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TRAVEL

2023.05.21

京都ツウにこそ訪れてほしい、アートな老舗旅館

嵯峨野トロッコ列車で京都・嵐山から亀岡・馬堀まで約25分、はたまた、JRならば京都駅から亀岡駅まで約20分。そこからクルマで約15分で到着できるのは、京都の中の別世界だ。京都に旅慣れた人こそ、新鮮な驚きのある老舗旅館「すみや亀峰菴」に幻想的な一室が完成した。

老舗旅館「すみや亀峰菴」

装飾を極力排した、透明な「天」のお風呂。光の反射が見事に作り出される。

アート作品に宿泊するという贅沢

デスティネーション・ホテル、そこに泊まるために旅行の計画を立てる。そんな価値ある老舗旅館が京都の奥座敷にある。戦国武将が傷を癒やしたと言われる古湯・湯の花温泉で65年以上続く、京都・亀岡の老舗旅館「すみや亀峰菴」だ。自然豊かで静かな環境と、掛け流しの天然100%ラジウム泉の泉質で、リピーターの多い隠れ家でもある。

老舗旅館「すみや亀峰菴」

昔懐かしい茅葺き屋根の門。

玄関の情緒溢れる茅葺門をくぐると、出迎えるのは一転して、現代アートを取り入れたロビー兼アートギャラリー「百代(はくたい)」。2021年より始まったプロジェクトで、世界的な現代美術家の柳幸典(やなぎ・ゆきのり)氏とタッグを組んで、数年に渡ってリノベーションが行われた。詩人・李白の詩「それ天地は万物の逆旅(げきりょ)にして光陰は百代の過客なり」の冒頭から、永遠の旅人を意味する百代と名づけられた。

老舗旅館「すみや亀峰菴」

ロビー兼アートギャラリー「百代(はくたい)」に柳氏が設えた5つのエリアのうちの2つ。奥には丹波を拠点とする陶芸家、石井直人氏の作品が置かれている。

老舗旅館「すみや亀峰菴」

葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」をモチーフにした砂絵作品が。近づいてよく見てみると、アリに侵食されていて、不思議な風景を作り出している。

目玉は、今年ついに完成を果たした露天風呂つきのアートルーム「呼風(こふう)」だ。ロビーと共通する鉄製の扉を入ると、柳幸典作品の象徴ともいえる左右対称に配された回廊が出迎える。テーマは「天」と「地」をつなぐイカロスの回廊。1つの客室の中に全く異なる世界観が共存し、回廊を歩いて行くと「天」と「地」の境目に立っているような感覚になれるポイントがあるので、ぜひ体験してみてほしい。思わず美術館に来たかのような高揚感に包まれる。

老舗旅館「すみや亀峰菴」

左が「天」へ、右が「地」へと続く回廊。

まず左側に進む。ベッドルームに隣接している露天風呂には、夕暮れと共に虹が現れる「天」の風呂が鎮座する。透明でミニマルな立方体の浴槽はただただ美しい。京都・亀岡の自然に抱かれながら、プリズムから虹が生まれ出るこの風呂に入る気持ちやいかに。

そして、玄関から回廊を右側に進む。一見真っ黒に見える回廊も目が慣れてくると、壁に表情があることがわかる。和紙職人ハタノワタル氏が手がけた手漉(てす)き和紙の一様ではない風合いがなせる技だ。回廊の先には火が灯る、陶芸家・石川直人氏の破れ壺が。焔のゆらめきに、見惚れてしまう。

老舗旅館「すみや亀峰菴」

「天」のお風呂とは対照的な「地」のお風呂。職人技のコラボレーションが楽しめる。

ここでは「地」の表象として、1200度を超える高温で焼かれ、変形した破れ壺をその裂け目からゆらめく焔(ほのお)で、「天」と対峙させたという。さらに、左官職人・久住章氏氏の技術によってつくられた「地」に抱かれるような大きな浴槽は1点ものだ。壁には陶芸家・石川直人氏の織部釉(ゆう)の緑の陶板を設えた。大地の生命力、死と再生の胎動を表現した浴室だという。

老舗旅館「すみや亀峰菴」

変形した破れ壺から焔が力強くゆらめく。

2年以上の歳月をかけて、少しずつ完成に近づいてきたこのアートルーム「呼風」。その最後のピースが今年設置された。それが、280年を超える歴史を誇る京都の帯匠「誉田屋(こんだや)」の十代目当主・山口源兵衛氏により、プラチナの糸で織られた八重菊の文様が入った作品「八重菊白金(やえぎくしらかね)」だ。制作にあたっては「菊は湯の友」という発想を起点とし、湯の香りに菊花を添える趣向にまかせて、伊藤若冲の「菊花流水図」にインスピレーションを得た。「呼風」の和室の襖に施され、存在感を放つ。

老舗旅館「すみや亀峰菴」

アートルーム「呼風」の最後のピースとなった「八重菊白金」。その美しい職人技に見惚れてしまう。

京都を拠点に伝統の技を振るう作家・職人たちと、現代美術家・柳幸典氏との協働によってつくりあげられたアートルーム。アート作品を見るだけではなく、そこに身を置く滞在で、未だかつてない心の旅も可能にしてくれる。

日本一、オーストリアワインを提供する旅館

「古(いにしえ)を新しく楽しむ」という経営姿勢は食体験にも表れている。ダイニング「旬膳 瑞禾(ずいか)」に入ると、すぐに目に飛び込んでくるのはかまど、京言葉では「おくどさん」。漆喰職人が手がけたおくどさん、たたきの土間、研ぎ出しの流し台などにもこだわり、京都の昔ながらの台所を彷彿とさせる懐かしい空間が広がる。

老舗旅館「すみや亀峰菴」

月替り懐石が好評。オーストリアワインとのペアリングを楽しんで。

盆地で霧深き里、京・丹波の亀岡は、米や京野菜の名産地。この地ならではの四季折々の懐石料理に舌鼓を打つ。特筆すべきは、料理に合わせたオーストリアワインだ。実はここ「すみや亀峰菴」は、日本で20年以上に渡りオーストリアワインを提供している旅館でもある。ソムリエであり、オーストリアワイン大使でもある田中徹氏によると「豊富なミネラルと心地よい酸は、和食の多様な味わいと相性が抜群」。料理長と相談の上、和食との最適なワインペアリングを提案してくれるので、オーストリアワインの美味しさに開眼するかもしれない。ソムリエの話を聞きながらの食事は、より一層食事を味わい深いものにしてくれる。

京都の奥座敷、亀岡の地で、古きと新しきを体感できる「すみや亀峰菴」。

京都に旅慣れた人にこそ、訪れてほしい湯宿だ。

すみや亀峰菴
住所:京都府亀岡市稗田野町柿花宮ノ奥25番地
TEL:0771-22-7722

アートルーム「呼風」
料金:1泊2食 ¥110,000/名〜(2名1室利用時)

TEXT=谷内田美香(ゲーテ編集部)

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