2023年、107年ぶりの甲子園優勝を果たした慶應義塾高校野球部のメンタルコーチを務める吉岡眞司氏。「真面目なリーダーほど、自分を追い込んでしまいやすい」という吉岡氏が、寝る前の過ごし方について重要なアドバイスを送る。『強いチームはなぜ「明るい」のか 』より一部を抜粋・再編集して紹介する。【その他の記事はコチラ】
寝る前に反省はしない
「自分はチームを良い方向に導けていないのではないか……」
「業績が伸びないのは、リーダーである自分のせいではないか……」
チームを率いるリーダーの中には、真面目すぎるがゆえに、このように自分を追い込んでしまう方もいます。
スポーツでも仕事でも、さまざまな考えや価値観を持ったメンバーを一つの方向に向け、マネジメントしていくのは大変な労力のかかることです。できなかったこと、うまくいかなかったことの原因を検証・分析することはもちろん大事ですが、悲観的なモードを引きずっていては、「明るいチーム」をつくることはできません。
中間管理職として働くKさん。几帳面で真面目な性格で、夜、寝る前に必ずその日の反省を行うことを日課としていました。
「今日はこれができなかった。それはこういうことが原因で……」
完璧主義と言えるほど些細なことまで「あれができていなかった」「これもできていなかった」とリストアップし、反省を繰り返していました。そのせいか、初めて会ったときのKさんはうかない表情を浮かべ、疲れている様子でした。
「最近、なかなかぐっすり眠れなくて。寝ている間に目が覚めてしまい、朝起きたときに疲れが抜けていないんです……」
人は、「できたこと」「よかったこと」より「できなかったこと」「よくなかったこと」にどうしても目を向けがちです。私たちの脳は「プラスよりマイナスのことを優先的に記憶する」特徴があります。なので、どのような人も、実はマイナス思考型の人間なのです。
とはいえ、できなかったことばかり思い起こすと、「悔しかった」「つらかった」「迷惑をかけて申し訳なかった」などのネガティブな感情が高まり、気持ちがどんどん下がってしまいます。そうなると、改善策を考えるうえで必要な前向きなアイデアが浮かびにくくなってしまいます。
また、私たちの脳には「事の最後を重要視し記憶する」という特徴があります。特に、就寝前の10分間は「脳のゴールデンタイム」と言われ、その間に脳にインプットしたこと、イメージしたことは強烈に記憶されてしまいます。よって、寝る直前の「ダメ出し反省会」は避けた方がよいのです。
では、どうしたらよいのでしょうか?
誤解を恐れずに言うと「寝る前に反省はしない」ことです。
反省はしない、といっても、その日の振り返りを一切するな、ということではありません。
「よかった点」も含め、その日一日をしっかりと分析し、明日に向けた成長の糧を具体化し、翌日に繫げられるようにすることが重要なのです。
「悪いところ」より「いいところ」に目を向けることで視野が広がる
とはいえ、長年築いてきた反省のスタイルを変えることは簡単ではないかもしれません。最悪な一日を過ごした夜などは、どうしてもマイナスなことばかりに気をとられてしまいます。
Kさんに尋ねてみました。
「今日、何かよかったことはありましたか?」
「いえ、それが今日は最悪な一日で、悪いことばかり思い出してしまって……」
「どんな些細なことでもいいのです、強いて挙げるとしたら、どうでしょう?」
「うーん、強いて言えば、部下が忙しそうに対応に追われていたときに、私が率先して何本か電話をとったくらいかな……」
「いいですね! Kさんが率先して電話に出たとき、部下の反応はどうでしたか?」
「電話が終わった後、庶務の女性が『○○課長、ありがとうございました』と言ってくれました」
「そのときどんな気持ちになりましたか」
「いや……まぁ、うれしかったですね」
――こんな調子で、Kさんとのセッションは地道に続いていきました。そして、3カ月が経った頃、Kさんが次のように言いました。
「そういえば最近、朝起きたときの感覚が違うというか……ぐっすり眠れるようになったように思います」
さらに数カ月が経った頃には、「部下や上司との関わり方が、だんだん円滑になってきました」といったポジティブな言葉が聞かれるようになりました。
小さな「よかったこと」を積み重ねていくうちに、状況がどんどん好転していったKさん。チームの雰囲気もだんだんと明るくなり、管理職としての自信を深めていったのです。
今はKさん個人のケースとして紹介しましたが、チームでも、お互いにいいところを見つけ、伝え合うことは「明るいチーム」づくりにおいて大切です。
私たちはとかく、「服装がだらしない」「喋り方が気に入らない」「目つきが悪い」など、人の悪いところ、マイナスなところに目が行きがちです。だからこそ、普段からプラス面を見出すように意識する必要があるのです。
「いいところ」探しを習慣化することで「相手のことをもっと観察しよう」という意識が高まり、相手やチームについていろいろなことが見えてくるようになります。視野が広がり、どうしたらチームがもっとよくなるか、という改善点も見つかりやすくなるわけです。