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2023.07.04

織田信長が目指していた世の中の"その後"とは

日本の歴史において、誰もが知る織田信長。歴史に名を残す戦国武将のなかでも、信長は極めて特異な人物だった。交渉力、絶体絶命のピンチを乗り越えるアイデア力、咄嗟の判断力……。信長の奇想天外で機転の効いた行動は、日々無理難題を強いられるビジネスパーソンのヒントになるだろう。今回は、亡き織田信長が目指していた、本当に創りたかった世の中についてのエピソードをご紹介! 作家・石川拓治さんによるゲーテの人気コラム「信長見聞録」を朗読という形で再発信する。

身分という世間の常識は無意味だ

現代風の言葉を使えば、信長は現実主義者だった。現実主義の元祖マキャベリが没したのは信長の生まれる7年前だが、もちろんマキャベリの影響を受けたわけではない。信長の現実主義は、ある意味で、マキャベリより徹底的だった。マキャベリは当時の多くの欧州人と同様に神を信じていたようだが、信長は神も仏も信じなかった。この時代の日本において、それはかなり異質な生き方だった。

『信長公記』を読むと、当時の人々がいかに神仏や天道を心の拠り所にしていたかがよくわかる。人の運命を左右するのは天の理であり、不慮の死や災難の原因はその人の過去の行いのせいであるという記述がいたるところで繰り返されている。一向宗を始めとする宗教勢力が戦国武将を悩ませたのは周知だが、その戦国武将自身も神仏の加護を祈るのが普通だった。上杉謙信は毘沙門天(びしゃもんてん)を熱心に信仰したし、武田信玄の信玄はそもそも出家して得た法名(ほうみょう)だった。

彼らが神仏や天道に頼ったのは、人が理由を求める生き物だからだ。生きている限り死は隣にある。今も昔もそれは同じだけれど、彼らが生きたのは、それを朝に夕に意識せずにはいられない世界だ。世の中には死があふれていた。その死の説明が必要だった。理由がわからなければ、避けようがないからだ。死が日常の世に生きた彼らにとって、信心は救いだった。

信長はそれをしなかった。自らの眼と手で確かめ、考えて納得したものしか信じなかったからだ。人知を超えたもの、不可思議なものを尽(ことごと)く否定したわけではない。むしろ、好奇心を燃やした。だからこそ、大蛇が棲(す)むと人が言えば池に潜り、焼けた鉄で正邪(せいじゃ)が判定できると人が信じれば、自ら灼熱の鉄を握った。彼がキリスト教に寛容だったのも、宣教師の持つ自然科学の初歩的知識ゆえだろう。地球が球体であること、雨が降る仕組みを信長はすぐに理解したという。ただデウスの神は信じなかった。宣教師にもその存在を証明できなかったからだ。

あらゆる事柄について、他人の言説を鵜呑みにすることがない。自らの頭で考える過程を経なければ何事も信じない。そういう頑なな人間は、いつの世にも稀に存在する。信長がそのなかの巨星となったのは、彼が戦の時代を生きたからだ。

戦という厳しい現実が彼の現実主義を鍛えた。そしてその現実主義が日本の形を決めた。信長なくして、あの時代の誰が天下統一などという荒唐無稽(こうとうむけい)な夢を抱けたか。筆者がいつも考えるのは、その後のことだ。

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Takuji Ishikawa
文筆家。1961年茨城県生まれ。著書に『奇跡のリンゴ』(幻冬舎文庫)、『あいあい傘』(SDP)など著書多数。

TEXT=石川拓治

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