体全体のバランスを整えることを目指し、天然素材から作られた生薬を用いて養生を提案する漢方医学。東京・渋谷の漢方薬店「LAOSI」にて、睡眠の質を高めるためのカウンセリングを体験した。【特集 睡眠投資2026】

漢方の力で「睡眠改善」はできるのか
代々木公園にほど近い東京・渋谷の“奧渋エリア”。メインストリートから一本入った路地沿いに「LAOSI」がある。国際中医師免許をもつ輿水千波さんと鍼灸師の資格をもつ橋本明子さんが、体と心を整えるための養生提案を行う漢方薬店。とはいえクリニックや薬局のようなかしこまった雰囲気はなく、まるで洒落たアートギャラリーを訪ねたかのよう。店内のテーブルや棚には漢方薬や薬膳茶、健康食品などのプロダクトが美しくディスプレイされている。
「初回のカウンセリングは、お店で直接お話を伺うところから始まります。ご来店いただいた際にご記入いただくカウンセリングシートをもとに、お客様との対話を通して体と心の健康状態を把握していきます」(輿水さん)
店頭で記入したカウンセリングシートを見てもらいながら、「眠りが浅く、翌日の午前中も眠気が続いてしまう。睡眠の質を向上させたい」と、最近の悩みごとを相談。輿水さんはメモを取りながら、日々の生活についてあれこれと尋ねてくる。「何時頃に寝ることが多いですか」「歯ぎしりをしますか」といった睡眠に関することのほか、「スポーツをしていますか」「お酒はどのくらい飲みますか」「花粉症はありますか」など幅広い内容。病院の診察のようなかしこまった雰囲気はなく、気ままなおしゃべりといった印象だ。
輿水さんの柔らかな話し方に、初めての漢方相談ながら緊張することはまったくなかった。さらに、来店時には全員に、その日の天候や気温に合わせてセレクトされた試飲用の薬膳茶が振る舞われる。一口いただくと、ホッと心が落ち着いていくのを感じた。
その日セレクトされた薬膳茶は「CALM」。選び抜かれたスパイスハーブの数々が、暑さと日々の緊張感をほぐし、リラックスさせてくれたのかもしれない。
舌と脈を診れば、不調の原因が分かる!?
「カウンセリングでお客様の悩み、医学用語でいう“主訴”を聞いた後で舌診を行います。舌診とは、舌の色や形、舌苔やしわの状態などを観察して体の状態を推測する東洋医学のアプローチ方法。たとえば、舌の赤みが強い場所によって、体のどこに問題があるかが推測できます。では、さっそく診てみましょうか」(輿水さん)
舌診の結果、舌の中央部は乾き気味で、周囲に赤みが多い。「ストレスによって自律神経が過敏になっている状態」だと推察されるという。自律神経の不調は睡眠の乱れを引き起こす大きな原因。さらに「舌の奥に舌苔が見られる」とのこと。食べ物の消化不良の傾向があり、「胃腸が弱まっている可能性がある」という。
舌診に続いて、鍼灸師の資格をもつ橋本明子さんが脈診を行う。脈診とは手首の脈に触れて拍動の強さ、早さ、硬さ、太さなどを測り、体の状態や不調の有無を調べる方法。東洋医学では欠かすことのできない重要な確認方法だ。
「強めでしっかりとした脈ですね。ただし、弦脈です。弦脈とは弓の弦のようにピンと張った硬い脈のこと。筋肉は疲労がたまると硬くなりますが、脈も同様に硬くなるのです。ストレス過多の生活が続き、常に気が張った状態になっているのではないでしょうか」(橋本さん)
健康には気、血、水のバランスが重要
自分でもストレスが多く、それが睡眠の乱れを招いていると感じていたが、やはりその通りだった。しかも問診、舌診、脈診という3つの東洋医学的な見立ての結果なので、とても納得感がある。とはいえ、ストレスは多くの現代人が抱えているもの。漢方の力で改善することができるのだろうか。
「東洋医学では気、血、水(津液)の3つを、人間の体を構成する基本的な要素と位置づけています。気は体を守り動かすための源となるエネルギー。血は全身をめぐって体の隅々にまで栄養を運ぶとともに、ホルモンバランスの調整を行います。そして水は、リンパ液をはじめ全身にある水分のこと。免疫防御や潤いと大きな関わりをもっています」(輿水さん)
この気、血、水のバランスが保たれることで、人は健康な状態を維持できる。逆にバランスが崩れてしまうと、ストレス過多の状態が続いたり、不調を引き起こしたりと、不健康な状況を招いてしまう。
「漢方薬は気、血、水のバランスを整えるために、自然からの恵みである植物や鉱物などから作られた生薬を用います。ただし、漢方薬を服用したからといって、それだけで健康になるわけではありません。健康な体のベースとなる食習慣や休息、睡眠など、土台を整えていくことが大切です。LAOSIではその方のご状態やご予算に合った漢方薬や健康食品をおすすめするとともに、その方に意識していただきたい食事や睡眠の提案も行っております」(輿水さん)
この日、「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」という漢方薬と鹿茸製剤(ろくじょうせいざい)をすすめられた。コントロールできないイライラを抑え、ストレスを軽減する効果が期待できる。さらに、「抑肝散加陳皮半夏」には胃腸の働きを整える作用もあるという。「胃腸が弱まっている可能性がある」という舌診の見立てを加味して、この漢方薬を選んだそうだ。鹿茸製剤は、滋養強壮だけでなく、体の土台をしっかりさせて、ストレスに負けない体づくりの原動力になるらしい。
カウンセリングの最後にお灸を体験。胃腸の不快感や乗り物酔いを抑える手首のツボ「内関」に火をつけた灸を載せる。約5分という短い時間だったが、体があたたまり、血行がよくなったように感じた。お灸は自宅でも手軽に行えるので、漢方薬とともにこれからの生活に取り入れていきたい。









