PERSON

2024.02.12

「俺は織田信長にはなれない…」歴史好き芸人・ロバート山本はなぜ、戦国時代に魅了されるのか?

お笑いトリオ「ロバート」として活躍する傍ら、大の歴史好きとしても知られる山本博さん。芸能活動でも生きているという、戦国時代から学んだ人間関係の大切さ、そして歴史を楽しみ続けるための心構えとは?

ロバート山本さん 笑顔のカット

歴史が好きになったきっかけは、おばあちゃん

芸人きっての歴史好きで知られ、歴史好き芸人のユニット「六文(ろくもん)ジャー」としても活動するお笑いトリオ・ロバートの山本博さん。歴史に興味を持ったきっかけは、よく戦国時代の話を聞かせてくれた山本さんのおばあちゃんだったという。

「おばあちゃんは小さい僕に『戦国武将たちもそれぞれに得意なことと苦手なことがあって、みんなが互いの弱さを補いあいながら生きていたんだよ』みたいな話をしてくれました。当時の僕は、どの武将が一番強くてカッコいいのかを知りたかったんですけど(笑)。でも大人になった今振り返ると、すごく深いことを教えてくれていたんだなと思います」

おばあちゃんの話で歴史に興味を抱いた山本さんは、学校の授業で戦国時代について勉強することを楽しみにしていたそうだが……。

「いざ歴史の教科書を開いたら、戦国時代は2ページくらいしかなくて。 授業も一瞬で終わりですよ。年号の暗記ばかりで面白くないし、そこから学校の勉強にはいっさい興味がなくなってしまいました。歴史はマンガとかゲームで楽しむようになりましたね。特に『信長の野望』にはどハマりして、天下統一を目指してやりこんでました」

マンガやゲームから、徐々に歴史がテーマの映画や司馬遼太郎の『燃えよ剣』などの歴史小説も読むようになっていった。

「もともと僕はあまり本を読めない人間でしたが、おばあちゃんが『勉強はしなくてもいいから、とにかく本は読みなさい。読書は“勉強”じゃなくて“趣味”なんだから、楽しいと思うものだけ読めばいい』と言っていたのを思い出して、しだいに歴史の本を手にとるようになりました。そうしたら、とても面白かった。マンガやゲームで蓄えた知識のおかげで、字を読んでいてもその情景が浮かんでくるんですよね」

ロバート山本さん インタビューカット
山本博/Hiroshi Yamamoto
1978年群馬県生まれ。1998年にお笑いトリオ「ロバート」を結成。テレビ番組『はねるのトビラ』のレギュラーに抜擢され、ブレイク。2011年のキングオブコントで優勝。近年ではプロボクサーとしての活動や、2018年に初の絵本『むちゃぶり かみしばい』(文芸社)を出版したことでも話題に。大の歴史好きとしても知られ、趣味の城巡りでは日本100名城を70以上巡っている。

高校卒業後はサラリーマンとして就職する予定で内定先も決まっていたが、友達から芸人の道に誘われて上京。お笑いの世界でガンガンのし上がっていこうと、自身を織田信長に重ねていた時期もあったという。

「でもすぐに、俺って信長じゃないなと気がつきました(笑)。それに、冷静に考えたら信長って色んな人に裏切られまくるじゃないですか。本当に切れ者で勇猛果敢ですけど、自分の思い通りに事が進まないと納得できないし、周りに無茶振りして成果を残した部下だけを重用するタイプだった。要は、自分が優秀過ぎて現場で動く人の気持ちが分からなかったんですよ」

そして山本さんはしだいに、信長のことを裏切った明智光秀の気持ちが想像できるようになっていく。

「子供の頃から、光秀が信長を倒しても天下なんて取れるわけないし、なんであんなことをしたんだろうとずっと疑問に思っていました。でも、たぶん光秀は信長に無茶振りをされ続けて精神的にも肉体的にも限界に達してしまった。『いつまでこんな命令を聞き続けないといけないのか』と嫌気がさし、考えの違いが浮き彫りになって本能寺の変を起こしたんだなと。僕もよく無茶ぶりされる側の人間ですから、光秀にはなんとなくシンパシーを感じてしまいます」

フジテレビのバラエティ番組『はねるのトビラ』でのレギュラー抜擢や2011年のキングオブコント優勝など、お笑い芸人としてブレイク。芸能界で多くの人と関わりながら仕事をするようになって実感したのは、“人間関係の大事さ”だった。

「パワハラ上司に悩まされたり、誰かに裏切られたりと、現代の人も戦国時代の人も人間関係で悩んでばかりなんですよね。信長のようにメンバーに徹底的にプレッシャーをかけることで成果を上げる人や、晩年の秀吉みたいに『俺はめちゃくちゃ金を持ってるぞ!』と誇示することで周囲を従わせている人もいます。それは一般企業でも芸人の世界でも同じ。歴史を学んでいるとそういう人がどんな末路を辿るのか何となく分かりますし、自分はそうなっちゃいけないと、周りの人たちへの感謝や気遣いもできるようになると僕は思います。

それに、大体の合戦は戦う前から勝負が決まっている。いかに根回しをして、戦わずして勝つか。現代のビジネスにも通じますよね。組織論、リーダーシップ論といった観点から見ても、歴史から学べることはたくさんあって、経営者に歴史好きが多いというのも納得です」

あの映画に自腹でエキストラ参加!?

今ではお笑いの仕事のほかに、歴史をテーマにした番組などから声がかかる機会も増えてきているという山本さん。

「僕にとって、歴史は純粋な趣味。もちろん番組に呼ばれたら一生懸命やりますけど、『歴史を仕事につなげるためにもっと勉強しなきゃ!』みたいな考えはありません。学生時代と同じで、“勉強”という意識にを持つと、歴史が嫌いになってしまう気がして。あくまで趣味として、歴史を楽しんでいきたいと思っています」

なお、山本さんは歴史好きが高じて、2017年公開の映画『関ヶ原』(原田眞人監督、岡田准一主演)の撮影にボランティアエキストラとしてこっそりと参加している。

「滋賀がロケ地で、自腹で新幹線のチケットを買って行きました。現場でロバートの山本だと気づかれてパニックになったらどうしよう、と内心ドキドキしていたんですが、結局撮影中はスタッフにも周囲のエキストラの人にもまったくバレず、撮影が終わった後にひとりのご老人から声をかけられただけでした。がっつり顔も出していたのに(笑)」

山本さんの私物「関ケ原」のDVD
山本さん私物の映画『関ヶ原』のDVD。山本さんは石田三成槍隊の兵士役だった。「石垣から顔を出すシーンを何度も撮りましたが、本番の映像ではカットされていました」

ちなみに、山本さんは同じ原田眞人監督の『燃えよ剣』(2020年公開)にもボランティアエキストラで参加。旧幕府軍の死体役を演じたそうだが、完成した映画にはまったく映っていなかったとのこと。

ロバートのメンバー、秋山竜次さんが今年の大河ドラマ『光る君へ』に出演し、山本さんと歴史好き芸人のユニット「六文ジャー」で活動をともにするはんにゃ.の金田哲さんも同作に出演している。

「いつか映画やドラマで僕にも正式なオファーが来れば、なんて思っています。エキストラじゃなくて(笑)」

TEXT=古澤誠一郎

PHOTOGRAPH=鈴木大喜

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