「仕事や育児、人間関係でちょっと疲れてしまった」「何となくうまくいかなくて、心がモヤモヤする」。そんな思いを抱えながらも毎日を一生懸命に生きる人たちに向けて、お笑い界きっての読書家であるティモンディの前田裕太さんが、“心にジュワッと沁みこんでくる言葉”をセレクトします。前田さんが綴るコラム連載の第1回は、森見登美彦著『有頂天家族』からの一節。

「世に蔓延する悩み事は大きく二つに分けることができる。一つはどうでもよいこと、もう一つはどうにもならぬことである」
『有頂天家族』(森見登美彦/幻冬舎文庫)
悩んでも苦しむだけ。ならいっそのこと、手放せばいい
読者諸兄姉は、どんな人生を送りたいでしょうか。
余程の物好きでない限りは、幸せに暮らしたい、といった類いを願うのではないでしょうか。かくいう私もその一人です。
なのにも関わらず、私たちは不幸やストレスに対処するために悩むことに、あまりにも多くの時間を割いてしまいます。
幸せだったことを思い出す時間で頭を一杯にすればいいものの、毎日悩んでばかり。厄介事が近づいて来ることに気分を落とし、ストレスに感じて、それに如何に対処すればいいのか考えて、備えることに毎日精一杯だったりします。
この考え方の悲しいところは、もし時間をかけて考えた方法でストレスに上手く対処できたとしても、また別のストレスが立て続けに、際限なくやって来てしまうということです。
つまり、私たちは永遠とストレスへの対処に振り回され続け、人生の多くを悩む時間に当ててしまう訳です。
なんて悲しいことでしょう。簡単に解決できることであれば、みんな悩んでなんかいないはず。
「世に蔓延する悩み事は大きく二つに分けることができる。一つはどうでもよいこと、もう一つはどうにもならぬことである」
私は、『有頂天家族』を読む度にこの言葉が沁みます。
あなたのその悩み、解決するのが簡単ではないのであれば、いっそのこと幸せを実現することの方に注力するべきではないでしょうか。幸せを実現することだって、簡単ではないですから。どうせ労力を注ぐならばプラスの器へ、と考えるのはどうでしょう。
ストレスに対して時間を当てずに開き直り、悩むことを手放して、面白いこと、楽しいこと、幸せなことを実現させる方向にすべてを捧げる方が余程、幸せな人生を送りたいと願う人間のあるべき姿ではないかと思います。
ちなみに、この言葉には続きがあります。
「そして、両者は苦しむだけ損であるという点で変わりはない」
『有頂天家族』は、面白く生きることをモットーにしている狸、矢三郎を語り手として話が進む”毛玉ファンタジー”作品です。
くだらなくて笑える内容であるが故に、自分が悩んでいることが余計に馬鹿らしく思えてくる。心が沈み思い悩んだ時ほど、この作品と上記の言葉が心に沁みます。
たまには能天気に面白いと思うことを第一優先にして、自分の幸せに対してワガママに振る舞ってみてもいいかもしれません。

1992年神奈川県生まれ。お笑いコンビ、ティモンディのツッコミ・ネタ作成担当。愛媛県の済美高校の野球部で高岸宏行と出会い、2015年にティモンディを結成する。教育番組『天才てれびくん』(NHK Eテレ)の14代目MC。読書大好き芸人としても活動。また、保護猫ボランティアにも携わり、その様子を発信している。