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2022.01.06

スピードスケート・加藤条治が最後まで譲れなかったもの──連載「コロナ禍のアスリート」Vol.40

まだまだ先行きが見えない日々のなかでアスリートはどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「コロナ禍のアスリート」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

Photo by Naoki Morita/AFLO SPORT

一番大事なのは絶対に諦めないこと。自らの生きざまを示す滑り

全力を出し切った36歳のベテランに、惜しみない拍手が送られた。スピードスケートの北京五輪日本代表選考会が昨年12月29~31日に長野エムウェーブで開催され、男子500mに元世界記録保持者の加藤条治(36=博慈会)が出場。最終コーナーで転倒して最下位の25位に終わり、5大会連続の五輪出場の道が絶たれた。

「長い時間かけてこのレースに向けて調整してきた。結果は転んでしまったが、自分の力は出し切れた。悔いはまったくない」

最初の100mは全体4位の9秒58。9秒53で滑った’18年平昌五輪以来の高水準の入りだった。バックストレートも勢いを失わず、猛スピードで最終カーブに突入。頂点を過ぎて好タイムの期待が膨らんだ矢先に、バランスを崩した。

「我慢する間もなくブレードが飛んでしまった。粘って耐えられるものではなかった」

体は外側の緩衝材まで吹っ飛んだ。
即座に立ち上がると、転倒した地点まで戻り、最後まで滑りきった。

「転んだ瞬間にまだ諦めていない自分がいた。自分のことだけど、滑りながら感動した。転んだ後のルールを知らないので、どうすればいいかわからなかった。一応、自分が転んだであろう位置まで戻って滑り直した。失格にならなければ順位はどうなるかわからない。一番大事なのは絶対に諦めないこと」

53秒45のタイムは24位の選手よりも18秒以上遅い。自らの生きざまを示す滑りだった。
ゴール後は転倒の際に傷ついた氷を修復するため、次の組のスタートまで数分の時間が空いた。加藤は観衆の拍手に応えながらリンクを1周。

「自分の転倒で時間ができて、申し訳ない気持ちがあったが、観客の皆さんの温かい拍手に応えたいと思い、自分で作った時間を使わせてもらいました」

誰よりも大きな歓声を浴びた感動的な時間だった。
20歳だった2005年11月に34秒30の世界記録(当時)を樹立し、一躍注目を浴びた。’06年トリノ五輪は6位。’10年バンクーバー五輪は銅メダルを獲得し、ライバルで2位となった長島圭一郎とともに表彰台に立った。’14年ソチ五輪は5位、’18年平昌五輪は6位。4大会連続で入賞を果たした。

平昌五輪後は腰痛などケガに苦しみ、手術も経験。満足に練習を積めない日々が続いた。一時は引退も頭をよぎったが、周囲のサポートを受けながら現役を続行。昨年10月の全日本距離別選手権で7位に終わり、今季のW杯出場権を逃してからは、北京五輪日本代表選考会に照準を絞って、調整を続けた。

男子500mは昨年11、12月に開催された今季W杯第1~4戦で新浜立也(25=高崎健康福祉大職)、森重航(21=専大)ら日本勢4選手が表彰台に上がり、世界トップレベルの選手が並んだ。加藤は「五輪切符は難しいとわかっていたが、本気で狙っていた。(ここ数カ月で)ちゃんと滑れたのは今日だけ。しっかりピークを合わせられた。自分がやってきたことは誇りに思う」と胸を張った。

レース前日には車を運転中に衝突事故に遭い、公式練習をキャンセル。ケガはなく「まったく影響はなかった。公式練習を欠席したが、不安はなくて、体も前半から動いた」と言い訳にはしなかった。

今後については「スケートは楽しいし、続けたいと思っているけど、これ以上本気でやるのは無理かなと思っている。4年後は完全に無理」と’26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を目指さないことを明言。五輪挑戦に終止符を打ち、第一戦を退く方針を示した。

転倒しても最後まで諦めなかった魂の滑りは、北京五輪日本代表に選出された後輩達の心にも響いたに違いない。W杯通算14勝は小平奈緒、清水宏保、堀井学、高木美帆に続く、日本勢歴代5位。一時代を築いたスプリンターは最終レースでも強烈なインパクトを残してリンクを去った。

TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=アフロ

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