「仕事や育児、人間関係でちょっと疲れてしまった」「何となくうまくいかなくて、心がモヤモヤする」。そんな思いを抱えながらも毎日を一生懸命に生きる人たちに向けて、お笑い界きっての読書家であるティモンディの前田裕太さんが、“心にジュワッと沁みこんでくる言葉”をセレクトします。第3回は、市川拓司著『そのときは彼によろしく』からの一節。

「涙は目に見えるものだが、そこに至る内的プロセスは誰にも見えない」
『そのときは彼によろしく』(市川拓司/小学館文庫)
涙の理由を理解するのは難しい
今まで数々の涙を流してきたことだと思います。
しかし、その流した涙たちも外から見た人には、その訳も深刻さも分かってもらえません。世の中は厳しいですから。
「そんなことで泣くな」だの、「泣けば済むと思っているだろ」だの、精神的に弱っている者に対して鞭打つような心無い言葉が飛び交っていたりもするでしょう。
市川拓司さんの小説、『そのときは彼によろしく』に出てくる「涙は目に見えるものだが、そこに至る内的プロセスは誰にも見えない」という言葉は、そんな心に沁みます。
あくびをして流れでた涙も、深く傷つき立ち直れないほどの絶望からの涙も、外から見たら同じ涙。だからこそ、理解をしてもらうことも難しいですし、逆に理解してあげることも難しい。
私は「泣くなよ」だなんて言われた時には、この一節を思いだして「お前なんかにこの涙の理由を分かってたまるか」と唾棄するようになりました。
でも、この一節は自分を守ると同時に他人を思いやる言葉でもあります。
この前映画を見ていて、私は気にも留めないような場面で友人が涙を流していたことがありました。訳を聞くと、彼は過去に辛い経験をしていて、その瞬間がフラッシュバックするようなシーンだったので当時のことを思いだし、涙を流したのだそう。
その涙にいたるプロセスを聞いてようやく、涙が流れた現象の深刻さが露呈したのだけれど、もしそれを知らなかったら「そんなことで」だなんて心無いひと言を言ってしまっていたかもしれません。
本作は13年ぶりに再会した幼馴染3人の恋と友情を描いた作品です。読んだ後は、誰かに優しくなれるような作品なので、是非読んでもらえたらと思います。

1992年神奈川県生まれ。お笑いコンビ、ティモンディのツッコミ・ネタ作成担当。愛媛県の済美高校の野球部で高岸宏行と出会い、2015年にティモンディを結成する。教育番組『天才てれびくん』(NHK Eテレ)の14代目MC。読書大好き芸人としても活動。また、保護猫ボランティアにも携わり、その様子を発信している。