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2025.04.18

⼩⼭薫堂が手がける、大阪万博・食のパビリオン「EARTH MART」に潜入

万博で食のパビリオンをプロデュースする小山薫堂氏。本誌でもおなじみの食のスペシャリストの想いとは――。

パビリオンの外観

小山薫堂が空想する、いのちのスーパーマーケット

「大阪・関西万博」が大阪・夢洲(ゆめしま)で2025年4月13日に幕を開けた。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、158の国と地域、7つの国際機関が参加。各パビリオンを実験場とし、「未来社会の共創」や「人類共通の課題解決に向け世界の英知を集める」ことに取り組む。

テーマ事業プロデューサーである小山薫堂氏が提案するのは、「食を通じて、いのちを考える」こと。限りある食資源の大切さと、それを分かち合う喜びを伝えることをコンセプトに、パビリオンを「EARTH MART」と名づけた。

「スーパーマーケットに行くと、ワクワクするでしょう。子供からお年寄りまでが等しく楽しめる場。楽しみながらも、いのちの重みを感じてもらうきっかけになればと思っています」

建築デザインは、隈研吾建築都市設計事務所の若手デザイナーから募集を行い、多種多様な50近いアイデアから、いくつかのアイデアや要素を組み合わせたという。里山風景を思わせる茅葺屋根が印象的な外観、一変してパビリオン内は光や映像、録食(調理データ化技術)などフードテックを駆使した近未来空間になっている。

いのちの重みと未来食を考える多彩な展示

入館してすぐのスペースがプロローグ。ここでは、パビリオンのコンセプトをアニメーションで映像化して来場者に説明。扉が開くと、そこに「いのちのフロア」が出現する。

「人は人生のなかで、どれほどのものを“いただいている”のかを『いのちのフロア』で展示しています。野菜や魚、家畜、卵などひとりのいのちを紡ぐために、どれだけの他のいのち、自然の助けが必要か。それを知るだけでも、食への見方が変わるはずです」

長崎県の農家が作物から種をつないでつくる78種の野菜は枯れた姿で、地球上で一番多く食べられる魚・鰯(いわし)が、空間を回遊している。人が一生に食べる卵は、シャンデリアのような展示に。知らなかった食の数値や実態が目に見える演出で展示される。世界中の人々のリアルな食卓や1週間分のレシートからも、食の今が見えてくる。

卵のシャンデリアを見上げる小山氏
小山薫堂/Kundo Koyama
1964年熊本県生まれ。放送作家・脚本家。これまでに斬新な番組を数多く企画・構成。脚本を手がけた映画『おくりびと』は、米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。現在は、地域・企業のプロジェクトアドバイザーなど多彩なジャンルで活躍。くまモンの生みの親としても知られる。

続いて「未来のフロア」は、古(いにしえ)から継がれる食と最新のフードテックを展示するスペース。

「それぞれの国が持つ食の知恵や技術を融合し、共有する。大切なものを忘れずに未来に持っていければ、よりよい食生活をつくれるはず。例えば日本には海藻を食べる文化や発酵文化があります。これらは健康へも結びつく知恵の集積。世界に共有することで、食文化の発展や環境問題の解決にもつながります」

このスペースには、日本を代表する鮨職人「すきやばし次郎」の小野二郎氏のにぎりの技を3
D立体映像で見せるパートが登場。他にも、パウダー状の冷凍食や味を記憶し再現する録食、日本ならではの25の食材などが未来を支えるフードテクノロジーとして展示されている。

今回の展示に協力してくれた面々
小山薫堂氏(中央)と家畜写真家のタキミアカリ氏(右から2番目)、パティシエの鎧塚俊彦氏(左から2番目)ら、今回の展示に協力してくれた面々。

「いただきます」が幸せな未来につながる

「いのちある食材はもちろん、食材を育てる人、獲る人、料理をつくる人への『いただきます』という感謝を、いつも心に持っていたい。見過ごしているもの、本当に大切なものを、それぞれが見直す。それが感謝や優しさになり、幸せにつながる。昨日よりも今日の食事の時間を少し大切にしたくなるはずです」

来館者同士が大きなテーブルを囲むエピローグの手前には、この場所で漬けた梅干し「万博漬け」のプレゼントも。ただし、受け取れるのは、25年後の2050年。その梅干しを開ける時に、今回の万博での思い出を誰かと共有してほしいと小山氏。

果たして、世界の人が「万博漬け」を味わう時、どんな食の未来が開けているのだろう。

食を通じていのちへの感謝が生まれる仕かけや展示

生きるとは、食べるということ

「いのちのフロア」では11個の展示を用意。「いのちのはかり」で計るのは、いのちの重さ。はかりに食品を載せると、背景にある自然の営みや物語がアニメと数字で表示される。「コーヒーやはちみつなど、食品のいのちのストーリーを感じてください」(小山氏)。

一方、「未来のフロア」の展示は6つ。「進化する冷凍食」では、あらゆる食材を凍結粉砕してパウダーに。それは、ただ便利というだけでなく、食材ロスや飢餓の問題を解決する、美味しくて新しい食べ物だ。「新しい価値を持つ、未来食品の可能性が見えてきます」(小山氏)。

EARTH MART FORUM on 飛鳥Ⅱ

飛鳥Ⅱ
飛鳥クルーズアンバサダーを務める小山薫堂氏は、万博終盤となる2025年10月に、クルーズ客船「飛鳥Ⅱ」で食の未来を考える「EARTH MART FORUM 」を開催予定。そこで提供される日本酒を中田英寿氏がプロデュースするという。

EARTH MART

開催日時:2025年4月13日(日)~10月13日(月・祝)10:00〜21:00(最終入場20:20)
場所:大阪・関西万博会場内
料金:平日券 ¥6,000、夜間券 ¥3,700(17:00以降入場)、一日券 ¥7,500
HP:https://expo2025earthmart.jp

EARTH MARTでは地球の食の未来をよりよくするため、日本発の食文化やアイデアを共有するためのリスト「EARTH FOODS 25」を発表。リオネル・ベカ氏(ESqUISSE)、サンティアゴ・フェルナンデス氏(MAZ)、石坂秀威氏(SEA VEGETABLE)、加藤峰子氏(FARO)、桑木野恵子氏(里山十帖)の5人のシェフが、その食材を使って新しいコンセプト料理を展示する。

TEXT=中井シノブ

PHOTOGRAPH=福森クニヒロ

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