ビジネスの最前線で闘うリーダーやスペシャルな人の傍らには、仕事に活力を与え、心身を癒やす、大切な愛用品の存在がある。それらは、単なる嗜好品にとどまらず、新たなアイデアの源となり、自らを次のステージへと引き上げてくれる、最強の相棒=Buddyでもあるのだ。今回紹介するのは、クリエイティヴディレクター佐藤可士和が愛用するポール・ケアホルムのアルミチェア&榛原の葉書。特集「最強の相棒」
優れたプロダクトは思考をクリアにしてくれる
背面と座面が一体になったシェル状のフォルムとそれを絶妙なバランスで支える3本の脚。凛とした美しさを放つ「アルミチェア」をデザインしたのは巨匠、ポール・ケアホルム。1953年の製作当時は市場にほぼ出回らず、長らく幻の名品とされていたが、2007年にケアホルム一族がわずかな数限定で復刻。そのひとつを、縁あって手に入れたのが、ケアホルム好きを自負する佐藤可士和氏だ。アルミチェアの存在は知らなかったものの、今後販売予定はないと聞き、購入を即決した。
「自室に置いていますが、座ることはほぼないですね。僕にとって、家具は実用的なアート。基本的には使うために買うのですが、これは別。希少なものということもあり、オブジェとして飾っています。細部に至るまで美しく、ケアホルムらしい挑戦もうかがえる。目にするたびに、刺激をもらっています」
佐藤氏にとって、目に入るものすべてが創作活動に影響する。インテリアはもちろん使う物すべてを厳選し、イスの配置までも数ミリ単位で調整するのも、「脳が濁らないため」だ。
「僕の仕事は、本質を追求することが大切。余計な物や色が氾濫し、整っていない環境だと、思考が乱れてしまいますから」
日本の伝統美に現代的解釈を加え、世界に発信
もうひとつ、最近の愛用品として挙げてくれたのが、和紙の老舗、榛原の真っ白な葉書。
「ここ数年、メールではなく、葉書でお礼状を出すことが増えました。と言っても、かしこまったものではなく、絵を描いて一筆添える、絵手紙みたいなもの。葉書で、和紙の風合いもいい感じからか、相手先にも好評なようです。特に榛原の葉書は、ピンとしていて、適度に厚みがあり、絵手紙に最適。手漉きの感じも気に入っています」
’16年、佐藤氏は日本文化を世界に発信する文化庁文化交流使に任命され、パリの国際見本市で有田焼の作品を発表。その過程で、和紙に青い岩絵の具でスプラッシュペインティングを施した「FLOW」が生まれた。その際にさまざまな和紙を手にし、その魅力を再認識したという。
「職人が手で漉(す)いた和紙は、工場で大量生産される紙とはまったく違います。一枚一枚に表情があって、白い和紙を並べただけでアートピースになるのでは、と思うほど。それに、和紙を手にしていると、すごく落ち着く。森林が多い国で、木造の家に伝統がある日本人にとって、木を原料とした和紙は、DNAに訴えるものがあるのかもしれません。そういえば、ケアホルムも日本が大好きだったそうです。確かに彼の作品には、日本的グラフィカルな要素を感じます」
アルミチェアと和紙の葉書、いずれにも共通するのは、佐藤氏の“ジャパニーズ愛”だ。
「日本の伝統文化や匠の技は、世界に誇れるもの。これからも、そこに僕なりの現代的解釈を加えてデザインし、積極的に海外に発信していきたいですね」
クリエイティヴディレクター 佐藤可士和
1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、博報堂を経て、「SAMURAI」を設立。多くの企業のブランディングやアート制作など多方面で活躍。『佐藤可士和の超整理術』『佐藤可士和の対話ノート』ほか、著書多数。