激辛カレー、激辛麻婆豆腐など. 世の中には辛いものに目がない人が多い。世界的な激辛ブームのなか、米国では死亡事故、日本でも激辛チップスで病院搬送などの事件も起きている。人はなぜ、危険を冒してまで辛いものを食べてしまうのか? その秘密を、38万部のベストセラー著者でもある脳科学者・西剛志が探った。
辛さはそもそも“味”ではない
よく「私は辛い味が好き」と言いますが、辛さはそもそも味ではありません。
「甘さ」や「しょっぱさ」「苦味」や「うまみ味」は、舌の味蕾(みらい)から脳に“味”として伝わります。しかし、辛さは舌の奥の痛みを伝える三叉神経(さんさしんけい)から脳に伝わります(*1)。
ですので、辛さは脳科学的には、味ではなく「痛み」です。
また三叉神経は「熱」にも反応して「痛み」を感じるため、辛さと熱の痛みを脳は区別できません。辛いものをよく英語で「Hot/ホット」と言いますが、脳科学的にもうまく表現した言葉と言えるでしょう。
とにかく、辛さは脳にとっては「痛み」そのもの。そのため、人間以外の動物は基本的に辛いものは食べようとしません。
激辛は脳にとって快感
脳にとっては、「辛いもの」=「痛み」です。それなのに、なぜ、私たち人間は辛いものを食べようとするのでしょうか?
実は、辛いものを食べると痛みを和らげるために脳内麻薬のβ-エンドルフィンが分泌されることがわかっています(*2)。
「ランナーズハイ」という現象がありますが、これは長距離を走っているときの身体の痛みを和らげるために脳が脳内麻薬を出して起きる現象です。βエンドルフィンは脳に作用して痛みを和らげ、大きな多幸感を感じさせます。
つまり、私たちは辛いものを食べるとβ-エンドルフィンが出て、エクスタシーを感じてしまうということです。
辛いものは寿命にも影響
また、辛いものの好き嫌いが、寿命にも関係するかもしれないことも注目されています。
辛いものが好きかどうかは、三叉神経の辛味レセプターの数で決まります。辛味レセプターが少ない人は、辛いものを食べても痛みが少なく、β―エンドルフィンの大きなエクスタシー効果を感じます。しかし、辛味レセプターが多いと脳に大量の痛みが伝わるため、辛いものが苦手になってしまいます。
そこで研究者たちは、辛味レセプターを人工的に減らして、辛さに鈍感にしたマウスをつくりました。すると、辛さに強くなったマウスは、通常のマウスより長生きするという意外な事実がわかってきたのです(*3)。
辛いものを食べて痛みだけを感じるばかりだと、脳はストレスで一杯になります。その結果、老化を促進する変化(代謝)が引き起こされて寿命が縮んでしまうようです。
しかし、辛さに鈍感(辛いものに強い)と、脳にストレスが伝わらず、どうやら長生きできることがわかってきました(*4)。
そういった意味で、辛いものが好きな人は、辛いものを食べるとエクスタシー効果でストレス解消になってよいかもしれませんが、辛いものが得意でない人は、辛さを我慢して無理に食べてしまうと寿命が縮まってしまう可能性があるのです。
これは余談ですが、辛いものが苦手な人は、料理を42℃以下に冷ますと、痛みのストレスが和らぎ、寿命が短くなる効果を防げるかもしれないと言われています。なぜなら、舌の辛味レセプターは43度以上の熱に反応して、より大きな痛みを感じるからです(*5)。
激辛料理は42度以下だと食べやすくなり、もしかしたらアンチエンジング効果も狙えるかもしれません。
エスニック料理で異性にモテるようになる!?
また、辛い味の好みは、性格にも影響があるようです。
ペンシルベニア州立大学の18〜45歳の200名のリサーチでは、激辛料理が好きな人は、刺激を求める性格特性を持つ人が多いことがわかりました(*6)。辛さの好みは、その人の性格や行動にも影響するようです。
また、辛いものを食べると、目の前の異性を好きになりやすいこともわかってきています。
米国セント・クラウド州立大学が行った実験では、87名の女性に、甘いオレオクッキー、辛いスナック、通常のスナックをそれぞれ食べてもらいました。お菓子を食べながら、男性の写真を見せて、身体的魅力をアンケートしました。
その結果、辛いスナックを食べた女性だけが、甘いスナックの女性より男性をより魅力的だと答えたのです(*7)。
辛いものを食べてエクスタシーを感じると、「目の前の男性」=「快感」と脳が錯覚してしまい、自然と好感度も上がってしまうようです。
私はこれを辛さによる「メンタルホット効果」と呼んでいます。
「辛いもの」は食べ過ぎに注意しなければいけませんが、辛さの刺激は、脳に快感を与えてストレス解消にもなり、長寿にもつながり、異性にもモテやすくなる効果が期待できます。
ホットな充実した人生を送るためにも、バランスを持って、うまく付き合っていきましょう。
<参考文献>
(*1) Bautista DM. Spicy science: David Julius and the discovery of temperature-sensitive TRP channels. Temperature (Austin). 2015 May 22;2(2):135-41.
(*2) Fattori V, Hohmann MS, Rossaneis AC, Pinho-Ribeiro FA, Verri WA. Capsaicin: Current Understanding of Its Mechanisms and Therapy of Pain and Other Pre-Clinical and Clinical Uses. Molecules. 2016 Jun 28;21(7):844./Bach FW, Yaksh TL. Release of beta-endorphin immunoreactivity into ventriculo-cisternal perfusate by lumbar intrathecal capsaicin in the rat. Brain Res. 1995 Dec 1;701(1-2):192-200. )
(*3)C. E. Riera, M. O. Huising, P. Follett, M. Leblanc, J. Halloran, R. Van Andel, C. D. de Magalhaes Filho, C. Merkwirth, A. Dillin, TRPV1 pain receptors regulate longevity and metabolism by neuropeptide signaling. Cell 157, 1023–1036 (2014)
(*4) S. Steculorum, J. C. Brüning, Die another day: A painless path to longevity. Cell 157, 1004–1006 (2014)
(*5) Liedtke WB, Heller S, editors. TRP Ion Channel Function in Sensory Transduction and Cellular Signaling Cascades. Boca Raton (FL): CRC Press/Taylor & Francis; 2007.
(*6) Institute of Food Technologies annual meeting, correlateda preference for spicy food with high risk-taking behaviors、2013
(*7) Miska, J., Hemmesch, A. R., & Buswell, B. N. (2018). Sugar, spice, and everything nice: Food flavors, attraction, and romantic interest. Psi Chi Journal of Psychological Research, 23(1), 7–15