カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。第22回は前回に引き続き特別編として、堀江氏が今もっとも興味を持っている「AI(人工知能)」をピックアップ。医療も美容もガラリと変えてしまうポテンシャルを秘めたAI技術の現状と未来を、AI分野における日本のトップランナーであるELYZA曽根岡侑也代表と語り合った。連載「金を使うならカラダに使え!」とは……
ゴールドラッシュにおけるツルハシとジーンズは、AI時代ではGPU。一番の勝者はNVIDIAかな。
堀江貴文(以下堀江) 前回お会いしたのは1年前?
曽根岡侑也(以下曽根岡) はい。ChatGPTのような生成AIの元となる大規模言語モデル(LLM)がすごいらしいと噂が広がった頃で、ここまでのパラダイムシフトが起こる前でした。
堀江 その時に詳しく聞いていたから、AIブームに乗れた。本当にラッキーでした。曽根岡さんから見て、ChatGPTはどこがすごかったんですか?
曽根岡 人の言語を学んだあと、ポストトレーニング(事後学習)を徹底的にやったことです。人が出したあらゆるプロンプト(指示)に対して対応できるように強化学習したのです。
堀江 OpenAIが、多くのギグワーカーを雇い、プロンプトに対するGPTの回答を評価して、点数化して丁寧にチューニングしたそうですね。
曽根岡 だから1億人、2億人がGPTを使っても1件も炎上していない。成果が出ています。
堀江 今のGPT4は賢すぎるので、むしろ人に合わせるようにカスタマイズされていますよね。その前のGPT3で人の知性を超えて、シンギュラリティは来ちゃったと思っています。
曽根岡 同感です。OpenAIが強く信じているのは、「スケーリングの法則」。モデルサイズが大きくなるほど、そして多く計算して学習するデータ量が増えるほど賢くなるというシンプルな原理で、それを元にGPTを進化させている。モデルの複雑さを示すパラメータは、GPT2は約15億ですが、GPT3では100倍以上の1750億。その中間の600億パラメータ前後を超えると、人間並みに推論能力が上がります。
堀江 猿と人の知性の違いと同じですね。猿も人も、脳を構成する神経細胞は大差ない。人は脳が巨大化したから、非線形的な成長が起きただけ。人の脳の複雑さは、600億パラメータくらいじゃないかな。なかには400億の人もいるだろうけど、今の説明を聞くとそういう人もたくさん計算して文章を多読したら、賢くなれるかもしれません。僕が散々バカにしてきた公文式も、案外有効なのかも。
曽根岡 MetaのAI研究組織がリリースしたLLaMAは、70億から650億パラメータまでの言語モデルが用意されていますが、70億でもしっかりトレーニングすれば、GPT3を上回る性能を発揮できるようです。
堀江 AIの強化学習の仕組みが人の教育にも応用できそうですね。今後、AIが発展するうえで、懸念材料はありますか?
曽根岡 GPU(画像処理装置)が足りなくなる恐れがある。AIの学習にも活用にも、AIを支えるクラウドコンピューティングにも大量のGPUが不可欠で、実際、GPUが得意なアメリカの半導体メーカー、NVIDIAのA100というチップは、今注文しても納品まで8ヵ月かかるそうです。
堀江 GPUは特許の塊だから、参入は容易ではありません。AIにおけるGPUは、ゴールドラッシュのツルハシとジーンズ。一番の勝者はOpenAIではなく、NVIDIAかもしれない。
曽根岡 GPU不足の影響はすでに出ています。OpenAIはアカウントごとに利用制限をかけていますし、マイクロソフトが提供するAzure Open AI Serviceという企業向けのサービスには、もっと厳しい制限があります。
堀江 GPT4の個人サブスクモデルは今月額20ドルだけど、すぐに100ドルとかになりそう。それでコスパはどうだっけという話が次の段階で出てくる。
曽根岡 ベンチャーキャピタル大手のアンドリーセン・ホロウィッツのブログが面白くて勉強になります。彼らは、GPTなどの大規模言語モデルビジネスの市場構造を4つのレイヤーで説明している。最下層がNVIDIAのようなチップメーカー。その上にクラウドコンピューティングのプレイヤー、OpenAIのようにLLMを提供するプレイヤーが連なり、最上層にユーザーに近いアプリケーションレイヤービジネスがあるという構造です。そして最上層レイヤーの売上の40〜50%は、より下層のレイヤーに吸われているそうです。
堀江 アップル税より高い。
曽根岡 今後、こういう収益構造を踏まえたうえで、勝ち筋のあるアプリケーションをつくる必要があります。
堀江 要はカスタマイズですよね。GPTは雑談が得意だから、独居老人の話し相手にはいいと思う。それならクラウドではなく、端末にGPUを1個だけ内蔵したエッジAIで足りる。
曽根岡 高度な判断がいらないなら、30億パラメータとかの小さなモデルで実現できますね。
堀江 今後をどう展望しますか。
曽根岡 AIは3段階で進化しそうです。まずは複数の入力情報を一度に処理するマルチモーダルAI化がいっそう進みます。
堀江 脳の五感情報の処理と同じことを、AIがやるんですね。
曽根岡 次に、2023年中には確実に、インターネットとかバーチャルな空間で人が入力した内容を実行できるようになります。例えば「東京駅周辺でご飯が食べたい」と入れると、予算内で高評価の店を調べるだけではなく、予約までしてくれる。
堀江 パーソナルアシスタント的に振る舞えるわけだ。
曽根岡 大きくふたつの流れがあり、OpenAIは世界中のアプリとAIを接続しようと試み、OpenAI出身が立ち上げたAdeptはAIにブラウザーの自動運転をさせようとしています。
堀江 3段階目は?
曽根岡 ロボットとの接続です。「机の上でコーラをこぼした」と入力すると、AIが自分で行動設計して、ロボットが掃除道具を使って机をキレイにしてくれる。ネットのようなバーチャルな空間を飛び出し、現実社会でAIが行動するようになります。
堀江 世の中のペッパーくんが大復活しそうですね。
Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、アプリのプロデュース、会員制オンラインサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。『不老不死の研究』(幻冬舎)が発売中。
Yuya Soneoka
1990年東京都生まれ。2013年東京大学工学部システム創成学科卒業。AI研究の拠点・東京大学松尾研究室で共同研究のプロジェクトマネージャーやNLP講座の企画・講師を務める。2018年ELYZAを設立。未踏クリエイタ。2020年より松尾研究所取締役を兼任している。
■連載「金を使うならカラダに使え!」とは……
カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する連載。