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2024.10.20

脳科学者が考察。「叱らない教育」は本当に正しいのか?

「叱らずにほめる」。子育てでも企業の社員教育でもメジャーになってきているが、これは本当に効果があるのか? 3万人以上に講演してきた脳科学者・西剛志が、科学的な見地から探った。

勝者の思考
Unsplash / Caleb Woods ※写真はイメージ

日本で見られる親の4つのタイプ

昭和の時代までは、悪いことをしたらお尻を叩かれたり、厳しく注意されることが日常茶飯事でした。私も子どもの頃、いたずらが大好きで、障子に穴を開けたり、学校の裏に秘密基地をつくっては、叱られたのをよく覚えています。

親にはいろいろなタイプがありますが、現在までの子育ての研究によって、親は大きく次の4つのタイプに分かることが分かってきました。

1966年に心理学者ダイアナ・バウムリンド博士が子育てのタイプを「3つの子育てスタイル」に分け(*1,2)、その後、スタンフォード大学の研究で「もう1つのスタイル(放任型)」が加えられ(*3)、現在はこの「4つのタイプ」で説明できると考えられています。 

① 支援(民主型)タイプ(厳しい+優しい)
ルールを守ることを促し、高い要求も求める(厳しさもある)が、子どもの意向も同時に尊重して自立を促すタイプ。

② 厳格(独裁型)タイプ(厳しいだけ)
とにかく、頭ごなしに子どもに厳しく接するタイプ。従わない場合は、罰を与えて強要する。

③ 迎合タイプ(優しいだけ)
「優しいばかり」の受身的なタイプ。とにかく子ども中心で、やりたいことを実現させてあげる。ルールを決めて守らせる厳しさはほぼない。

放任タイプ(無視/子どもに関心がない)
子どもに無関心なタイプ。厳しくもないし、優しく接することもない。ルールを決めることもない。

まさに今流行っている「叱らずにほめる」子育ては、3番目の「迎合タイプの子育てスタイル」になるでしょう。

親のタイプで年収が変わる!?

このように世の中には様々な親のタイプがありますが、以前紹介した記事の通り、2016年の日本人の1万人の研究から、親のタイプが子どもの将来の年収にまで影響する可能性が指摘されています(*4)。

ちなみに「優しいだけ」の迎合タイプは、下記の通り、年収ランキングでは449万円(第3位)と低い順位となりました。

<親のタイプによる年収ランキング
第1位:支援タイプ(厳しい + 優しい) 年収530万
第2位:厳格タイプ(厳しいだけ)  年収501万
第3位:迎合タイプ(優しいだけ)  年収449万
第4位:放任タイプ:(無視)  年収360万
※男の子のデータになります。

第1位は「支援タイプ」と呼ばれる「厳しい+優しい/ほめる」親の元で育った子でした。平均年収は530万円。優しいだけの「迎合タイプ」より年収が約80万円も高くなりました。

厳しいだけの厳格タイプは第2位。ただ、年収は高くても、メンタルの状態が最高ではなく、前向きさが低く、不安を感じやすく、人に積極的に関わろうとする社会的なスキルは低い傾向にあったようです。

最悪なのは『放任タイプ』で、支援タイプと比べて年収が170万円も下がる傾向(第4位)にありました。

優しさだけだと男は調子に乗る!?

このリサーチでわかったもう1つのことは、優しいだけの迎合タイプの親もとで育った子に「ある弊害」が起きたことです。

それは、迎合タイプの親に育てられた男の子は大人になって「ルールを守る性格(遵法意識/誠実性)」がマイナスになっていたという衝撃の事実でした。

「お金を盗んではいけない」
「飲酒運転をしてはいけない」
「お世話になった人には恩を返すべき」
「人には公平に接する」

ある意味、当たり前のことだと思うでしょう。

しかし、迎合タイプ(優しいだけ)の親のもとで育った男の子だけは、これらを平気で破るような性格傾向が判明したのです。逆に女の子は、ほめても誠実さはプラスに育っていました。

この結果はあくまでも相関関係で、直接の原因かどうかまではわかりません。しかし「猿もおだてりゃ、木に登る」ように、男の子は褒めすぎると「自分はすごい人だ」と思い込んで調子に乗り、天狗(自己中心的)になってしまう確率が高くなることが、私が現場で行っているリサーチでもわかっています。

甘やかされて育った富裕層の子の将来

よく芸能人や有名な経営者の子が、何不自由ない暮らしをさせてもらい、最終的にドラッグや犯罪に手を染めるニュースを見ることがあります。これも、もしかしたら、親が多忙のため、子どもへの罪悪感で叱らずにほめるばかりの育て方をしたことが1つの要因になっているのかもしれません。

もちろん、感情的になって激怒したり、罰を与えたり、厳しすぎる子育てはよくありません。子どものメンタルに悪い影響を与えます。スタンフォード大学の研究でも、強い口調で言い過ぎると「誠実さ」が弱まってしまったり、「自分でコントロールする力」や「目標に向かって計画を自主的に立てる力」も弱まってしまうこともわかっています(*5)。

本物の愛ある子育てが減っている

子どもの能力を最大限に伸ばす親のタイプは、「厳しい+ほめる」タイプの支援型です。

昔から、口は厳しいけど愛がある人がいますが、このような支援型の親のもとで育った子どもは、男女ともに誠実さも最も高く、メンタルの状態(前向きさ)もよく、社会性、人を助ける力、収入などに至るまで、あらゆる項目で最も高いスコアを上げます。

昔から言われる「アメとムチの教育」は、真に子どもの能力を伸ばし、限界に立ち向かう自立した大人に成長させてくれるのかもしれません。

能力はないのに「自分はすごい」と思い込むことを、専門用語で「ダニング・クルーガー効果」と言います(*6)。もし我が子がこのようなタイプだと感じたら、自分が知らないうちに迎合タイプになっているかもしれませんので、十分に注意してください。

脳科学者・西剛志「勝者の思考」
西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて2万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』など海外を含めて累計36万部突破。最新刊『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』も好評発売中。

<参考文献>
(*1) Baumrind, D., “Child care practices antecedeng three patterns of preschool behaveor”Genetic Psychology Monographs, Vol.75(1), p.43-88, 1967
(*2) Baumrind, D., “Authoritarian vs. authoritative parental control”Adolescence, Vol.3, p.255-272, 1968
(*3) Maccoby,E.E. & Martin, J.A., “Socialization in the context of the family: Parent-child interaction” In P. Museen(Ed.) Handbook of Child Psychology, Vol.4, New York: Wiley, 1983
(*4) 西村和雄、八木匡、「子育てのあり方と倫理観、幸福感、所得形成 –日本における実証研究-」独立法人経済産業研究所『RIETI Discussion Paper Series 16-J-048』, 2016
(*5) Freedman, J. L. (1965). “Long-term behavioral effects of cognitive dissonance”Journal of Experimental Social Psychology, Vol.1(2), p.145-155
(*6) Kruger, Justin; Dunning, David, “Unskilled and Unaware of It: How Difficulties in Recognizing One's Own Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments”, J. Persona. Soc. Psychol., 1999, Vol.77(6), p.1121–34

TEXT=西剛志

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