ニューヨークにユニクロが世界初のグローバル旗艦店をオープンしたのは2006年。そこからの快進撃の陰には、最初に出会ってから15年間毎週早朝から始まる、柳井正と佐藤可士和のふたりのOne to Oneの時間があった。対談後編をご覧ください。(前編はこちら)
社会を見ながら、会社をどういう方向に変えていくか考える
柳井 昨年はコロナ禍において、「UNIQLO TOKYO」「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」「ユニクロ 原宿店」の3つの大型店をオープンさせました。けれど、もともとあの3店は、ユニクロを改めて東京から世界に向けて発信しようと、オリンピックを視野に入れて進めていたもの。でもコロナになり、日本の皆さんが元気をなくしている。それなら、皆さんを元気にさせよう。僕らが元気に商売していることを、世界に発信しようという目的に変えた。普通ならあの状況下で新店舗なんてオープンさせるか? と思われるかもしれない。でもあの店は、我々のブランディングにはとても重要な店舗だったんです。
佐藤 3店をほぼ同時進行でつくるのはかなり大変でした。店のデザインは、スイスの建築家ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロン(UNIQLO TOKYO)や建築家の藤本壮介さん(UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店)など一流の人にお願いし、3店舗の店のコンセプトからマーケティング戦略を全部ディレクションしていたんです。そうしたらコロナになってしまい、「どうすればいいんだ!」と思いました。
柳井 可士和さんじゃなく、他のクリエイターだったら「こりゃあかん」って、逃げたかもしれないな。
佐藤 結果として、3店舗が大成功で本当によかったです。柳井さんとのOne to Oneでもコロナについてかなり話し合いましたね。実は柳井さんと話しているのは社会問題がほとんど。
柳井 服屋がする話じゃないですよね。でも本当に大事なことは、社会を見ながら、会社をどういう方向に変えていくか考えること。僕が可士和さんに会えるのは、1週間に30分という短い時間。本当は2時間ぐらいもらいたい、そうしたほうが、絶対に儲かると思う(笑)。
佐藤 いやいや、柳井さんも僕も他のミーティングがいっぱいあるじゃないですか。
柳井 ああ、時間ばかりかかるミーティングね(笑)。
ユニクロは挑戦を楽しもうと思ったら楽しめる会社
佐藤 僕らが夢中で話していると、いつも「社長、お時間です」って秘書の方に今日はここまでって言われますよね笑)。また、僕は社員ではないので、「社長」ではなく「柳井さん」と呼んでいます。柳井さんと長くお付き合いをして、実はこの距離感がいいなと思っているんです。もちろんリスペクトしているし、一緒に楽しくお仕事させていただいていますが、柳井さんやユニクロを、かなり客観的に見ているんです。
柳井 その客観的な意見を誰かに言ってもらわなきゃいけません。僕はクライアントとクリエイターは対等なものだと思っていますが、世の中にはクライアントが上だと思っている人が多い。そういうクライアントはダメ。もちろん下でもダメです。
佐藤 プランを実行するのはクライアントですからね。
柳井 可士和さんは理路整然としているけど、実はパンク少年。だからああいうクリエイションができる。要はルールを破るってことでしょう?
佐藤 常に常識を覆したいんです。ファーストリテイリングのステートメント「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」も一緒につくらせていただきましたが、経営者としてこのスローガンを掲げると決断された柳井さんはすごいです。普通は怖くて言えないですよね。「本当に変えられるんですか?」と問われますから。でも実際にやっていますし。
柳井 勇気とチャレンジャー精神がないと、うちの会社で仕事をするのは難しいね。勇気とかチャレンジって言葉が好きな人がいいよね。
佐藤 ユニクロは挑戦を楽しもうと思ったら、とても楽しめる会社。
柳井 でも今こそ、未来の企業というか、これからどうなるのかを客観的に考え、新しいことをクリエイトしていかなきゃいけない時期ですよね。コロナ終息後、我々のビジネスがどこに行くのか。世の中はグローバリゼーションから分断へと進行していると言われているけど、分断なんかされるわけないからね。だから世界の人々が幸せになるグローバリゼーションとは何か、それを考えていくのがクリエイターじゃないですか? 人も世界もつながらない限り、幸せにはならないよね?
佐藤 そのとおりです。そういう意味では社会がどこに向かうのか? 何をしたら理想的なのかを考えることが、ユニクロのビジネスに直結すると思います。
柳井 そうですね。クリエイターがそのコミュニケーションのため、会社をどういう風に変えるのかを考える。そこからマーケティングが始まります。
佐藤 ところで、柳井さんは今の仕事以外にやってみたいことはありますか。
柳井 僕は将来、美術館みたいなものをつくりたいんです。
佐藤 会社の経営者じゃなかったら、アーティストになっていたかもと、以前ポロッとおっしゃっていましたね。
柳井 僕は構想するのは好きですが、実際に自分でやったら下手だと思います。だから美術館をつくるとしたら、可士和さんに一緒に考えてほしいですね。
佐藤 柳井さん、それ、仕事じゃないですか(笑)。
柳井 だって僕も可士和さんも人生をかけた趣味が仕事でしょ。
佐藤 確かに。
柳井 本当にそれをやっている時が一番楽しい。僕と可士和さんの生き様でもありますね。