日本独自の医学で内側から不調をコントロール。漢方の根本概念とともに、男性が気をつけるべき“臓腑”をチェック。【特集 男の美容最前線】
リズムを司る陰陽。己を知りバランスを保つ
中国古来の伝統医学が日本に伝わり始めたのは5〜6世紀頃。以後、その時々の“最新の”中国医学を取り入れつつ、日本の風土や日本人の体質等に合わせて独自の発展を遂げ、確立したのが「漢方」だ。自然科学に裏付けされた西洋医学とは異なり、身体の不調を内側から根本的に治す、個に根差した漢方療法は、ウェルネス志向の高まりとともに昨今海外でも注目されつつある。
「漢方では、宇宙の万物すべてが陰と陽に分かれており、相反するふたつの気が一定のリズムで変化を繰り返しながら均衡を保つことで、世界が成り立っていると考えます。この“バランス”と“巡り”がキーワードです」
そう語るのは日本薬科大学で特任教授を務め、漢方にも精通している石川泰弘氏。この陰陽説は、人間の身体の状態や治療にも用いられる。加えて、人の身体を構成する「気・血・水」、体質や症状の現れ方など個々の状態を表す「証」という概念を指標に、不調の原因を探りながら処方を決めていく。
「気・血・水の3要素が体内に充実し、正常に巡ることで健康が維持されます。生活習慣や環境変化、ストレスなどにより3つのバランスが乱れると、生命活動の要である『五臓六腑』をはじめ、心身にも影響を及ぼし症状が現れるということです」
体調は「八綱弁証」「臓腑弁証」など、独特の身体の捉え方を用いて判断するという。
「例えば、加齢などによって活力が見られなくなった状態を『腎虚(じんきょ)』というのですが、ここで示す腎は臓器そのものではなく生命力といった概念的なもの。白髪や老眼、生殖機能の異常も腎虚の代表的な症状とされ、男性の艶にも通ずることかと。この場合、西洋医学では病巣がターゲットになりますが、漢方では腎虚へ対応する漢方薬を処方し、バランスを整えていきます。ある意味、漢方は自分の体質や歴史を解き明かすようなもの。身体の改善には、自身を知ることが大切なんです」
生体を維持する3要素「気・血・水」概念
バランスの崩れを知り体調を見極める「八綱弁証(はっこうべんしょう)と論治」
生命活動の中核を成す「五臓六腑」概念
【肝】
血を貯蔵し気を巡らせる、いわば臓器や器官のエネルギー源かつ司令塔。新陳代謝や排泄などをコントロールする役割を持つ。自律神経や情緒を統制するなど、精神の安定化にも作用。
【心】
五臓の中心に位置し、肝から送られてくる血を全身に循環させ、精神や意識の水準を保つ重要な柱。覚醒や睡眠のリズムも調整している。
【脾】
食物を消化吸収し、気・血・水を作りだす役目を担う。血の巡りをなめらかにし出血を防ぐほか、四肢や筋肉の形成、維持などにも影響を与える。
【肺】
全身の気と呼吸をコントロールし、水を全身に届けて身体に潤いを与えるのが肺の役目。また、肌をも潤わしバリア機能を保っている。
【腎】
人の成長や発育、アンチエイジングに関わる腎は、不調になると老化現象が起こりやすくなる。ほか、水分代謝の調整、思考力や判断力、集中力の保持を司る。
腎を補う代表的な漢方薬
艶を保つためにも意識したい「腎」
「腎」は生殖や成長・発育ホルモン、内分泌系、免疫機能とも深い関わりを持つ、いわば“生命力の源泉”。
「健忘や脱毛、頻尿といった加齢の悩みは腎から発せられる危険信号。活力が見られなくなったこれらの状態を『腎虚』と呼びます。生きる力を養うためにも、加齢に伴う症状を感じ始める前から腎の予防ケアを心がけるとよいと思います。疲労や倦怠感の改善にもつながります」(石川先生)
「捕中益気湯(ほちゅうえっきとう)」
虚弱体質や疲労倦怠に用いられる養生処方。胃腸の消化や吸収機能を整えてくれる。
「八味地黄丸(はちみじおうがん)」
身体を温め新陳代謝を促す生薬を調合。冷えやむくみの症状が見られる“寒がりタイプ”に。
「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」(※)
6つの生薬から構成され、身体のほてりやのぼせ症状がある“暑がりタイプ”に多く処方される。
「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」(※)
八味地黄丸をベースとし、より症状が重い人向けに、2つの生薬を追加した漢方薬。
※上記2つには処方が必要になります。