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2024.02.19

大河ドラマでも話題の『源氏物語』。その主人公・光源氏は、実は“だめんず”だった!?

2024年の大河ドラマ「光る君へ」。その主人公・紫式部が描いた世界最古の長編小説『源氏物語』は、実はかなり“やばい”本だった!? 古典エッセイスト・大塚ひかり氏が明かす、『源氏物語』の知られざるエピソードを、最新作『やばい源氏物語』(ポプラ新書)から一部を引用、再編集してお届け。これを知っておけば、『源氏物語』がよりいっそう楽しめること間違いなし!

源氏物語の絵

紫式部が光源氏の“失敗談”を描く理由

『源氏物語』はフィクションです。

が、物凄くリアリティを大事にしているフィクションです。と言うと、そうなの? と意外に思う人もいるかもしれません。

『源氏物語』の主人公って、“光る源氏”でしょ? 光るほどのイケメンてことでしょ? しかも天皇の皇子で、たくさんの女と関係する。超絶イケメンの貴公子のモテ話でしょ? まぁイケメンのボンボンがモテるのはリアルと言ったらリアルだけれど、あまりにデキ過ぎていて、夢物語というか、フィクションの権化という気もするよね、と……。

違うんです。源氏はたしかにイケメンですが、年も取るし失敗もする。

そもそも作者の紫式部が、リアリティを目指し、リアリティを大切にしているんです。

物語は、しょっぱなから、源氏が人妻の空蝉(うつせみ)に逃げられ(最初はいきなり寝所に侵入し関係を結ぶことに成功するんですが、それ以降は応じてもらえない)、親友の妻の一人だった夕顔を変死させてしまうという、源氏にとって不名誉なエピソードを綴っている。

そのあと、作者はこう断っています。

「こういうくだくだしいことは、源氏の君がひたすら人目を気にして隠していらしたのもお気の毒なので、すべて書くのを控えていたのですが、『なんでミカドの皇子だからといって、間近でつき合っていた人までが完全無欠みたいに褒めてばかりいるのだ』と、“作り事”(作り話)のように決めつける人がいらしたので書いたのです」(「夕顔」巻)

紫式部は、「この話を作り話だと思ってもらっては困る」と思って、そう見えない物語作りに腐心していたのです。

これは、人妻の空蝉との交流という、源氏の恋愛話が初めて具体的に描かれる「箒木(ははきぎ)」巻の冒頭に、「“光る源氏”と名ばかりご大層ですが、実はその名を打ち消すような失敗も多いようです」と、作者が書いていたことに呼応しています。

紫式部はかつてない新しい物語、スーパーマンとしての“光る源氏”ではなく、失敗もする生身の人間としての源氏を、実録風に紡ぎだそうとしていたのです。

『源氏物語』はフィクションだけれど、従来の作り話とはまったく違う、人間界の現実を描くことを目指していたわけです。

歴史書よりも物語にこそ真実がある

紫式部は、物語という手法に大きな可能性を感じていました。それは、『源氏物語』で展開されている有名な物語論からもうかがえます。

主人公の源氏は、養女である玉鬘(たまかずら)が物語に夢中になっているのをからかいながらも、冗談めかしてこう言います。

「『日本書紀』などの歴史書は、ほんの一面に過ぎないんだよ。物語にこそ、正統な詳しい事情が書かれているんだろう」
(“日本紀などはただかたそばぞかし。これらにこそ道々しく詳しきことはあらめ”)(「螢(ほたる)」巻)

平安中期当時、正式な文書は仮名ではなく漢文で書かれていました。中でも『日本書紀』は国が編纂した歴史書ですからその地位は重いものでした。

ところが源氏はその『日本書紀』より物語のほうが“道々しく詳しきこと”が書いてあると言います。書き手の恣意が入る勝者に都合のいい歴史書は、人の世のほんの一端に過ぎない。物語にこそ、真実が書かれているというのです。

源氏は続けます。

「誰それのことといって名指しでありのままに書き写すことこそないけれど、良いことでも悪いことでも、この世に生きる人の有様の、見ても見飽きず、聞くにも余る出来事を、後の世にも語り伝えさせたい節々を、心にしまっておけなくて書き残したのが、物語の始まりなんだ」

物語は、現実にもとずいているというのです。さらに、

「良いふうに言うためには良いことばかり選びだし、人に受けるためにはまた、ありそうにないほど悪いことを書きつらねる。それも皆それぞれに、この世の現実の出来事と無縁なことではないんだよ」

誇張はあっても、あくまで現実がベースとなっていることには変わりない。描かれているのは現実の人間なんだ、と。

要するに、紫式部は物語にこそ真実があるという考えで、物語を綴っているのです。

これは現代人にとっては新しいことではないでしょうが、千年以上前の人々にとってはとても新鮮な考えだったはずです。繰り返すように、当時の正式な文書は漢文で書かれたものであり、仮名で書かれた物語などは、オンナ子どもの慰み物という位置づけだったのですから、

「文書の中でも最も格の高い正史である『日本書紀』より物語がまさる」

と受け取れるような源氏の発言がいかに思い切ったものであるかが分かります。

TEXT=大塚ひかり

PHOTOGRAPH=アフロ

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