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2023.04.29

米名門大飛び級の神経科学者に聞いた! 子供の早期教育ってあり? なし?

応用神経科学者であり、大手企業やNPO、教育機関とも連携し、新しい学び方、生き方、文化作りにも携わっているのが青砥瑞人氏。4歳の娘の父でもあり、自ら教育熱心なタイプと語る青砥氏に、最新の脳に関する知見を踏まえた早期教育のあり方について話を伺った。短期連載の第1回。

青砥瑞人インタビュー

Unsplash/Milad Fakurian

早期教育で大事なのは、ドーパミン性のモチベーションを伸ばすこと

早期教育の良し悪しを議論するのはナンセンスと考えています。子供の成長機会を与えるという意味での教育は、どの時期であったとしても必要でしょう。しかし、子供の心、脳を無視した画一的な早期教育は、むしろ子供の脳の成長を阻害するともいえます。

個人的には、今は“超”が何個もつくくらいの変化が続く時代だと思っています。誰一人この先の社会がどう変わるかは予測できません。

そんななか、みんながみんな同じようなことを学び、同じようなレールを生きる学びのあり方は適応的ではないと考えています。大量生産・大量消費の時代はそれが求められていたのかもしれませんが、世界は刻々と変化しています。そして、教育のあり方も変化しないとおかしい。僕なんかが見ている教育の世界が正しいだなんて思い込んでしまうことのほうが恐ろしいんです。

早期教育の象徴としてのお受験。お受験がいいとか悪いとかではなく、その学びに対して、子供がどう向き合っているかがポイント。子供が知ること、学ぶこと、成長することを楽しんで、お受験に臨んでいれば問題ないでしょう。しかし、子供の純粋な好奇心を抑圧し、なおかつ望んでもいない学びばかりを押しつける教育は、人類が持つかけがえのない能力を奪っていることになりかねません。

神経科学的に見ると、子供が学ぶモチベーションは、関わる神経伝達物質の違いにより、ノルアドレナリン性とドーパミン性に大きく分けられます。

ノルアドレナリンは、「やらなければならない」といった強い使命感を感じたときに分泌されます。親から「(お受験の勉強を)やりなさい、やりなさい」と強く言われたとき、子供の脳内ではノルアドレナリンが分泌されています。こればかりだと受動的で「やらされている感」が強くなり、主体的な学びが嫌いな子供に育ってしまう恐れがあります。

一方、ドーパミンが分泌されるのは、「やりたい!」「知りたい!」「実現したい!」という自分発信で前のめりの願望や欲求を抱いたとき。そのとき脳の奥にあるVTA(腹側被蓋野)という部位から、ドーパミンがふんだんに分泌されています。すると、主体的で積極的に学ぶことが好きな子供が育ち、いずれ「これだ!」というものに出合ったとき、爆発的な集中力と学習力でどんどん成長していく可能性が高くなります。

青砥瑞人

青砥瑞人/Mizuto Aoto
DAncing Einstein CEO、応用神経科学者。日本の高校を中退後、脳の不思議さに惹かれてアメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に入学し、神経科学学部を飛び級卒業。ドーパミン(DA)が溢れるワクワクが止まらない新しい学び体験と教育・共育をデザインすべく、2014年にDAncing Einsteinを創設。脳の知見を医学だけではなく人の成長に応用し、AI技術も活用するNeuroEdTech®とNeuroHRTech®という新しい分野を開拓。同分野において、いくつもの特許を取得した脳神経発明家としての顔も持つ。

親に求められるのは、新しくリアルな環境を子供に提供する努力

ドーパミン性のモチベーションを大事にするために、親に求められるのは、子供の未知の探索を支援、応援すること。

ドーパミン性のモチベーションが万能というわけではありません。行き過ぎれば中毒です。でも、今の子供の学びの環境は、あまりにドーパミン性の学びが抑圧されているように感じます。そして、このドーパミン性のモチベーションもさらに大きく2つに分類されます。

ひとつは、既知のものに向かうWANTの感情。もうひとつは、未知のものに向かうSEEKの感情。この2つの違いを意識して子供と接することが大切。特に、SEEKの感情を支えることが、より一層重要です。

WANTの感情は、それ自体はダメではありませんが、ゲームやYouTubeといった分かりやすい面白さ、楽しさにドーパミンが放出されます。すでに味を占めたものへのドーパミン性です。安心安全で快楽性をもたらす、そのためのモチベーション。こればかりを促進すると、新しい学びに向かいづらくなってしまいますから、付き合い方に注意する必要があります。

一方、未知に向かうSEEKの感情は極めて重要です。未知に対し、脳が、心がそちらへ向かうように仕向ける能力を「好奇心」と呼び、新たな学びを促します。本来、子供は圧倒的にこの好奇心が強い。新たなものに出合うと好奇心反応をもたらし、極めて高い集中力と学習力を発揮します。そうした脳の使い方を小さい頃から育むことが、早期教育で何よりやるべきことであると僕は信じています。お受験にこの能力を阻害させるほどの価値があるとは個人的には思っていません。

好奇心がなぜ脳を育むのか? それは好奇心が発揮される場面は、その子にとっての新奇性(ノベルティ)が多いことが多く、その環境へ適応させようとする力(アダプタビリティ)も育まれるからです。

単に、新たな学びに対し、高い集中力と学習力で、主体的に学ぶようになるだけでなく、環境に対して柔軟に対処する力、認知的柔軟性を高めてくれる可能性が高くなるのです。

我が家には4歳になったばかりの娘がいますが、このドーパミン性SEEKベースの好奇心を大切にしています。そうすると、子供は自分から「やりたい!(学びたい!)」と言います。英語も自分で学びたい!と言いますし、フラダンスも自分でやりたいと言いました。100円ショップでお受験的なドリルをやりたい!と熱烈にお願いされ買い与えると、本当に集中して取り組んでいて、びっくりします。お勉強とは思っていなくて、楽しんでいるようです。

では、なんでもかんでも子供の意見だけに従っているかというとそんなことはありません。僕はノルアドレナリン性も大切だと思っていて、大人の強制性が必要な場面もあります。新たな環境に渋る娘に対して、大丈夫だよ、とポンと背中を押すように、強制的に新たな環境にトライしてもらう時に使っています。

自分にとっての未知がいっぱいで、全く知らない世界は、子供だって警戒して、なかなか踏み込もうとしません。しかし、子供が単に自分の好奇心や興味だけで動いていると、限られた世界でしか広がらない。だから親として、もっと新しい好奇心の表面積を拓くべく、時に心を鬼にして、子供に新しい体験を促します。

我が家はコロナ禍で東京から千葉に移住しましたが、コロナも落ち着いてきたので、今年4月から「青砥家は遊牧民になる」と宣言しています。4月から1ヵ月間沖縄に住み、5月は千葉に戻り、6月は北海道(または長野) に住む予定です。

これも、娘に新しい環境を体験させるための試み。事前に、娘を妻の実家がある新潟の、いとこが通っている幼稚園に試験的に入れてみました。預けた日の朝は「いやだ、いやだ、帰りたい」と言っていましたが、午後には新しい友達を何人も作り、「楽しかった」と言いながら笑顔で帰ってきました。

沖縄でも同じでした。今度はいとこも誰もいない場所です。そんな環境にポンと放り込まれる。そりゃ大人だって大変。娘も当然、断固拒否。僕や妻にしがみつき、離れようとしない。それを半ば強制的に、妻も僕も心を痛めながら園に預ける。しかし、その日のお迎えでは、仲良くなった友達とニコニコしながら、何回もタッチして、帰りたくなさそうなくらい、その場に適応していて、楽しんでいて「ああ、すごいなぁ」と感心させられました。

この変化の時代、どんな変化をも楽しめる、そんな子になって欲しいなぁ。そんな風に我が家では考えているのです。“遊牧民生活”に性格的に向いていないなら考え直そうと思いましたが、娘なりに新しい環境を楽しんでいた様子だったので、安心しました。

好奇心に蓋をせず、新たな出合い・発見を楽しみ、共に味わう

ドーパミン性のSEEKモチベーションは、その神経回路を使うことによって育まれます。やってはいけないのは、子供の好奇心に親の狭くて古い常識でストップをかけること。

そもそも好奇心とは、未知のものを「知りたい!」と思う感情。そこでも脳内ではドーパミンが分泌されています。

例えば散歩をしていて子供が「これって何?」と興味を持ったら、それが単なる石ころでも昆虫でも、立ち止まって一緒にしゃがみ込み、「何だろうね」としばし探索してみてください。

「それはただの石ころよ。こんなところでぐずぐずしていたら、塾の時間に遅れるわよ」などと、せっかくの好奇心に蓋をするのはやめてほしいのです。まず止めないこと。できれば、一緒に興味をもって楽しんで、お互いに感じたこと、考えたことなどを共有し合うことが望ましいです。すぐに答え合わせをしようとせず、本人の考えや想像を一緒に楽しめると、考えることや想像することも楽しめるようになりやすいでしょう。

また、新しい挑戦や環境では、成功・失敗フィルターをなくし、成長フィルターを意識して使うことが重要です。そもそも新たな挑戦ができたこと、それ自体を讃える。そうすれば、挑戦自体が価値あることだと子供は学んでくれます。うまくできたか、できないかだなんて、まずはどうでもいい。新しい挑戦をしていれば当然失敗しますし、そこで失敗にばかり囚われている人は、継続できずに、挑戦を嫌う脳を育んでしまいます。

あとは、ぐずぐずしたり恐れたりしていても、それを否定しないこと。むしろ共感してあげることが大切です。挑戦しようとする子供は、いろんな不安を感じ、緊張し、そしてそんな自分をネガティブに感じたりします。けれど、「パパやママも4歳の時はそんな挑戦できなかったし、今でも緊張するんだよ」と共有すると、安心して挑戦しやすくなったりします。この子供なりの葛藤状態を否定せず、受け入れてあげることが重要です。

未知に対して向かっていき、そこから得られる喜びや学びを子供と一緒に味わい、話すことも大切です。我が家の娘も、千葉の慣れた大好きな幼稚園に行きたいWANTから、沖縄の園に行き、新しい楽しさ(身体を動かすアクティビティ)や新しい友達ができた喜びを感じています。

沖縄で、大好きなブランコで遊びたかった(WANT)けれど、パパに半ば強制的に連れてこられた干潮時の浅瀬で、海の生き物といっぱい出合う。その楽しさに出合えた喜び(SEEK)。こんなことを娘と対話しながら、新しい発見、出合いの価値を味わっています。

こんな風にして育まれるボトムアップ型のモチベーションである好奇心は、VTAからのドーパミンを合成し、変化の時代もきっとポジティブに乗りこなしてくれるように思います。むしろ変化の時代にワクワクしっぱなしかもしれません。そうして脳を育んでいると、トップダウン型のゴールや目的を立てた際のモチベーションをも高めてくれます。

なぜならゴールや目的を脳で作るのは前頭前皮質ですが、その指令に伴なってモチベーションを高めるのはVTAからのドーパミンだからです。どんなに頭でっかちで崇高なゴールや目的を掲げようと、SEEKの感情が育まれていない限り、表面的なモチベーションであり、本質的なモチベーションが高まらないことが多いのです。好奇心に蓋をしていると、ゴールや目標、目的を掲げてもワクワクできない大人になってしまうのです。

※第2回へ続く

TEXT=井上健二

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