「英語を勉強しているのに、いっこうに話せない」――この壁を打破すべく、英語コーチングサービス「トライズ」で“1日3時間、年1000時間”の英語学習に励んでいるゲーテ編集部員の挑戦記・第2弾。今回のテーマは「日本人が英語を話せない根本的な原因」について。#1

前回の記事で、トライズ挑戦3ヵ月を経てVERSANTスコア(英語を話す力を測るテスト)が39→45にアップしたことをお伝えしたが、その後も、山あり谷ありではあるが学習は継続中。それもこれも、専属コンサルタントが並走してくれるおかげなのだが、特に2週間に1度の進行チェック時には、「なんでそれを学校で教えてくれなかったの!? そりゃー英語、話せないよね」と感じるノウハウを教わることも多い。そこで今回は、担当コンサルタントの有馬あや子さんに「日本人が英語を話せない真の理由」を改めて聞いてみることにした。
英語の「音声変化」を習っていない日本人
会話とは「聞いて、話す」という2つのスキルで成り立っている。トライズのコンサルタントとしてのべ300人の生徒を見てきた有馬さんによると、日本人が英語を話せない背景には、主に4つの理由があるという。「この項目すべてにチェックが入ってしまうと“英語が話せないループ”に入ってしまいます」(有馬さん)。
理由1:正しい学習方法を知らない
多くの日本人が受けてきた英語教育において、リスニングやスピーキングの正しい学習方法を習っていない人は非常に多い。特に「音声変化(音の脱落や連結)」を理解している日本人は極めて少なく、これが、「読めるのに聞けない(=聞けないから話せない)」という、日本人あるある状態の根本的原因になっているそうだ。
「日本人は“見る(読む)”学習が多すぎて、英語に音声変化が起こっていることをあまり知りません。“読めるのに、なぜ聞けないんだろう”と感じたことがある方は多いのではないでしょうか。日本人は発音に意識を向けがちですが、実際は音声変化やリズムの方が重要なんですよ」(有馬さん)
筆者も初回コンサルティングで、まさにこの壁にぶち当たった。有馬さんがある英文を聞かせてくれたのだが、筆者の耳にはどうしても「Can you “アスカー” to call me back?」としか聴こえない。「え? どういう意味?」と頭の中はクエスチョンマークのオンパレード。
しかし、テキストでみれば非常に簡単な英文で「Can you “ask her” to call me back?」。そう、ネイティブは「ask her」を「アスク ハー」とは言わないのだ。これは「h音の脱落」という音声変化なのだそうだが、ほかにもさまざまな音声変化がネイティブの会話では頻繁に登場する。 これを理解しない限り、英語を正確に聞き取ることはできないのである。
理由2:学習量が足りない
仮に正しい学習方法が分かったとしても、日本語と英語の距離を埋めるのに必要な絶対的な学習時間(量)を確保できていない人が多い。アメリカ国務省附属機関FSIの調査では、英語話者が他の言語を習得するのに必要な時間は、言語によって異なることが示されている。そのなかで、日本語はアラビア語や中国語と並びカテゴリー5(非常に難しい言語)に分類されており、最低2,200時間が必要とされているのだ。これは、英語に近い言語(カテゴリー1)の550〜690時間と比較して、約3倍の時間を要することを意味する。ちなみに、カテゴリー1はデンマーク語やスウェーデン語、ポルトガル語、フランス語、スペイン語といったヨーロッパ系やラテン系の言語が所属。ユーロ圏の人々が英語を話せる理由が理解できるだろう。
トライズが「まず1年間で1,000時間頑張りましょう」(※)と提案する根拠も、この絶対的な学習時間の不足を解消するためなのだ。
※一般的に日本人は学生時代に英語を約1200時間学習している、とされている
理由3:間違いを恐れるマインド
もちろん個人によって差はあるが、概ね日本人の学習者は「間違えるのを怖がる傾向にある」と有馬さん。「完璧でなければならない、間違ってはいけない」という“日本人気質”が、英語学習においては「積極的に話すことに一歩踏み出せない」というハードルになってしまうという。
理由4:“言葉少な”を美徳とする文化
日本では口数が少なく主張を控える姿勢が美徳とされ、自分の考えや理由を言葉にする習慣が育ちにくい。聞き手としても、言葉にされない部分を察する力が重んじられるため、質問をためらうケースさえある。こうした文化的背景も、英語の上達が進みにくい要因のひとつだろう。

トライズ東京丸の内センター所属。海上輸送業および商社で輸出を担当したキャリアを持ち、大学院でTESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)資格も取得。成長する受講者の特徴として「プロの提案する学習方法を素直に受け止められる方、地道なトレーニングに取り組める方、忙しい中でも英語学習に優先順位を置き、時間を確保できる方」(有馬さん)とのこと。
「知識」を「口」に直結させるトライズの学習法
トライズの学習アプローチは、これらの“壁”を打ち破るべく設計されていて、なかでも大きな要因である「理由1」を打破する学習として、「リスニング(聞けない)の克服」「スピーキング(話せない)の克服」がある。
前者に関しては、英会話では「音声変化(音の脱落やリンキングなど)」が起こることを知識として学び耳を慣れさせ、それを自分で真似をすることで習得していく。そして「スピーキング(話せない)の克服」では、簡単な日本語を見て即座に英語に訳すトレーニングを実践し「知識と口がつながる回路」をつくっていく。そうすることで、これまた多くの日本人の典型である「書いたり、空欄を埋める問題はできるが、それを口から即座に出すことができない」の壁を乗り越えていくという。
「そして理由3の克服として、まずお伝えするのが“健全な言語習得のプロセス”について。子供が言葉を覚える際、最初は単語の羅列から始まりますよね? 最初から文章を話せるわけではありません。それと同じで、大人になってから英語を始めたとしても、最初は単語の羅列で十分なんです。とにかく大事なのは『黙らない』こと。単語を発すれば、相手はその意図を汲み取ってくれます。この“とにかく何かを言う”という姿勢は、言語習得の観点でも、コミュニケーションの観点でも非常に大切なのです」(有馬さん)
週3回のネイティブコーチとの英会話レッスンでは、学習内容のアウトプットと同時に、「なんだ、通じるじゃないか!」という成功体験を積み重ねていく。そして徐々に「英語の正しさにこだわって黙ってしまう」ことを減らしていくのだ。
このような仕組みで1,000時間の学習を積み重ね、理由2である「学習量の不足」を埋めていくのがトライズなのである。

トライズ学習「6ヵ月」経った結果は?
筆者もトライズを開始した時点では「正しい学習方法(理由1)と学習量(理由2)、そして間違いへの恐れ(理由3)」にチェックがついていたと有馬さん。では、6ヵ月たった今はどのように変化したと感じているのだろうか?
「日常会話のテンポが非常にスムーズになり、流暢性が格段に向上しました。“文法を一時的に捨ててでも、勢いとスピード感を優先する”というマインドにシフトしたことが功を奏し、バランスが取れてきているなと感じます。実際、VERSANTでも『流暢性』のスコアが格段に上がりましたね。
一方、こみ入った話になった際に言い淀んだり、単語を探したりする様子が見られる点は今後の課題でしょう。最終目標は『自分以外のこと』や『話慣れていないこと』でも、母国語と同じような反応速度で難なくやりこなし、知っている表現を使って会話を成立させる力をつけることだと思います」
どんなトピックスでも「知っている表現を使って会話を成立させる」。すなわち、英語での雑談力を上げる、ということだろう。
この6ヵ月の学習でVERSANTスコアは最高スコアの48をマーク。海外赴任に必要なレベルが"47点以上"と言われているそうで、「ひとつステージが上がった!」と自信を深めることができたが、雑談力という点では、有馬さんがいう通り“まだまだ”であることは、筆者本人が一番よく理解している。残り半年の学習期間でどこまで“雑談力”をあげられるのか、また報告したい。

 
             
             
             
             
             
             
             
             
     
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
             
             
            
 
               
               
               
               
               
               
               
               
               
               
               
               
               
              