという気持ちになりました。後半はマーカーとやりあいました。うまく抜けることもあれば、失敗してボールを獲られることにもなった。それでも僕がトライすることで、『闘うんだ俺は』というのをチームメイトに示すというのを監督はやらせたかったんだと思うんです。

だから、あえてみんなの前で『パスを出せ』といったんだと思うし。あれはちょっと刺激的でしたね。いつどこで、どんなふうに選手に対して言葉を発するのか。その影響力を実感するひとつの体験になりました」

ベテランという立場になれば、自然とチームを俯瞰した眼で見ることになる。けれどもそれは一歩引いたという意味ではないだろう。引退後は、指導者の道を歩むことを決意している中村だが、今はまだ現役の選手だ。

「若手が僕を見ても得るものはないんじゃないかな? 僕もそれを意識することもないですね。何か感じてくれたらそれはそれでいい。後輩のためにやっているということもない。僕は選手だから、自分も成長しなくちゃいけない」

レギュラ―争いから離脱したわけではないのだから。

#1
3回目は、6月12日公開。

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Shunsuke Nakamura
1978年神奈川生まれ。横浜F・マリノス、レッジーナ、セルティックFC、RCDエスパニョール、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田を経て、現在横浜FC所属。日本代表98試合出場/24得点。

TEXT=寺野典子

PHOTOGRAPH=YOKOHAMA FC

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