大ベストセラーとなった“ビリギャル”同様、第2弾の著書『勝手な夢を押しつける親を憎む優等生と、東大は無理とバカにされた学年ビリが、現役合格した話』でも、親との関係が子どもに大きな影響を与えることを改めて教えてくれている坪田信貴先生。日々生徒たちに接している坪田先生にとって、彼らとの会話は単なるコミュニケーションだけではなく、言葉の裏に隠れた本音や親子関係などを理解する重要なツールになっているという。ここでは、親がついつい言ってしまいがちな“子どもにかけるNGワード”、そして知るべき“子供を伸ばす言葉”を聞いた。5回連載の3回目。【その他の記事はこちら】

NG① 子どもの意欲を低下させる怖い言葉「~ぐらい」
子どもに向き合い日々の生活を支える親にとって、子どもとのコミュニケーションは親としての重要かつ喜びある役目だと言える。しかしそんな毎日の何気ない会話のなかに、実は親が普通に使っている言葉で子どもの意欲を下げる言葉があるという。
2025年12月に発売された坪田先生の最新刊『勝手な夢を押しつける親を憎む優等生と、東大は無理とバカにされた学年ビリが、現役合格した話』でも、ADHDを抱える健太とその母親の面談で、先生がその言葉について指摘するシーンがあるが、読者もきっとドキッとさせられるに違いない。
「『~ぐらい』という言葉をよく使いませんか? 宿題ぐらい終わらせなさい、学校ぐらい行きなさい、勉強ぐらい、片付けぐらいとつい使ってしまいますよね。
でも"ぐらい"っていう言葉は、よく考えれば“やっても大して価値はない”という意味を持っています。すなわち子どもに対して、あなたは『そんな低レベルのことさえできない人だ』と言っちゃっているようなもの。なかなか気づかないですが、実はとても怖い言葉なんです」
日常的な言葉であればあるほど、知らず知らずのうちに子どもの意識に蓄積され、子どもの意欲をそいでいることになる。親であれば誰もが、わが身を振り返るに違いない。
NG② 他人と比較する言葉「◯◯はできたのに」
「また、兄弟や友達など、他の子どもと比較することもNG。お父さんと比べるのもダメです。勉強や受験だと、お兄ちゃんはこんなこともできたのにとか、お父さんはこんないい学校に行ったのになど、つい言っちゃうこともあるかもしれない。これは言葉選びの問題だけではなく、どういう子育てをしたいかにも関わってきます。つまり、人と常に比較し続ける子どもにしたいのか、ということです。
いくら優秀な人間になっても上には上がいるのが社会です。一生、他人と比較をし続ける人間になってしまうのはつらいと思います」
大人になっても、結局人と比較することでしか自己を確立できない。それがとても苦しいということは、容易に想像できるだろう。
NG③ 親がCPU、子どもが箱になってしまう「ジャッジメント」
「塾で言えば、模試の結果が出た時、僕はまず本人の意見を聞きます。『この結果を見てどう思った?』と。そうすると、みんな自分なりに考えるんですよ。もちろん『もう最悪でした』としか言わない子もいますが、ならば『最悪ってどういうこと?』とさらに深掘りをしていく。要は自分で自分を分析できるように質問していくんです。
その時に、絶対に上からジャッジはしません。そうすると、彼ら自身が『自分が考えていることはこういうことだったのか』とだんだんわかってくるので、ならば、これから自分はどうしよう?という意識になってくるんです」
大人は自分の経験値をもとについつい結果を評価してしまうが、子どもに自分の言葉で自らの状態や思いを語らせることで、自分への気づきを与えることが大切なのだという。
「例えば鏡を見て寝癖がついていたら、誰でも直そうとするじゃないですか。自分を客観的に見ることができれば、修正しようという意識に必ずなるんです。いわゆる“メタ認知”ですね。メタ認知がないと、いつまでたっても自分からは動かないし、修正しようともしない。
そのメタ認知が一番育たない状況というのが、親が何でも指摘してしまうこと。すべてが親の価値観になってしまうので、自分を客観的に見ることができない。親のフィルターを通さないと判断できないから、『僕、何をしていいかわからない』となって、最終的には爆発してしまうんです。
そういう子は、あなたの夢は何?と聞かれても『わからない』となる。そりゃそうですよね。その状況はいわばパソコンで言ったらCPU=親、子ども=箱の状態。CPUから突然考えろと言われても、箱側はもうフリーズするしかない訳ですから」

教育者、経営者。これまでに1300人以上を「子別指導」し、心理学を用いた学習指導により、偏差値を短期間で急激に上げることに定評がある。上場企業の社員研修や管理職研修なども含め、全国の講演会に呼ばれ、15万人以上の人が参加している。テレビやラジオでも活躍中。第49回新風賞受賞。著書に、120万部突破のミリオンセラー『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(ビリギャル)がある。
子どもを伸ばすのに効く言葉とは?
それでは、子どもを伸ばすためにはどんな言葉が良いのだろうか?
「一番いいのは、子どもの言葉に『へ~、そうなんだ!』と反応すること。それもテンションが高ければ高い方がいい」
それだけでいいの? と思ってしまうが、子どもにとって何より大切なのは“共感”すること。だから親も、親だからと気張らず、子どもにとって少し頼りないぐらいがちょうどよいと坪田先生は言う。
「今はあまり勉強ができなくても、きっとこの子は必ず伸びるだろうなと思う子がいます。そういう子のご両親に面談で『これまでどんな教育を?』と聞くと、お母さんは『私はなにもやってなくて』と恥ずかしそうに言うんです。お子さんも「お母さんは天然で、旅行でもよく忘れ物もしちゃうから僕がチェックしてるんです」と(笑)。親が頼りないぐらいの方が、子どもは自分で考えて行動するようになると思います。
親御さんがエリートだと「親が正しい」となってしまって、勉強はできても常に親の顔をうかがって自分で判断しなくなってしまうというパターンもよくありますから」
本著で登場する「勝手に夢を押しつけてくる親を憎む優等生」である希栄も、まさにこのパターンだ。
「当たり前ですが、年齢的にも経験的にも、親御さんの方が圧倒的に上の立場です。だからあれが足りない、これも足りないとなってしまうのもわかります。でも、子どもがまだお腹にいる時は元気に生まれてきてくれればと思うし、生まれればとにかく元気に育ってくれればいいと願っていたのに、それがいつの間にかあれもダメ、これもダメと、ダメなところばかりが見えてきてしまう(笑)。そこが、やっぱり難しいところですし、残念だなと思うところです」
坪田塾にはバックグラウンドも性格も、そして目指す未来もさまざまな子どもたちがやって来る。そんな実在する子どもたちを題材にしたのが、今回の書籍、通称「ビリギャル2」だ。そこには、ひとりひとりが抱える悩みから生まれる、ありとあらゆるドラマがある。
「でも僕は、そのドラマこそがその子の深みにもなるとも思っています。すべてうまくいく素晴らしい環境のなかで生きるより、親に反発して二度と会わねぇとか、家出したりとか(笑)、そんなドラマのなかで生きてきたからこそ、大人になっていろいろな人と出会ったときに、例えばこの人には近づかない方がいいとか判断できたりする。大きな挫折であろうとタフな環境であろうと、それは経験値となって確実に彼らに強みを与えてくれると信じています」

