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2024.09.15

なぜ、人は性犯罪に走るのか? 脳科学的観点から見えてきた意外な事実

昨今、メディアを騒がせることが多い性加害。芸能界やスポーツ界でも性加害に関する事件が後を立たない。たった1つの過ちが人生を台無しにしてしまうのに、なぜ性犯罪に走ってしまう人がいるのか? その意外な事実を、3万人以上に脳科学的ノウハウを講演してきた脳科学者・西剛志が探った。

勝者の思考
Unsplash / Martin Podsiad ※写真はイメージ

「認知のゆがみ」が性加害を作り出す

電車での痴漢、睡眠薬を飲ませて性行為、飲み会の席でキスや体の関係の強要まで、相手の同意がないままそのような行為を行うことは絶対に許されないことです。明らかな犯罪です。

しかし、世の中には平然とそれをやってしまう人たちがいます。

その理由の1つが「認知の歪み」。性犯罪を起こす人は、よく下記のような考え方を持っている傾向があると言われています(*1)。

・「肌の露出が多い女性はレイプされることを望んでいる」
・「目が合う、手が触れるのは、相手にその気があるからだ」
・「出会い系に登録している女は、何をしても構わない」

普通の人なら考えないことですが、性加害を行う人はこのような一方的で一人よがりな考え方をする傾向があります。よく考えればおかしいとわかることなのに、なぜ、こんな考え方をしてしまうのでしょうか?

犯罪者は脳に損傷があることが多い

これは科学的な事実ですが、性暴力を含めて暴力行為をしてしまう人は、その多くが「脳に損傷がある」というケースが多数報告されています。その1つが、ちょうどおでこの中央部分にある「腹内側前頭前野(ふくないそくぜんとうぜんや/vmPFC)」という部分です。

海外の犯罪者の研究でも、31人のうち20人(64.5%)が腹内側前頭前野を含む前頭前野の広い領域に障害があったそうです(*2)。特に小さい頃に脳に損傷を受けたり、身体的虐待を受ける経験があった人が多いという報告もあります(*3)。

また、1996年に行われた有名な「ベトナム脳損傷研究」では、戦争で脳を怪我すると攻撃性が上がる人が確認されており、その部分を特定したところ特に「腹内側前頭前野」が損傷していたそうです(*4)。脳のネットワークを調べる研究でも、犯罪者の「腹内側前頭前野」が関係していたことがわかっています(*5)。

腹内側前頭前野は「他者の恐怖」を「自分の恐怖」として認識する場所です(*6)。

つまり、性犯罪者は「相手がこれをやったら怖い」と思う感覚が麻痺している可能性があるのです。だからこそ、性加害者は、自分本位の身勝手な考え方をする可能性が考えられています。

「性欲の強さ」は必ずしも犯罪につながらない?

またよく言われることは、性犯罪者は「性欲が強すぎる」のではないか?ということです。しかし、これは現代の科学では決して100%正しい事実とは言えないことがわかってきています。

犯罪者の多くは、実はもう1つ、脳に損傷のあることが多い部分があります。

それが「眼窩前頭前皮質(がんかぜんとうぜんひしつ/OFC)」と呼ばれる攻撃性のブレーキを担っている部分です(*7)。

近年、動物の実験ではありますが、性行為と相手に攻撃する暴力は脳の同じ部分が関係していて、複雑に制御されている可能性が指摘されています(*8)。

つまり、性犯罪に走ってしまう人は、脳の中では暴力をしているのと似たような感覚をもっている可能性があるのです。

「相手を攻撃したい」という衝動は、視床下部と背側中脳水道周囲灰白質から発生しますが、その衝動を抑えるのが「眼窩前頭前皮質」 です(*7)。

この「眼窩前頭前皮質」に損傷がある人は、自分の命を守るために平気で「人を突き落としてもよい」という発想をすることも報告されています(*9)。

ですから、性犯罪に走る人は、小さな衝動でも抑えることができず、性加害という行動に走ってしまいやすくなるのではないかと言われています。

性犯罪は脳への刺激で防ぐことができる

こうした性犯罪を含めた暴力行為は脳の損傷で起きることがあるため、再犯率が高いことも大きな社会問題になっています。

服役して刑務所から出ても、どうしても衝動が抑えられず、何度も同じ行為をやってしまう人も多いようです。

しかし、2018年に米ペンシルベニア大学から、こうした状況を打破しうる素晴らしい研究が発表されました(*10)。

それが前頭前野に電気刺激を与えると、犯罪に関する攻撃の衝動が抑えられるという事実です。

被験者の前頭前野に「経頭蓋直流刺激」(tDCS)という特殊な電気刺激を20分与えると、こんな結果になりました。

・身体的暴行に関する衝動 → 47%減る
・性的暴行に関する衝動  → 70%減る

つまり、前頭前野の活性を高く保てるようになると、犯罪を未然に防げることを意味しています。

この技術がすぐに実用化される訳ではありませんが、初犯や受刑者の更生プログラムなどでもこのような技術が応用されれば、誰もが安心して暮らせる社会インフラを実現できる時代がやってくるかもしれません。

私たちの行動は、全て脳から生まれています。

特に幼少期に交通事故に遭ったり、身体的な虐待にあったことのある人は、脳の損傷の部位によってはどこか攻撃的な行動になる傾向が見れられることがありますので、脳のことを理解することで、受刑者の更生や犯罪行動の問題と理解が深まっていくことを願っています。

脳科学者・西剛志「勝者の思考」
西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて2万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』など海外を含めて累計36万部突破。最新刊『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』も好評発売中。

<参考文献>
1「性犯罪の行動科学 発生と再発の防止に向けた学際的アプローチ」(北大路書房)
2. Blake PY, Pincus JH, Buckner C. Neurologic abnormalities in murderers. Neurology. 1995 Sep;45(9):1641-7.
3. Baguley IJ, Cooper J, Felmingham K. Aggressive behavior following traumatic brain injury: how common is common? J Head Trauma Rehabil. 2006 Jan-Feb;21(1):45-56.
4. Grafman J, Schwab K, Warden D, Pridgen A, Brown HR, Salazar AM. Frontal lobe injuries, violence, and aggression: a report of the Vietnam Head Injury Study. Neurology. 1996 May;46(5):1231-8.
5. Darby RR, Horn A, Cushman F, Fox MD. Lesion network localization of criminal behavior. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Jan 16;115(3):601-606
6. Huang, Z., Chung, M., Tao, K. et al. Ventromedial prefrontal neurons represent self-states shaped by vicarious fear in male mice. Nat Commun 14, 3458 (2023).
7. Blair RJR, Cipolotti L.: Impaired social response reversal. A case of 'acquired sociopathy'. Brain. 123:1122-41. 2000
8. Callaway, E. Sex and violence linked in the brain. Nature (2011). https://doi.org/10.1038/news.2011.82
9. Koenigs, M. et al. : Damage to the prefrontal cortex increases utilitarian moral judgements. Nature 446, 908-911(2007).
10. Choy O, Raine A, Hamilton RH. Stimulation of the Prefrontal Cortex Reduces Intentions to Commit Aggression: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Stratified, Parallel-Group Trial. J Neurosci. 2018 Jul 18;38(29):6505-6512.

TEXT=西剛志

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