最近、米国のトランプ支持派、反トランプ派をはじめとして過剰な政治活動がメディアでもよく報道される。過激な活動に熱狂する正体は何なのか? 脳科学者が科学的に紐解いてみた。

テスラ車を襲う人たち
「多くの国が私たちを搾取してきた。しかし、これからは私たちが搾取する番だ!」
2025年4月、トランプ関税第二弾が発動されたときにトランプ大統領が会見で口に出した言葉です(1)。
この言葉にトランプの自国愛主義を支持する人はさらに盛り上がる一方で、この先の物価高や株式市場の混乱に怒りを覚え、反トランプ側に回る人も増えているようです。
先日、知り合いである米国在住のとあるセレブリティから聞いた話ですが、トランプ大統領に反抗する人があまりにも駐車しているテスラ車を攻撃するため、「I BOUGHT THIS BEFORE MUSK WENT CRAZY(マスク氏がおかしくなる前にこれを買ったんだ)」というステッカーが人気で売り切れになるほどだったそうです。
米国にも政治に対して過激に反応する人と、そうでない人がいますが、一体何が違うのでしょうか?
「政治行動の激しさ」は脳が生み出している
ハーバード大学医学部の研究チームは、2025年3月21日に政治活動が激しい人とそうでない人の違いが何から生まれているかを調べるために、脳を負傷した退役軍人の脳をスキャンして調べたところ、下記の事実を発表しました(2)。
■政治活動が激しい人は、感情コントロールを司る前頭前野と自己肯定感に関係する楔前部(けつぜんぶ)が損なわれていた。
■政治への関心は、マイナス感情が発生する扁桃体の活性度に深く関わっていた(活性が低いほど、政治に興味がなかった)
つまり、「ネガティブな感情をコントロールできない自己肯定感が低い人」は、政治活動が激しくなりやすいということを意味しています。
小さな脳に支配される人間の悲しい現実
特に脳内のアーモンド形の構造をした扁桃体は、恐怖反応を生み出す場所として有名です。わずか1.5センチしかない小さな扁桃体は、逃走本能や攻撃性など私たちの行動の大部分を生み出しています(3)。
マイナスに考えやすい神経症傾向の人も、扁桃体が活性化しやすいことがわかっています(4)。潔癖症なども似たような現象です。
そういった意味で、政治活動が激しい人は、心の奥底に強い恐怖がある可能性が高いのです。
なぜ、政治活動が過激な人ほど「間違った考え方」を信じてしまうのか?
根に恐怖の気持ちがある人は、みんなと一緒であることを望む傾向があります。
専門用語で「同調行動」と言いますが、この効果は扁桃体が活性化しやすい人ほど大きいことが示されているからです(5)。
同調行動をする人は、人と違う意見を持つことを恐れます。
同調行動のレベルが高い人に人前で意見を言ってもらうと、人数が多いほど周りと同じ意見を言います。しかし、周りの人に知られない環境で意見を言ってもらうという条件では、人と違う意見を主張するようになることもわかっています(6)。
そんな同調性が高い人に、実験ではわざと人と違う意見を言ってもらうのですが、そのとき、大きく活性化していたのが「扁桃体」でした。
つまり、自分だけ人と違うことをするのは、恐怖そのものということなのです。
現在の経済状態や先行きが不安だと大きな恐怖を感じ、政治にすがって熱狂的に世の中を変えたいと思う一方で、扁桃体が活性化しやすい人は恐怖が大きいため、人と違う意見を主張する勇気はありません。
それよりも「長いものには巻かれろ」の精神で、たとえ誤った考え方だったとしても、みんなと同じようにふるまうほうが安心します。その結果、事実に基づかない間違った考えすらも熱狂的に支持しようと思ってしまうのです。
まるで宗教のように、どこかで心の拠りどころにしてしまうこともあるでしょう。
そして、これは本人も気づいていないことがほとんどです。
私は歴史や政治の専門家ではないため実際は分かりませんが、ある特定の主義の人が多数を占めるようになると、個人の考えを大切にする西欧諸国ですら、偏った集団主義の国が生まれる可能性もあるということです。
今の米国や紛争の絶えない国を見ていても、すでにこの変化は起きているように感じます。
扁桃体を大切にする習慣
2019年の研究でも扁桃体の活性を抑えるためには、感情のブレーキとも言える「腹内側前頭前野」を鍛えることが大切であることがわかっています(7)。
つまり、前頭前野を鍛えることができれば、私たちは冷静に状況を判断できる可能性があることを意味しています。腹内側前頭前野は瞑想でも鍛えられたり(8)、その他の報告もいくつかありますので、詳細はまた機会があればご紹介できればと思います。

脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて3万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』など海外を含めて累計42万部突破。最新刊『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』も好評発売中。
<参考文献>
(*1) TBS NEWS DIG Powered by JNN:https://www.youtube.com/watch?v=aUvb0Ss46uw
(*2) Shan H Siddiqi, Stephanie Balters, Giovanna Zamboni, Shira Cohen-Zimerman, Jordan H Grafman, Effects of focal brain damage on political behaviour across different political ideologies, Brain, 2025;, awaf101,
(*3)Janak, P., Tye, K. From circuits to behaviour in the amygdala. Nature 517, 284–292 (2015).
(*4) 西剛志著『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』(ダイヤモンド社), 2024年
(*5)Berns GS, Chappelow J, Zink CF, Pagnoni G, Martin-Skurski ME, Richards J. Neurobiological correlates of social conformity and independence during mental rotation. Biol Psychiatry. 2005 Aug 1;58(3):245-53.
(*6)Deutsch, M., & Gerard, H. B. (1955). A study of normative and informational social influences upon individual judgment. The Journal of Abnormal and Social Psychology, 51(3), 629–636.
(*7)Watanabe N, Bhanji JP, Tanabe HC, Delgado MR. Ventromedial prefrontal cortex contributes to performance success by controlling reward-driven arousal representation in amygdala. Neuroimage. 2019 Nov 15;202:116136.
(*8)Kral TRA, Schuyler BS, Mumford JA, Rosenkranz MA, Lutz A, Davidson RJ. Impact of short- and long-term mindfulness meditation training on amygdala reactivity to emotional stimuli. Neuroimage. 2018 Nov 1;181:301-313.