40年以上にわたってコイン販売専門店を経営し、日本におけるアンティークコイン収集の第一人者である大谷雄司氏が、資産性、アート性、歴史的価値などその多様な魅力を解説してきたこの連載。最終回は、大谷氏とっておきの秘話を公開!
数奇な運命をたどったコレクター垂涎の金貨
アメリカで、1933年4月、世界恐慌対策として金本位制が停止された。よって、同年発行の20ドル金貨はすべて財務省の金庫に保管されることとなるが、その後、財務局の管理官が十数枚を持ちだしてディーラーに売却していたことが発覚。FBIが大半を回収したものの、数枚の行方はわからずじまいになってしまった。
1954年に開催されたエジプト・ファルーク王のコインコレクションのオークションに1933年銘の金貨が出品されていることがわかり、アメリカ政府が返還要求をするもエジプト政府はこれを拒否。出品は取り消しとなり、金貨は消息不明になった。
「この金貨を買わないかとイギリスのディーラーから私にオファーが来たのは、1995年のこと。価格はなんと1億5000万円。購入は諦めましたが、そのディーラーは翌年、コインの販売容疑でFBIに逮捕されることに。後にこのコインは金庫から持ちだされたのではなく、アメリカ政府がファルーク王に贈呈したものだったことが判明。2021年にオークションに出品され、約21億円という記録的な価格で落札されることになりました」
さまざまなドラマが潜むアンティークコインの世界は奥深く、魅了されずにはいられない。
Yuji Otani
1978年に外国貨幣の鑑定・販売を手がけるダルマを設立。自身も数千枚のコインを持つ収集家であり、著書に、『あなたも虜になる アンティークコイン』(幻冬舎)等がある。