憧れのスカイラインの本質的価値を取り戻した「400R」【クルマの教養】

歴史ある名車の“今”と“昔”、自動車ブランド最新事情、いま手に入るべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から“クルマの教養”を伝授する!
 

憧れの象徴でありながら、挫折も経験してきた名車

クルマに詳しくなくとも、日産「スカイライン」の名を知っている人は少なくないはずだ。その誕生は、1957年と古く、まさに時代は、日本のモーターリゼ―ションの夜明けである。モータースポーツで活躍し、多くの日本のクルマ好きを虜にした。世界に誇る日本のスーパースポーツ「GT-R」も、元々はスカイラインの高性能車であった。

その栄光の歴史にも、何度も挫折の経験があった。そのひとつが、'77年に誕生した5代目スカイライン。通称「ジャパン」と呼ばれたモデルである。「ケンメリ」の名で親しまれ、大ヒットとなった4代目スカイラインの後を受け継いだが、デビュー時は、厳しい排ガス規制の影響で、歴代モデルのような高性能なエンジンを搭載することは叶わなかった。その結果、'79年にマイナーチェンジを受けた2代目セリカに、「名ばかりのGT達たちは道を開ける。」というキャッチコピーを掲げられ、弱体化したスカイラインは挑発を受ける。それは、スカイライン、いやファンにとっても、屈辱的だったに違いない……。

その名誉を挽回したのが、'80年4月に、投入された高性能なターボエンジン搭載車であった。強烈な加速が売りのターボ車を手にしたことで、キャッチコピーに、「今、スカイラインを追うものは誰か」を採用。まさに半沢直樹的な見事な返しをしてみせた。

改革は本質を問う結果に……

現行型となる13代目スカイラインは、2014年に発売。姉妹車となる海外向け高級車「インフィニティQ50」の影響を強く受け、日産車ながら、インフィニティエンブレムを装着するなど、新しい上級セダンであることを前面に打ち出した。従来のスカイライン像を打ち破るためか、伝統の丸目4灯テールランプも廃止。パワートレインにも、時代の流れが反映され、3.5LのV6ハイブリッドとダウンサイズの2.0L直列4気筒ターボの2本立てとなった。このダウンサイズターボエンジンは、提携関係にあったダイムラーより供給されたエンジンである。まさに合理的かつクレバーな新時代の高級セダンへとスカイラインは転身を狙ったのである。

しかし、長年のスカイラインファンにとって、新型は、どこにスカイラインらしさを求めていいものか、大いに悩ませることになる。'07年に復活したGT-Rも、スカイラインの名が取り払われてしまった。熱心なファンが愛する高性能なスポーツモデル「スカイライン」は、消えてしまったといっても過言ではない。その想いを打ち破ることになるのが、'19年7月のビッグマイナーチェンジだ。新型の象徴といっても良いインフィニティのフロントマスクとエンブレムを取り払い、日産仕様のフロントマスクにフェイスリフト。伝統の4灯式丸目テールランプも復活され、ビジュアルのスカイラインらしさが取り戻された。

最も世間の関心は、スカイラインが初搭載となる新運転支援技術「プロパイロット2.0」に集まった。しかし、ファンの心を最も捉えたのは、新技術でもスタイルでもなく、新エンジンにあった。それが、ダイムラー製のダウンサイズターボと入れ替わった日産製3.0LV6ツインターボエンジンの存在だ。最高出力306ps、最大トルク400Nmを発揮する高性能なもので、まさにスカイラインらしい性能のエンジンである。しかし、このエンジンには、熱心なファンに向けた特別仕様が用意されていた。それがトップグレード「400R」だ。高性能なV6ターボエンジンに、さらに手を加え、最高出力を+99psとなる405psまで向上。最大トルクも、+75Nmの475Nmまで強化。これは事実上、スカイライン史上最もパワフルなカタログモデルであることを意味していた。

その加速は、強烈かつ痛快なもの。確かに公道で405psの実力を発揮できるシーンは、高速道路の合流や追い越し加速、登坂路などに限定されるが、その瞬間こそドライバーにとって至上の喜びとなる。何よりも一見、普通のセダンなのに、400psオーバーのエンジンを積む後輪駆動車に乗ることだけでも、オーナーにとって背徳的な刺激なのだ。

高性能なクルマが溢れる現代では、ややオーバーな表現かもしれない。ただスカイラインの歴史を振り返ると、2代目スカイラインの高性能モデルは、「羊の皮をかぶった狼」と称された。その感覚を思い起こされるのだ。ただ400Rのエンジンの凄さは、特別な瞬間に限らず、しっかりと日常でも魅力を味わえることだ。まずエンジンのスムーズさ。かつてのスカイラインを思い起こさせる滑らかな回転フィールを見せ、細やかなアクセル操作にもリニアな反応を見せる。まさにドライバーの意のままに操れるエンジンなのだ。

足回りには、「インテリジェント ダイナミックサスペンション」と呼ぶ電子制御ショックアブソーバーを標準化することで、高速走行時の安定性を高めながら、優れた乗り心地も実現。スポーツセダンと高級セダンの魅力を両立させている。高性能と優雅さを両立したスポーツセダンこそ、多くの人が憧れたスカイラインの本質的価値でもある。いつの時代でも、スカイラインは高性能な大人のクルマであったのだから。

スカイラインであり続けることに意味がある

スカイラインにファンが求めるものは、その受注にも表れており、発売直後は、全体の52%がV6ターボ車。その半分を400Rが占めた。最新情報によると、65%がターボ車で、そのうち40%が400Rなのだ。セダン不況と呼ばれ、400Rの価格が552万3120円と高価にも関わらず、この支持率なのだ。まさに400Rこそ、今、求められるスカイラインともいえるだろう。

現行型スカイラインらしさの復活は、かつてのジャパンの復活と重なる。時代は流れても、他を圧倒する高性能ではなくては、スカイラインにあらず……。スカイラインは、理想とするスカイラインでなくてはならない。そんな宿命を背負ったクルマなのである。


大音安弘
大音安弘
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に『ベストカーWEB』『webCG』『モーターファン.jp』『マイナビニュース』『日経スタイル』『GQ』など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、全てMT車という大のMT好き。
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